3の1 生きたキャラクター
「なんじゃ、その目のクマは。これからモンスター退治に行くんじゃぞ」
宿の部屋まで迎えに来たアッパルプイがそう言うのも無理はない。
それはひどい顔だったんだろう。
オレは昨日一睡もできなかった。
今、アッパルプイはオレの顔を見て笑っているが、当然知る由もない。このあとに自分の親友が死んでしまうなんて。
アーシュラは、アッパルプイを旅へ送り出すためのトリガー。
彼女の死をもって、アッパルプイは家族であるエルフを探すという名目で、主人公と旅立つ。
……そう、オレが設定した。
そういうストーリーだ。ゲームとして必要だから、そう設定したんだ。
問題ない。問題ないはずだ。
……だけど。
実際に顔を見てしまったら。
そして、それによって悲しむであろうアッパルプイを前にしたら。
正しい事だと、胸を張って言えるか?
わからない。
堀井雄二氏だったら、小島監督だったら、ここでどうする?
有名ゲームクリエイターを頭で浮かべてみるが、それでもわからなかった。
そして、結局答えを出せないまま、朝を迎えてしまっていた。
「お主がそんなことでは困るぞ。モンスターはなかなか凶暴だと聞くでな」
「……わかってる」
モンスターなんか大した問題じゃない。しょせん、レベル7の暴れ猪だ。レベル上げしなくても薬草が充分なら今のレベルでも倒せる相手だ。
だが、それを倒しに行っている間に、アーシュラは死んでいるのだ。
どんなマジックアイテムを使っても救えない。たとえチートで蘇生アイテムを所持させたところで彼女は死ぬ。
……イベントでの死なのだ。絶対に止められない。
モンスター退治に行くべきか……行かざるべきか。
きっと、ここで行かなかったとしても、彼女は死ぬ。あるいは、明日以降に出かけたとしてその時に死ぬだろう。
「なんじゃなんじゃ、行きたくないのか?」
煮え切らないオレの様子にアッパルプイも怒りだしたが、それも無理はない。
と――
「まぁまぁ、落ち着いてアッパルプイ」