意外な接点
―…オレって肩書上のポジションは結構上にいるのに、実際は結構牽引されて貰ってるよな…。さっきので言うならオレは被牽引車だな…。その点情野は優秀な牽引車だよ…。自分たちのチームだけじゃなくて余所者もこうやって牽引してくれんだから…。
「何?」
「あ」
考えごとをしながら途中で情野に目線を遣った永田だが、運転中で自分の目の前を向いている情野に勘付かれて、永田は一瞬気まずくなって目線を逸らした。と、永田があることを思い出した。
「そういやさ情野」
「ん?」
「うちの高峰と…、何かご関係が?」
「ああ…、京太とはKボール繋がりよ」
「えっ…、Kボール!?」
Kボールとは、中学軟式を経験した人が高校等の上級レベルで硬式野球をするにあたって、スムーズに硬式のボールに順応できるよう開発されたボール、またそれを用いて開催される大会のことである。そのKボールで、高峰と情野は一緒だったという。
―Kボール繋がりだったのか…。そんな凄い選手とは露知らずだった…。
凄さのあまり、永田は左手で頭を抱えた。2人とも置賜地区のKボール選抜メンバーだったというが、その一方がこんな身近にいたとは…。
「永田はKボールやってたの?」
「えっ」
情野に質問されて、永田は我に返ったように左手を解いて運転席の情野のほうを向いた。
「いや…、やってない」
「やってないんだ…」
「うん…。中総体終わってすぐに、今の3年生でKボールやりたい人はいるか、っていう誘い来たのよ」
「その誘いって、3年生全員に?」
「うん、当時の3年生全員に。で、オレどうするか迷ったけど…、結局やらなかった。Kボールって、中学軟式で上手かったヤツが行くようなイメージあったから…、ごめんね持論持って来ちゃって」
「いや、良い。永田は中学軟式はやってたんだ」
「うん…。けど下っ端だった。やりたい気持ちはあったけど、オレみたいなのが行ってもしょうがないな、って思っちゃって…」
―そうか…、だからその持論…。
永田が中学3年生だった当時も、野球部に所属していた同級生のうち、上手かった何人かはKボールに行っていた。しかし永田は、上手いのばかりが集う組織に、自分のような下手なヤツが行っても足手纏いになるのではないか、という懸念があった。こうして迷った結果、Kボールには行かなかった。
意外な接点を知れた永田。2人が話しているうちに、夜ではあるが見慣れた交差点が見えて来た。もう既に長井に入ったようだ。
直進と左折の両方が出来る帯に進入しながら、ゆっくりと減速、停車する。右折の矢印信号から一瞬黄色信号を挟んで赤信号に戻って、信号待ちの時間となった。




