君と共に歩む道 02
本当に私はラッキーだ。悪魔である私を傍に居させてくれて、会話まで出来る毎日。悪魔をやっているはずなのにこんなのいいのかなっていうほど幸せで、キラキラしている。
当然始めから受け入れられた訳じゃない。悪口を言われ羽をもぎ取られかけ、伸びている間に家に帰られてしまった。ただ一度会ってとり憑いてしまっている以上、追い付くのは簡単。家に侵入するのだって人間じゃないから出来る。勿論怒鳴られ物を投げられたりもしたけれど、私は引き下がらない。これが私の使命だから。
「お前は俺を不幸にしてどうする気なんだよ、そもそも」
「えっと、悪魔はその人の幸福を取って失望させて、悪の道に走らせようってことが目的なんです!で、私は主に…」
「そんな説明して『わかりました。そういう話ならどうぞいてください』って言う奴が居ると思ってんの?」
「そう、ですけど…」
「何も知らされずに不幸な目に遭った方がその率もあがるんじゃねぇの?」
キイチくんの指摘はごもっともで、本当は名乗る必要なんてない。寝ている間に横に立つのでも、そっと街中で擦れ違うのでもとり憑くことは出来る。究極を言えば本人だと確かめられるなら姿を現す必要もないけれど、不幸営業部に来る前の癖と私のポリシーでそれはしたくはなかった。
それに、わかっててなお私から逃れられないというのもなかなかに絶望的。胸を張ってそう言ってみると、デコピンが容赦なく飛んできた。
「バカだろやっぱ」
「バカじゃないです!」
「そういや下級って言ってたよな。バカだからやっぱり…どうせ大したことも出来ないんだろ」
「出来ます!靴下片足無くしたり、ちょっとイヤホン壊れやすくしたり…」
指を折りながら出来ることを挙げると、キイチくんは呆れたと言わんばかりの溜め息。表情からもバカにしているのがわかったので、私は必死にそういった悪戯が嫌なことかを説いた。朝忙しいときに見つからなくて遅刻したらとか、細かい出費に嫌気が差すなどとにかく不利益を。私の言葉は全く響いている様子はなかったけれど。
「俺の職業わかってるなら、不可解なバグだして帰らせないとかもあるだろ。なんでそんなしょうもないことしか出来ないんだよ」
「それはキイチくん以外の運命に左右しちゃうかもしれないじゃないですか。中級の悪魔なら出来る人もいますけど、下級悪魔は人一人で精一杯です!」
「ほんと無能だな、お前。まぁそれならちょっと煩くなるだけか。悪魔なんて信じる気はねぇけど」
でもそのお陰でほぼ無害だと判断したようで、追い出しにかけるのを止めてくれた。『一旦』は。
「普通にしてたって面白いことなんてねぇし。……いや?俺今日…」
「もぅ!私を舐めてると酷い目に遭いますよ!そりゃ、他のことはちょっとダメかもしれませんけど、中級並みの力もあるんですから!」
「……言ってみろよ」
「あのですね、恋愛運を無くせるんですよ!これで恋人の出来ない悲しい毎日が送れ、あ、あれ?!キイチくん顔怖いよ?!」
「そうかそうか……お前のせいかっ!!!」
キイチくんは沢山の着信通知と『もう知りません』というメールを見せてくる。私と出会ったとき、どうやらキイチくんは合コンで知り合った女の子とお出掛け予定の外出中だったらしい。それなのに私が目の前に来たせいで家に逃げ帰ってしまったから、もうその子とはダメになったようだ。
「やっぱりお前帰れ!久々のチャンスが!」
「そんなの私の責任じゃないです!」
また羽をもがれそうになったり、角張ったものを投げられたり。本当に最初は一方的な嫌われが酷かったけれど、今は仲良くやれているから本当によかった。私のイタズラにはあんまり引っ掛かってくれないのは悲しいけれど、それは継続して頑張るから、今は平穏な毎日が送れていることを幸せに思って。