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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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凱旋

 信号待ちをしている間、情野は永田に目的地への細かなルートを尋ねていた。

「そんで、この後どう行きゃ良いの?」

「これの、次の信号のある交差点を右。暗くてわかりにくいかもだけど、右手に小学校あるから」

「じゃああれは?」

 情野は今停まっている交差点の1つ先に見える信号機を指差した。あれも確かに信号機のある交差点だが…。


「あれは…、押しボタン式信号機だな。一応横に道あるけど細いから…。なるべくなら広くて入り易いルートを行ったほうが良いかな、と思って」

 厳密に言うとその道からでも行けなくは無い上、細いとは言っているが普通車が通る分にはそこまで差し支えは無い道である。しかしながら時間制限でとは言え大型車はマイクロ以外通れないのと、時速30km/h 制限の区域を走ることになるので、直前まで国道を走って来たドライバーにとっては、恐らくその道路幅と速度差にギクッとするだろう。


「じゃあこっちじゃなくて…、両方信号制御になっている1個先のほうか」

「うん」

 そう言いながら、情野はシフトレバーに手を掛けた。信号が青になるや、すかさずシフトレバーをニュートラルから1速に入れて、半クラッチでゆっくりと発車させた。


 交差点を通過した後で、情野が訊ねた。

「…N`Carsのグラウンドってどこ?」

「さっきの交差点を左に曲がって、橋渡ってると左手に見えるから…、渡ってすぐ左の細い道に入ってゆっくりと下りれば着くぞ」

「マジか…、行きたかった」

「誰も居ねえよ今。皆帰ってるぞ」

「いや練習試合とかでさ…」

「あー…」


 蕎麦屋の前を横目で通過して、押しボタン式信号機のある交差点の前まで来た。

「ここはスルーで…、次ね」

「うん」

 アクセルペダルから右足を離しかけたが、そのまま直進ということで信号が青なのを見るや情野は再びアクセルペダルを踏んだ。


―木々が生い茂っていてわかりにくいけど…、ここか…?

 国道287号線・348号線のバイパスからでは夜で暗いのもあってわかり辛いが、情野はその生い茂った木々から見えた建物のと見られる灯りを見逃さなかった。

―あれだけ大きい建物でしかも右手。交差点も近いから、ここだな。

 そう思った情野は、すかさず右ウインカーを点灯させて、右折帯に入った。一瞬左を見遣ると永田と目が合ったが、永田は軽く頷いたので情野は一安心した。


 またも信号待ちになってしまった2人。しかしその待ち時間が長いとは読まなかった2人、次のルートを情野が永田に訊いた。

「この後どうすんの?」

「曲がったら…、その後は1番最初の信号機のある交差点を右。今度は右斜め前にガソリンスタンドが見えるから」

「わかった」

と、すぐに信号が青になった。シフトレバーを1速に入れた後、ゆっくりと半クラッチで交差点内に進入。真ん中付近でクラッチペダルとブレーキペダルを両方踏んで停まる。直進車及び左折車、歩行者…は居なかったが、ヘッドライトを点灯させて走って来る何台かの車を通過させた後、半クラッチでゆっくりと右折した。歩行者用信号機は青信号を点滅させていたが、車両用信号機は青信号のままだった。


「お前…、ここの小学校のOB?」

「いや…、岩手だからオレ」

「あ、そうなの?」

―じゃあ違うんか…。てっきりOBだから道に詳しいと思っていたけど、家の近くに小学校があったからわかり易く案内したまでか…。

 今度は情野が、永田の意外な一面を知れた。小学校近くの歩道橋を通過すると、永田が言っていた右斜め前にガソリンスタンドが見える交差点が見えた。決して大きいとは言えないが、家の近くにあるということで有り難く利用させて頂いている。


 そしてまたも信号待ちになってしまった2人。これで押しボタン式の信号機のある交差点を除いて、3箇所連続で信号制御の交差点で信号待ちとなった。ここの信号機は音響式信号機だが、交差する道の信号機が青にも拘らず音が鳴っていない。

―夜8時過ぎてる…。そうか、鳴らないのか…。

 そう、鳴動時間外だった。夜8時を過ぎるとそこから朝8時まで敢えて音を鳴らさないようにしているこの信号機、だがそれと同時に、永田は重大なことに気付いた。


こんな遅くまで時間がかかっていたのか、と。


 信号が青になった。1台だけいた直進車を通過(パス)させてから右折した。右折で入ったその道は、先程入らなかった細い道とは違うが同じように制限速度30km/h、そしてここも時間制限だがマイクロ以外の大型車が入れない、とまるで似たような環境である。


「で…、ハイツが」

「もうちょっとで見えて来る。えーっと…、あったあそこだ」


 街頭や建物の灯りを参考に、永田はハイツのある場所を右手で情野の運転を妨げないように差した。と…、なぜかここで情野がハザードランプを点灯させて停まる。


「右手…か。こっから行ける?」

「行けるけど」

「でも道路渡るんだよねえ…。人様に道路渡らせていくのはちょっと癪だからちょっとUターンするか…。ベルト締め直して」

「えっ、良いのに」


 既に永田はシートベルトのバックルのボタンを押してシートベルトを外しかけていたが、情野に言われるがままに締め直した。それを左目で見るや、情野はハザードランプを消灯させて左ウインカーを点灯させた。


「その左は?」

「前の市民駐車場。特に何も塞がっては無いけど…」

「じゃ、そこちょっとだけ借りるか」

「えぇ!?」

 道路上でのUターンは、道が狭いのもあってか出来ないと判断。情野は左折で前の市民駐車場に入ると、ある程度奥まで進んでそこで右へUターン。出入口へ戻って右ウインカーを点灯させる。カーブミラーがあったが決して頼り切らず、少しずつ車を目の前を横切る道に覗かせながら左右を確り確かめて右折。この時、左に極力膨らんでから右折という、常道を逸した方法ではあったが、こうすることで建物の横にきっちりとくっつけることができた。


 右折してすぐに、情野はハザードランプを点灯させて停車した。

「じゃあ、ありがとうございました」

「荷物積んでんだよね? ちょっと待って」

 そう言うと情野はエンジンキーを捻って車のエンジンを停めた。ハザードランプを点灯させた後に、既にシフトレバーはニュートラルに入れていて、ハンドブレーキも引いているが、そこからもう1度クラッチペダルとブレーキペダルを両方踏んで停めたのだ。


「…あそっか」

なぜだろう、と一瞬永田は思ったが、すぐに思い出した。この車はトランクルームにも鍵が付いているから、エンジンを掛けたままトランクルームを開閉する、ということは構造上できなかった。

 平地での駐車なのでエンジンを停めた後クラッチペダルだけ踏んでシフトレバーをバックギアに入れた後、既にシートベルトを外していた2人は一旦車を降りる。


「ほれ」

 情野が鍵を開けて、トランクルームを開ける。

「ありがとうございました」

 永田が荷物を持ったのを確かめてから、情野はトランクルームを閉めて、鍵を掛ける。

「そんじゃ、ありがとうございました。おやすみなさい」

「おー。お互い頑張ろうや。じゃ」

 荷物と言ってもメダルの入った箱だけだが…、それを丁寧に持ったまま、永田は情野が車に乗るのを見届けた。

 エンジンを掛ける。それを見て、永田は安全確保のため若干後ろに下がった。点いていたハザードランプが、右ウインカーに切り替わる。

 シフトレバーをニュートラルから1速に入れて、ハンドブレーキを解いた情野は、暗くてわかりにくかったがそれでも右後方を確かめる。安全であることを確かめた後、半クラッチでゆっくりと発進した。米沢へ南下して帰って行くその姿を、永田はヒッチハイクと誤解されないようにしながら、暗かったので情野にわかったかどうかは別としてグーサインで見送った。交差点を南に直進した先の緩い左カーブを抜けて、周りが静かになってから、永田は蛍光灯で廊下が照らされているハイツへと向かった。


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