4の1 致命的なバグ
隣村と言っても、距離はそれなりにある。
麦畑を抜けて丘を三度超え、小川を二つ越えた先にイナズ村はある。
村の規模としてはアッパルプイの村とさほど変わらない。ゲーム的な視点で言えば、マヒの状態異常を消し去るマヒトールと、獣皮の盾、それから運を+1する「うさぎ足のおまもり」が手に入るポイントである。
イナズ村に着くと、アッパルプイは子どもたちに囲まれていた。
娯楽の少ない田舎町だ。同じ年頃の人間が現れれば、興味津々、遊びたくなるのが人間だろう。
「ええい、じゃから、わしは隣村のちょーろーじゃと言っておるじゃろうが!」
そんな口調なものだから、そういうごっこだと思われて余計に絡まれているアッパルプイをよそに、第一村人に話しかける。
「隣村からモンスター退治に来たものですが……」
「おお、こりゃありがてえ。前々から応援を頼んどった件じゃな。デカイ猪なんだが、だからこそ下手に村を離れられんでな……」
全国ではもう売ってないが九州ではまだ売ってる、とあるスナック菓子のパッケージのキャラクターに激似なおじさんが言う。まぁ、それを元ネタとして指定したのはオレなんだが……やりすぎたかな……。
ともあれカー……いや、農家のおじさんに話をつけ、フラグを立てたことで、イベントはつつがなく進行した。
彼の案内で村長と引き合されたオレたちは、暴れ猪が出るというポイントを教えてもらった。
村のそばにあるドロだまりで、よくドロ浴びをしているというのだ。
アッパルプイと村の雑貨屋で装備を整え、日が落ちないうちにそこへ足を向けた。
村のそばとはいえ、背の高いススキのような草が生い茂り、視界はあまりよくない。いつモンスターが飛び出してきてもおかしくないわけだ。
「……気をつけるんじゃぞ」
アッパルプイが木製の杖を手に辺りを警戒しながら先導している。
ビキニアーマーのせいで、蚊にくわれてしまっているが……うーん、これもこの服をデザイナーに指定したオレとしては心が痛む……。一応、設定としてはエルフは魔力を肌から吸収するので薄着である、という理由があるんだが……。
なんにせよ、この辺りの敵の出現データテーブルは、アッパルプイの村と全く変わらない。大した敵は出てこないので、ボスの暴れ猪にだけ気を付けていればいい。
「あんまり気負いすぎないでも大丈夫だぞ」
「待て! 今音がした!」
前方のススキの茂みから、確かにガサガサ音がしている。
モンスターか。おそらく、スライマルかブッシュウルフだ。どっちも大した強さじゃない――
『ブァルガアアアアアアアアアアア!!』
「は?」
それは。何で。
正面に立てば太陽を覆い尽くすほどの翼、丘をひと巻き出来そうなほどの巨大な尻尾、武器庫の剣の群れとでも見まごうほどに鋭く並ぶ牙、炎のように赤く輝く瞳……
間違いなく、ドラゴンだった。