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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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ストレッチ?

 鉄製の階段を登る前で、一旦立ち止まってガラパゴス携帯電話を開く。LINEの画面を見たが…、既読は付いているが返信が無い。


「あれ?」

 永田は羽前球場から駐車場に向かう時、

『今から帰るわ』

と書き込んでいたが、既読が付いたのみで、関川・片山両者からの返信は無かった。しかも1時間以上経っている。因みに2人とも既読した様である。


『帰ったらオレか開次の家に来てや』


とは関川に言われていたが…、何の返信も無いことに迷いを隠せないまま、永田は取り敢えず鉄製の階段を登り始めた。階段に生じている錆に、このハイツの歴史を犇々と受けつつ、慎重に階段を登る。


 関川と片山は2人とも2階に住んでいて、号室も隣同士だという。永田は既に2人の号室をそれぞれ聞いているので、号室にたどり着くことまでは容易かった。だが、問題はどちらが自分の荷物を預かっているのかということだった。


 既読以外の連絡が無いので、まず片山の号室のインターホンを押す。

「あれ…?」

中からの反応が無い。留守だろうか。そこで永田は、インターホンに人差し指を当ててから、耳をドアに直接当てて、その状態でもう1度インターホンを押す。

「……」

 やはり居ない。物音すらしないので、どうやら留守の様だ。次に関川の号室の前まで行って、同じ様にインターホンを押す。

「…えっ…?」

 こちらも反応が無い。おかしいなぁ…、どっちかがいる筈なのに…。今度はドアに耳を当ててからインターホンに人差し指を当てて、そのまま押す。

「……」


 周りは静寂なままだった。

―2人ともいないのか…。あれ、車あったっけ…。あーでも車無しでもどっか行ってることもあんのか…。

 取り敢えず、ガラパゴス携帯電話をもう1度開く。と、


「ん? 誰や?」

ドカッ。

「あだっ…」

後方から声がしたと同時に、スイングドアにぶつけられた。永田は素早くガラパゴス携帯電話を折り畳んでポケットに閉まってからぶつけられた部分を左手で抑えて、後ろを向く。

「何すんだよ…、あれ関川?」

「ああ永田か。ドアスコープに誰も居らんかったから誰や思て…」

「こっちも。2人ともインターホン押したのに反応無いから…」

「ちゃんと2人とも居るで。荷物言うてたな? ちょっと待っとって」


 そう言うと関川は自分の号室に戻って、永田の荷物を取りに行った。永田も続いたが、こちらは玄関前で止まった。


「えっ…?」

…と、なぜかうつ伏せになっている片山を発見。永田に気付いたらしく、何か助けて欲しそうな目線を送る片山。

 良くわからなかったが、取り敢えず片山に目線を合わせるべく、その場でしゃがむ永田。

「永田助けて」

「どうしたの?」

「いや浩介にな…」

「ほれ荷物」

と、永田の荷物を持った関川が戻って来た。

「おい、人と人が話しとる途中やろ、何で目の前に割り込んで来とんねん」

―全然お前の目の前とちゃうぞ。

「預かっとった荷物を持ち主に返しただけや…、それに開次、もう夜やぞ。そないデカい声やったら周りに迷惑やぞ」

―人のこと言うといて自分のことは棚に上げるんか。

 荷物を持った関川に気付いた永田は、その場で立って受け取る。一方で関川も、永田がずっと持っていた箱に気付く。


「その箱何?」

「これ? 選手全員分のメダルだって」

「それ監督に言うたほうがええんちゃうの? 表彰式で何か貰ってくるようやったら連絡寄越してくれ言うてはったで」

「えっ…」


 片山の指摘で、永田はさっきの連絡の記憶を辿った。…だが、連絡事項は明日以降の連絡だけだった。


「兎に角、明日朝一で監督がやってはるスポーツ用品店に行きや。わかるやんな?」

「ああ…」

 一昨日の休養日に行っているので、ルートはわかっていた。しかし朝一でやっているのか…という複雑な気持ちもあった。

 関川に後押しされたこともあって、永田は明日朝一で行くことに決めた。そのついでに、永田は先程から気になっていたことを訊いてみた。


片山()何してんの?」

()()()()()

―態々耳打ちして言うことか?

「替え玉なってー」

「アホ、お前の為にやっとんのやで。こうして丁寧に時間かけてやっとるのに、ホンマ…」

―浩介のはストレッチちゃうで。確かにストレッチにはなっとるけど、いちいち顔近づけてやっとるからストレッチ以上のものを受けとる気がすんねん。

 片山がうつ伏せ状態から立ち上がりかけたが、玄関から戻って来た関川に、


「あ…、あれ…、」

リラックスさせられて、力が解き抜かれてしまい、眠ったのかボーッとしているのか…、良くわからない様な表情で顔を横にしたまま床にうつ伏せた。そのまま関川は、片山へのストレッチを再開した。


「…し、失礼しました~…」

 何やら凄い雰囲気を犇々と受けた永田は、ゆっくりと静かにドアを閉めた。

―何だあの技術…。いや…、まず関川がストレッチだと言っている以上は、片山のあの姿勢からするに恐らく肩甲骨か背中か下半身の裏側の筋肉…。そりゃそうだよな、今日11イニングも投げたんだから…。関川が念入りにケアしたくなるのもわかる。てかあれ…、


―ストレッチじゃなくて、マッサージじゃね?


 来た時よりもゆっくりとした歩幅で家に帰りながら、一連のやり取りとその光景を何度も反芻していた。片山が一瞬でリラックスしたあの技術(テクニック)は一体…。そしてあれはストレッチなのかマッサージなのか…、結論付けられないまま、家に着いた。


 本人が記憶に無いようなので一応説明しておくと、実はこの関川が片山に施した相手をリラックスさせる技術、3日前の試合にて永田も同じく関川に施されていたのだ。この時もついさっき見た片山と同じく体の力が解き抜けて、眼付きを含む表情にも変化が見られたのだが、施術された本人は、打たれた記憶と、完投した記憶はある様だが、関川のお陰でリラックスできたという記憶は無かった。


 家に帰って、玄関と、東側の縁側に続く廊下の照明をそれぞれ点灯させても、ストレッチなのかマッサージなのかという疑問は残り続けていた。ただ1つ言えるのは、ストレッチにせよマッサージにせよ、体のケアは重要なわけで、それに伴ってリラックスした結果表情が緩んで体の力も抜ける、というわけだが…。


―つまり、あの時点から、関川(アイツ)の施術は始まってたってわけ?


縁側まで歩いて来て、永田は一応の結論を付けた。ただ一応なので、十分な断定が出来ないのが何とも言えなかった。


 永田の家の灯りが灯ったのを見て、関川は永田が家に帰ったことを確りと玄関から見た。見ている途中で片山に催促されたこともあって、関川は半開きになっていた玄関のドアを閉めて、部屋に戻った。


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