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いや、期間としては、企画から半年足らずで短かった。家庭用の主力タイトルだと下手すると三年とかやってるから、それに比べれば全然短い。
でも、濃い半年だった。
八年ゲームデザイナーをやってきたけど、自分で企画を立ち上げたのは初めてだった。この業界、十年やってても一度も名前がスタッフロールに乗ったことが無い人もいたり、チャンスが巡ってこない人も多い。
だから、自分としてはこの企画に賭けていた。
まったくの0からのIP(知的財産)で、自由にものが作れることに強い魅力を感じた。0から作るということは、それまでの積み重ねもないということだから、大変なのは間違いなかった。だが、楽しかった。
だからこそ、絶対に成功させたい。
考えうるウケそうな要素はたくさん詰め込んだつもりだ。ネタ要素が強くなったことで反発するメンバーもいた。特にラストに関しては賛否両論だった。
今の時代、どんなにいいものを作っても話題にならなければ、埋もれて消えてしまう。ディレクターとしての全責任をもって、押し切った。
あれは間違いではなかったと、自分では思っている。普通で無難になることは、ゲームが死ぬのと同じだ。
「……はは。本当に大変だったな……」
万感の思いが胸に去来する。
家庭用ゲームは、完成と発売に2か月ほどの開きがある。それに、実際にプレイヤーが自分の作ったゲームを遊んでいる姿を見ることもない。ゲームの規模が巨大化するにしたがって、担当範囲も細分化しているから、完成時の実感も薄い。
だから、普段はゲームが完成したからといって、感動したりはしなかった。
それだけに、自分の頬を涙が伝ったとき、オレは自分でも驚いた。
自分で企画し、脚本を書き、ディレクションするとこうも違うのか。
夢だったオリジナルゲーム『ナイトメア・エターナル・ギフト』。
それがついに完成する。
ゲームを作って来て、初めて……初めて感慨が湧いてきた。胸から何かがこみ上げてくる。
良かった。この気持ちを味わえただけでも、作った甲斐があった。
そう考えて、ビルドの実行ボタンを押し――
「え?」
視界が、揺れた。
ドクンと心臓が跳ねた。とてつもない不快感が胸からこみあげてくる。
なんだこれ。
立っていられなくなり、その場にうずくまる。
頭をよぎったのは、突然死のニュース。この業界で、突然死した人の話は、たまに聞く。
でも、まさか。まさかそんな。
近くで寝ているプログラマーに声をかけようとするが、声が出ない。
視界が黒くかげっていく。意識が、かすれていく。
心臓が止まって、血流が脳まで届いていないような、そんな感覚。
オレ、死ぬのか……? いやだ……まだゲームも……できたばかり……
死にたく……ない。
そんな思考も、力なく倒れた体が床に叩きつけられる音とともに消えた。