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少女怪奇譚  作者: るい
1/2

取材

その少女は、感情の読めない微笑を持って現れた。

「本日はよろしくお願いします」

俺は立ち上がって右手を差し出した。

「はい」

少女は笑みを深めて、手を握り返す。

不思議と人のいないカフェの中、録音機のスイッチが入った。



憧れの出版社に入社したものの、配属先は眉唾物のオカルト雑誌。

落胆は拭いきれない。だが、仕事は仕事。

割り切って心霊写真や都市伝説を漁っていたら、いつのまにか一年が過ぎていた。

今日は怪談の収集家だという少女の取材だ。

少女の名前は千崎美和(せんざきみわ)

高校か大学生くらいの子だ。角度によっては、成熟した女性にも、無邪気な女の子にも見える。

白い肌に、白いワンピース、鍔の広い帽子、長い黒髪。儚げで美しい人だったが、異様に黒々とした瞳が印象的だった。

見た目からしてオカルト女というか、そういうニオイがする。

せいぜい、読者受けしそうな話が聞けると良いんだが。



「これは友達から直接聞いた話なんですが__」

お決まりの前口上を挟んで、少女は語り始める。

「近所に、お化け屋敷として有名な洋館があるんです。もうずっと誰も住んでなくて、荒れ放題で。そこに友達は一人で肝試しに行ったんです」

よくある話だ。

若い子は肝試し好きだよな。俺は幽霊よりホームレスか不良に遭遇することのが怖い。あと、老朽化した建物の倒壊とか。

「真夜中の洋館を写真を撮りながら歩いていたら、突然背後からバタバタバタッて音がしたんですって。びっくりして振り向いたら、首の無いヒトみたいなのが、手足を滅茶苦茶に振り回しながら追いかけてきたらしいです」

少女は淡々と話す。

内容は結構怖いのに、まるでただの雑談みたいに。この子、怪談を他人に聞かせるのは向いてないな。要点だけを、かいつまんで説明してる。

「友達は必死に逃げたんですけど、階段から駆け降りる時に転んじゃって、それで首の骨折って死んじゃったんですよ」

「え?」

あまりに普通に言うものだから、うっかり聞き返してしまった。

少女はクスクスと笑う。

「ドジですよね。心霊スポットに行って、化け物に()って、なのに不注意による事故で死んだんです。悪霊に殺されるならともかく」

クスクス。笑い声がやけに耳につく。

人が死んだ話をドジだと笑うとは、不謹慎じゃないか。

まあ、良い。どうせこれは作り話なんだから。

少しの悪意を混ぜて、彼女に確認する。

「なるほど、そのご友人は亡くなってしまったのですね」

「はい」

「でも__」

黒い瞳をじっと見詰める。

その瞳が動揺で揺れるのを期待した。

「先ほど千崎さんは、友達から“直接”聞いたと仰っていましたよね」

「はい」

彼女は平然と頷いた。

「え? いや、だから、ご友人は死んだんでしょう?」

少女の瞳は黒々としたまま動じない。


「はい。幽霊になった彼から直接聞きました」


胃を氷の手で鷲掴みされた。

彼女の言葉はとても自然で、まるで猫を見て「かわいい」と言うような気楽さで、幽霊という単語を使った。

彼女の目には、生きている人間と一緒に、死んだ人間も映っている。

__ヤバい。

はっきりと確信した。こいつは俺とは全く別の世界で生きている。死んだ人間のいる世界で。関わったらろくな目に合わない。

一刻も早くこの女から離れなければならない。

取材を終わりにしようと、口を開く。

だが、彼女の方が早かった。


「彼、今もあなたの後ろにいますよ」

布団で仰向けになりながら書いたので「私の背後に立てるものなら立ってみやがれヒャッハー」ってしてました。

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