ユメ
次に目が覚めたのは、手刀でエルフ村長の腹を貫いている時だった。
「んぐ...ガハッ!」
顔に赤い液体が掛かる。
「キャーー!!」
五月蝿いくらいの悲鳴が辺りをザワつかせる。
「ハ、見事、なり。ニンゲン......」
それきり動かなくなった目の前のそれは、悉くリアリティに欠けていた。
まだ、夢の中にいる。
「あ、れ?おい、おいおいおいおい。どういうことだ。やれやれやれやれ、いや、落ち着け僕」
もはや物言わぬ屍と化した──否、僕が殺したソレ。中性的だった端正な顔付きは見る影もなく、ただ、ひたすらにぐちゃぐちゃだった。
伽藍堂のような元々瞳が入っていた場所、所々欠けており肉が見えている頬、有り得ない方向に折れ曲がった鼻。
「う───!」
手刀で差していた腹の臓物が、今の今まで生きていた証明と言わんばかりに生ぬるい。グチャリ、と不快な音を立てながら手を抜く。
鉄の錆びた臭いが鼻を付く。
そのまま地面に倒れ込むと、胃の中身が空になるまで吐き出した。
何度も、何度も、何度も。
目にした光景を肯定したくない。
自分がした行いを認定したくない。
現実から逃げるような思考の数々が、未だ罪を認めることなくせめぎあう。
顔に着いた紅のソレが罪の意識を助長させ、底のない後悔の沼に沈み始める。
「ひ、ヒトゴロシ......!」
隣でそんな絶叫が木霊する。
「シフォン、待ってくれ!僕はヒトゴロシなんかじゃ────」
「じゃあ、誰が村長さんを殺したのよッ!!」
彼女は妖精を思わせる幻想的な貌を歪に歪ませ、拒絶を示すが如くヒステリックに叫ぶ。
「──そうか、そうかい。君まで、僕に反旗を翻すと言うのだね?」
「この──狂人!貴方は誰にも理解されることなんてないわ!誰かを、誰かを解ろうとしたことなんて、ないからでしょうね!」
無言で彼女に近寄る。
「呪ってやる!呪ってやるッ!!貴方は──」
そこで彼女の声が途切れる。
何故なら、発生する気管が永遠に失われ、彼女の首が宙を舞ったからだ。
プシャー、と噴水のように吹き出す血飛沫を浴びる。
思考は依然としてクリアにならず、どこか夢見気分だ。
やがて彼女だったソレは崩れるように地面に臥せ、二度と起き上がることはなかった。
───────刹那、
「あ、ライア様、起きましたー?」
そんな、緩い声が耳元で聞こえた。
書いてて一番楽しかったかもしれない。
まぁ、ダークなストーリーに突入する気はありませんので安心してください。
閲覧ありがとうございました。