プロローグ(別視点)
何話に一度はこんなのぶっ込みます。
「よ、飯沢。おはよ」
「ん...ああ、吉野か。おはー」
なんの変哲もない月曜日が、気持ちのよい朝陽と共に生徒を祝福する。
戸坂私立艸木高校は、市内でも有数の理数に特化した高校だ。将来は医学部や研究者を夢見て入学する生徒も少なくない。
六クラス編成で三学年。系、千人近くの子供たちが肩を並べる学舎は、よく言えば歴史を感じる。悪く言えばボロかった。
場所は変わって二年三組の教室。
そこには......とある問題児が一人いる。
「やれやれ、今日も宿題を忘れてしまいました先生。やれやれ本当に申し訳ございませんやれやれ」
「──────そうか。それは残念だ」
先生に向かって尊大な口調でやれやれしているのは、
「伊藤君、宿題くらいしっかりとやって来たらとうだい?そして、君の先生への態度はこの場所に相応しくないと思うよ」
「伊藤君」と呼ばれた男こそクラス一の問題児にして、艸木高校一番の不良児。伊藤磊婀である。
この、異様に読みづらい漢字は『らいあ』と読む。名付け親の意図を読み取るのは不可能に近い。
「ふむ、なんだイイサワ君。君まで僕に説教か。やれやれ、そういうのは僕の成績に勝手からにしてほしい。出る杭打たれるぞ、やれやれ」
そう、厄介なことに、このキチガイの頭脳は非情に優秀だ。成績は常に学年トップ。定期テストでは満点以外取ったことがない。スポーツ万能で、おまけにイケメンときた。
──イケメンときた、のだが、彼の発言から分かるように、彼は屑だ。まごうことなき人間の屑である。
「ほっとけ、飯沢。それよりも、先生は次こそ奴に一泡吹かせて欲しい。他でもない、君にだ」
「先生......」
何だかんだ言って、チョロい飯沢君なのであった。
▲▼
ドッ、と旋風が巻き起こる轟音と共に、教室が揺れる。
「ちょ、ちょ待てよなんだよこれ!?」
「キャーー!」
「ちょ待てよちょ待てよ...ちょ待てよ!」
女子のヒステリックな叫びと、ちょ待てよという悲痛な唸りが教室に響く。
日本のとある中学校、そのとあるクラスがそのまま異世界に転移したなど......信じるものは、いないだろう。
▲▼
「...ッ!ここ、は──」
目が覚めると風景は一変し、まるで夢を見ているような気分だ。
暗く、どんよりとした空気は居るだけで精神がやられそうになる。
下手すれば学校より古そうな......否、歴史がありそうな石造りの壁沿いに、無数の屍がある。それは、僕らの恐怖をより増長させた。
「あ、貴方はいったい...」
のし掛かるような、気持ちの悪い恐怖に耐えきれず、思わず声をあげてしまう。
「君達はこの世界を救う勇者として召喚された、勇ある少年少女。これだけでは不満かな?」
すると、偉そうな小太りの男が意味不明な言動を寄越してきた。
それはあまりに独裁めいた考えで、人間性がありありと伺える。
「不満って...」
“あるに決まっているだろふざけるな”という言葉はついぞ喉から出ず、代わりになま暖かい空気が口からでる。
男は、無言を賛成と取ったか、話を進める。
「おお、そうだ。せっかく召喚に成功したのだから、君達の固有スキルくらいは確認しておこうかな。...持ってこい」
「ハ!」
──どこからか、突然黒いスーツの男が現れた。その男はそのまま消えると、またまた突然現れる。
手に、水晶のようなものを持ちながら。
「さあ、勇者様方。その水晶に手を置いて下さい。そして、頭に浮かんだ文字の羅列をそのまま話してください」
取って付けたかのような敬語だが......どうしてか、逆らえないように感じた。
どうやら、まずは僕かららしい。
「この装置の上に手を置いて下さい。くれぐれも、ゆっくりと」
「はぁ...」
そろり、そろりと割れ物を扱うかのように載せる。すると、脳内に何やら文字が浮かび上がってくる。
『英雄』
「えい、ゆう...?ああ、『英雄』です」
「──なんと、なんとなんと!それは素晴らしいですね!」
「はぁ」
訳のわからない称賛にも、生返事するしかない。
だって、何よりも現実味がないから。
「固有スキル......『掃除』です」
そんな声が、隣から聞こえてくる。
声の主は例の問題児。
「あ、マジ?戦闘スキル以外要らないから、マジで。帰っていいよ。え、帰れない?知らん知らん。いや、確かに良心は痛むよ?痛むけどね、時には非情に成必要があるんだよ。立場的にね?どうしようもないことなんだよ」
そう捲し立てると、
「彼を門の外にまで送ってやってくれ」
とだけ言い、本当に追い出してしまう。
両脇にいる兵士に連れ去られていく姿はまさに滑稽。胸がすく思いだった。
「やれやれ、君達には失望したよ」
悔しがる彼の姿。
多少の優越感と共に、虫を見るときのような嫌悪感が頭の中でごちゃ混ぜとなって、なんとか一言吐き出す。
「...早く連れていってくれますか?」
そうして彼は連れていかれた。
ざまぁみろ。
正直、こっちはこっちで色々やろうと思ってます。
閲覧いただきありがとうございます。