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「ユーマ――おぬしは、あの惑わしの砂漠を超えてきたというのか?」
アッパルプイが怪訝そうに言う。
そう、アッパルプイがやってきた森の真反対、風の遊び場の更に奥には、惑わしの砂漠というエリアがあり、主人公はそこからやってきた設定だ。
水が無いのに霧が立ちこめる不思議な砂漠であり、ゲーム的には入ることが出来ないマップになっている。その奥は2への伏線として、これまた設定だけが存在している場所でもある。
主人公は記憶を失ってそこから現れたというのが、ゲーム冒頭にわかることだ。
アッパルプイたちをはじめとして、この国の人間たちは砂漠には近づかないので、興味津々といった様子。
「まぁ、たぶんそうなるんだろうな……すまないが記憶があいまいで」
とりあえず記憶喪失のフリをして誤魔化す。
主人公は記憶喪失の設定なのだから、一旦、それに乗っかって流れに乗るのが上策だと思う。とにかく今は情報が欲しい。
「うーむ……納得できんが……命の恩人には違いない。礼がしたいでな、村へ案内する」
アッパルプイに手を引かれ、森へ向かっていく。
改めてあたりを見渡してみるとやっぱり現実にしか見えない風景だ。
とてもゲームと思えない一方で、オレが書いた仕様書通りの地形が、否応なしにNEGIの世界だと主張してくる。
ゲーム内に入ったということを、実際に作った自分だからこそ、信じるしかない。
だが、そんなわけがないと、開発者だからこそ、強く思う。
ありえないんだ。
そりゃラノベやアニメで、ゲームの中に入るってのは、よく見かける設定だ。そういう作品を読んだことも何度もある。
だが、開発者だからわかる。
あれはあくまでフィクションだ。
処理負荷的に、そんなもの再現できるはずはない。
なぜなら、今オレが見ている範囲だけでも、とんでもないオブジェクトの描画数だ。
それも、写実調であり、うちのゲームのアニメ調の背景とは全く違う。映画のような写実調のCGなんて、うちの技術では出来ない。
だいいち、写実的にすればするほどデータ量が肥大化する。そんなものを動かせば、うちの会社のリースPCでは間違いなく処理負荷で止まってしまうだろう。
いや、どんなスパコンでも不可能だ。
書き出し(レンダリング)途中で固まったまま永遠に書き出せまい。
そもそもオレの作った仕様書では、この世界は自動生成ではない。
あんな遠くの山脈や雲まで詳細に設定していないのに、なぜ存在している?
だとするならここは何だ?
オレがもともとこの世界の人間だが、あたまがおかしくなって「元の世界」なんて言ってるだけ?
いや、それも違う。
リアリティがありすぎるし、知識が詳細すぎる。
自分が世界観設定を仕事でしていたからこそわかる。現実世界と同等のリアリティをもたせた世界観設定なんて人間には不可能だ。
いい意味での省略とウソが大事だが、オレの頭の中の「元の世界」の知識はそんなレベルではない。
「元の世界」の知識が根拠だから、矛盾して聞こえるかもしれないが……こればっかりは確信できる。あくまで感覚だが。
あるいは、遥か未来で水槽の中の脳が、この世界を見せつけられているというほうがよっぽどリアリティがある。完全にSFだ。
だが、そのくらいの科学力なら、現実を再現できるコンピューターもあるだろう。
そこに意識だけ飛ばされた……とすれば……こんなことをする神なんているとは思えないし、まだSFの方が納得できる。
とにかく、理由はなんだっていい。
帰らないと。