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君と共に歩む道 05

「ハル?」


 姿を消したどころか呼びかけても返事はない。突然消えることも今まで殆どなかったのに、何も返さないなんて。そうなるほどのことが今の会話の中であっただろうか。

 首を傾げていると、後ろから肩を叩かれる。ハルを気にするあまり周りに気を払っていなかったため、不意打ちのそれに変な声を上げしまった。


「芹沢さん、こんなところで何してるんです?」

「うおっ!あぁ、桃井か」

「お早う御座います。何か気になるものでもありましたか?」

「何も……いや、お前が来るまではなかったんだけどな」


 俺に声をかけてきたのは桃井という、同じ部の一つ下の後輩。プロジェクトは違うが年が近いこともあって、会うと近況やら雑談をする仲の奴だ。変なところで立ち止まっている俺に気付いて、何かあったのかと声を掛けてきたらしい。

 まさか『憑いている悪魔が消えて驚いていたから気になっていた』なんて説明が出来るはずがないので、適当に流してしまおうとした。しかしそれが出来なくなったのは、桃井の後ろに酷く嫌な顔をした空中にいる女を見つけてしまったからだ。


「俺ですか?」

「いやだってお前、その後ろのはさ…」


 ハルと同じ髪色ではあるが、それ以外は全く違う。いつも笑って常にネジが一本抜けたような緩さのようなハルとは違い、敵対心を放ち笑顔の一つもなく鋭い目線を俺に向け続けている。その上、背にあるものが黒ではなく白。しかもハルの玩具みたいな羽じゃなくて、漫画や映画で見かけるようなしっかりした『天使の羽』だった。

 俺の指摘に桃井もすぐに何を言いたいのか察したらしい。不思議そうな表情が一変笑顔になり、興奮した様子で話に乗ってくる。


「芹沢さん、カナが見えているんですか?!」

「あぁ。その後ろの子は天使、でいいのか?」


 どうやら悪魔というのは他の人には見えていないものらしい。俺の買い物に勝手に付いて来ていても、周りが変な顔をしないことから分かっている。

 それが見えて、しかも似たようなものが憑いている。そんな境遇の奴が身近にいたと知ったなら大分気が楽になるというものだ。背負っている存在意義は真反対のものでも、共通するところはあるだろうから話せることもあるに違いない。


「その通りです!芹沢さんも見えるってことはもしかして、」

「待て、元希」


 桃井も同じようなことを思って詳しい話を聞こうと此方に寄って来ようとする。それを後ろの天使が肩を掴んで止めて、俺に向ける目線をより鋭いものにする。そして一言放った言葉は。


「臭い」


 鼻を覆う仕草までつけて、カナと呼ばれた天使は俺に向けてそう言った。さっきからいい目では見られていないとは思っていたが、まさかそんな事を言われてるなんて。怒りよりも呆気にとられて言葉も返せない。

 桃井の方も一瞬呆然とした後慌ててその天使を叱っているが、天使は全く反省する気はない。此方を指差し『悪魔の匂いが染みている』と指摘してきた。


「此奴についてるのは天使じゃない、悪魔だ。そんな奴と話してもプラスになることなんて一つもない」

「そんな理由でも言っていい事と悪いことがあるだろ!ていうか芹沢さん、悪魔に憑かれてるって大丈夫なんですか?!」

「あ、あぁそれは全然。あいつ弱いし」

「憑かれてるって分かってて暢気でいるってこと?信じられない。元希も大概だけど、こっちも頭おかしいわ」


 桃井が心配してくれているのも踏み潰すこの天使。天使という立場上、本音は隠して綺麗な言葉掛けをするものじゃないのか。この態度を見る限り、ハルの方がよっぽど天使らしい振る舞いをしている。

 段々と苛立ってきた俺は、敢えて一歩近づき天使を睨む。俺にはわからないが、悪魔の匂いが近づくのは不快だろうから。


「性格悪い天使だな。本当に天使か?」

「期待に応えられなくて残念ね。ま、どっちだってあんたには関係ない話でしょ?悪魔が憑いた不幸な人生を受け入れているんだから。折角…」

「お前みたいな天使がいても幸せとは思えないけどな。桃井もお前の発言のせいで困ってる」

「……いなければ、今頃は、」

「カナ!いくら敵対してるからって言い過ぎだ!芹沢さん、ほんとすみません。後でちゃんと叱っておくんで、行きましょう。そろそろ動かないと研修に遅れますし。カナは今日は家に戻ること!わかったな」


 桃井が天使を叱ると、フンと顔を背けて謝りもせず天使はその場から消える。桃井が『言うことあるだろ』と怒鳴っているが、最後の最後まで此方を睨みつけていた天使が桃井から怒られたくらいで謝るとは思えない。


「普段はあんな奴じゃないんですけど…カナは前は悪魔と戦ってたりしたそうなんで、そういう時に色々あったんじゃないかと…それでも言って良い事じゃないですけど」

「お前が謝ることじゃないって。それにちょっと頭に血が上って言いすぎたところあったし、俺も悪かった。まぁこれから桃井と会いそうなときはあいつには家に居てもらうことにするよ」


 再度謝る桃井に、自分の非も認めて場を収める。ここでだらだらとしていたら本当に遅刻してしまう。俺らは少し歩く速度をあげて会社へ向かった。



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