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「しかし……どうやって帰るのじゃ?」
「それは……心配ない」
最初は全く思いつかなかった帰還方法だが、いまは違う。
あのバグが入っている、マスター前のバージョンなら方法はある。
このゲームは内部的にはいくつかのエリア単位でデータが管理されている。例えば、魔王の城エリアとか、宝島エリアとか、そういったエリアごとにまとまったデータを持っているわけだ。
というのも、一度に大量のデータを読み込むと、ロード時間が長大になってしまう。そこで、エリアをいくつかの区分に分けることで、一度に読むデータを減らしているのだ。
そして、アッパルプイの村を含むこのエリアは、構成的には、他のあるエリアも含んでいる。
それは、「開発室」。
昔のゲームにはよくあった、ゲーム開発者たちがいる部屋だ。実際のゲーム開発室を箱庭にしたような作りで、開発者たちに話しかけると、裏話なんかを一言二言話してくれる、いわばお遊びでありファンサービス要素だ。
開発者の人数が膨大になった現代ではほとんど見かけないのだが、本作はコアメンバーが極めて少ないので入れてみた。
何にせよ、このあまりにもメタすぎる存在は、この世界においても異物なんじゃないだろうか。
逆にあそこ以外に、元の世界と繋がっていそうな場所など思いつかないし、万一繋がっていなかったとしても、実際の開発機材と同じものが背景として用意されている。最悪、それを使ってエンディングを変えることはできるはずだ。
ところで開発室は、たいていクリア後でしか行くことができない。
だが、本作はクリアするとバッドエンドで世界は滅亡する。そのため本作で開発室に行けるのは、クリアデータを読み込んで、初めからスタートし直したものに限る。
その都合上、開発室はアッパルプイの村から隠しゲートを通って移動する仕組みになっており、わずか一部屋とデータが軽いこともあってこのエリアに埋め込まれているのだ。
具体的には、行くことができない「惑わしの砂漠」の向こう側、見えない当たり判定で阻まれたその先にデータとしては置かれている。もちろんプレイヤーから見ることはできないし、特別なゲートからジャンプするような仕組みだ。
だから、クリアしていないオレたちはそこにいくことが出来ない。
しかし、これがマスター前のバグ入りROMなら話は別だ。