1の3 自分の作ったヒロイン
気が付くと、そこは広大な平原だった。
空気が高原のように澄み、慌てて吸い込んだ空気が肺に沁み渡る。その酸素が脳にめぐると、その状況の異常さがわかってくる。
北九州にあるはずのビルはおろか、海もない。工業地帯の上げている煙も、どこを見渡しても見当たらない。それに北九州ならどこかに海があるはずだが、それもない。
目の前に地平線が広がって、背後には大きな森。辺りには青々とした芝が広がる平原で、ところどころある背の高い草が風に揺れている。
この、異常なまでに牧歌的な光景はなんだ。
阿蘇や由布の山の中でも観れないような……人工物のない世界……
いや、待てよ……。
確か、気を失う前……急病になった気がする。それも、重大な……。
なら――
「オレは死んだのか……?」
言葉に出したら、ストンと腑に落ちた。
だって、そうとしか思えない。
こんな景色、現実のもののはずがない。
……現実じゃない?
ちょっと待て。
現実ではないものは、別にあの世だけとは限らない。
それこそ――
まさか。まさか。
いや、あるわけがない。そんなこと、あるわけが……
と、その時――
「助けてたもれぇ!」
びっくりするくらいのアニメ声が、背後から聞こえてきた。
「こ、この声は……!?」
オレは知ってる。
だってこの声は、大ファンの、杉宮みかるさん……あまりにも好きすぎて、ゲームのヒロイン役を熱望したくらいで……まさかその杉宮さんがいるのか!?
「杉宮さ……」
オレは反射的に振り向き――
「は?」
そこで固まった。
「そこのおぬし! 助けてたも!」
太陽を反射してキラキラと輝く小麦色の髪、透き通るほどのエメラルドブルーの瞳、小柄な体格に対してやけに露出度の高い真っ赤なビキニと、肩や腰は守られているのに他はさほど覆っていない鎧、そしてなにより、尖って横に伸びた耳――
「あ」
そういうこと、か。
森から走って来た少女。
彼女を、オレは知っている。
この子を見た瞬間、オレの中で鳴り響いていた「まさか」は、確信へと変わっていた。
「アッパルプイ……?」
「なに!?」
彼女は、オレの言葉に目を丸くした。
それは、当然だろう。
見ず知らずの人間に、自分の名前を当てられたのだから。
オレが彼女を知っているのには理由がある。
でも、そんなことってあるのか?
もしかしたら違――
「なぜわしの名前を知っておる!」
違わなかった。
もう間違いない。
アッパルプイなんて名前、オレの寝ぼけた頭の中以外で浮かんできて、それを名づける奴がいるとは思えない。
ここはゲームの中だ。
それも、オレが作ったものだ。
この草原も、「始まりの草原・風の遊び場」ということになる。
「な、なんなんじゃおぬしは! 見た事のないハイカラな格好をしおって……いったい何者じゃ!」