表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

君と共に歩む道 03

 ジリリリリと目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。今日が帰社になるからと昨日は帰宅が遅かった。だから当然寝る時間もずれ、睡眠不足は否めない。でも仕事なんだし仕方ないと言い聞かせ、目覚ましに手を伸ばす。

 が、止まらない。ちゃんと押しているはずなのにそれはずっと鳴り続ける。壊れたのかと布団に引きずり込んで止めようとして、気付く。相変わらず煩いままではあるが、そもそも指している時間がおかしい。まだ寝てから一時間しか経っていない。


「うわーい!久々に成功です!」


 そうか。この小さな目覚まし時計より煩い邪魔なやつが一匹居たな、この家には。俺が昨日何時に帰ってきたかも知ってるはずだし、速攻布団を被ったのも見ていたはずだ。それでもなおこういう悪戯を仕掛けるとは、なかなかいい度胸じゃねぇか。


「どうですか!久々に引っ掛かった気分は!」

「黙ってろ、このバカハル」


 布団から体を起こし、嬉々とした表情のハルに二択を迫る。右手に握った目覚ましを投げつけられたいか、それとも回避にちゃんと元の状態に戻すか。


「ついでに今の俺は手加減なんてしねーからな」

「あの……これはその、ちょっとしたイタズラで…」

「どっちだ?」

「怖いです怖いです元に戻しますぅ!」


 ハルは俺の手から目覚まし時計を奪うと、よくわからない言葉を発して鳴り続けたベルを止めた。返されたそれを簡単に動作チェックして問題ないことを確認すると、再度正しい時間にセットし直して寝る体勢をとる。と、その前に。


「ハル」

「はいっ!あのその、ごめんな、ふびゃっ!」

「このくらいで許してやる。俺は少しでも寝たいし、そもそも深夜だからもうこれ以上騒ぐなよ」


 枕を一応優しめに投げつけ今度こそ眠りにつく。可哀想なことをしたようにも思うけど、俺だって被害者なんだ。そう強く言い聞かせ、罪悪感に負ける前に目を無理矢理閉じて眠気を呼んだ。




 そんなやり取りから約三時間後。予定の時間きちゃんと鳴り出した時計と共に布団から顔を出す。結局あまりちゃんと寝れないまま一晩過ぎたが、今日は本社で研修を受けるだけだからなんとかなるだろう。


「キイチくん……あの、」


 欠伸をしながら布団から出ようとするとハルから声をかけられる。見渡すと、部屋の隅で投げた枕を抱えてシュンとなっているハルがいる。あの後からずっと声を出さないようにしながら反省していたのは、なんとなく気配で察していた。けれど今の今までとは思ってなくて、一気に罪悪感に駆られる。けれど発端は俺のせいではない。ないとわかっているけれど、こうも目に見えて落ち込まれると。


「………」

「あのですね、昨日は、」

「…そんなことより腹減ったんだけど」

「お腹、ですか?いやでもそれよりも!」

「話は後!話聞いてて俺が遅刻したら、どうなるかわかってんだろ」

「嫌です嫌です!パン焼きますからちょっと待っててください!」


 寝起きで色々考えるのは面倒だ。適当な脅しをかけてハルの謝罪を遮る。単純なハルは言いたいことなんかすっかり後回しで、慌てて朝食の準備にとりかかろうとしている。扱いやすいハルに感謝しながら、俺もゆっくりはしていられないと出勤に向けて布団から抜け出す。

 一旦動き出せば中々忙しなくて、話を聞いてやる時間は当然ない。外に出たら他の人からは見えないハルに話しかけられるわけもなく、横でタイミングを探す気配を感じながら会社へと向かう羽目に。『いまか!』と声を掛けようとして止まるのを何度も繰り返されるのも気になるし、何より冷静になってきていい加減可哀想な気になってきた。もうそろそろ許してやってもいいか。


「ハル」

「え?あっ、はい!」


 人気が無くなったところで小声で呼びかけると、予想外だったのかハルの拍子抜けした返事。心の中で笑いながら一瞬だけ枕が当たったであろうハルの額へ手を伸ばす。直ぐにひっこめたが、ハルはそれでも驚いたらしい。


「ふえっ?!」

「悪かったよ、昨日は。枕までぶつけたのは悪かった。でも俺の睡眠を妨害したハルがそもそも悪いからな?」

「それはわかってます!もう時間がないときにはしません!もっと元気な時にします!」

「……やらないって選択肢はねぇんだな」

「悪魔ですもん、ないです!!不幸にするのが私の使命です!」


 漸く晴れた笑顔でされる宣言。呆れながらもいつもの調子になったようで安心した。下手に頭悩ませて落ち込んでいるところを見るより、明るく笑っている方がハルらしい。

 と思っていたら、また真っ青な顔に。今は何もしてないはずだ。しかも『どうした?』と問う前にパッと消えてしまう。そんなに急に消えるほどのこととが何かあっただろうか。


 首を傾げて立ち止まる俺。その背後に急速に何かが迫っていることを、俺は気付けていなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ