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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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納得しないエース、惜しまれるリリーフ

再び山形県N市 松浪のアパート




「良し…と」

 2度揚げした竜田揚げに千切りキャベツを付け合わせて、今日の夕飯のメニューは全て揃った。

「頂きます」

 松浪は漸く夕飯に有り付いた。テレビでは、表彰式の様子が映っていた。


『全国草野球選手権大会・山形県代表決定戦第4試合。表彰式・表彰状授与』


 帽子を取った姿の荒瀬が、大会会長から表彰状を受け取る。だがその顔は、どこか満足していない表情だった。

―そりゃあんなピッチングじゃあな…。貰っても申し訳無いって思うわな。

 箸で竜田揚げ1切れと千切りキャベツを少し挟んでいた松浪だったが…、止めていた右手を動かして、再び食事を始めた。


 その後、表彰状を一旦係員に預けた荒瀬は、抽選籤を引く。

『この全国大会のブロック抽選ですが既に3チーム引き終えていますので残るは1つ、従って既に入るブロックは確定しています』

 しかし全国大会の抽選会の時に籤の紙が必要とのことで、荒瀬も抽選箱から引いた籤の紙を開く。

「…A」

「A? 酒田ブルティモアズさん、Aブロックです。荒瀬くん、わかってるとは思うけんどもAブロックを引いた主将(ひと)はこの後の閉会式で山形県代表旗を授与するから、それを受け取って」

「はい」

 というのも、全国大会の開会式では各都道府県のA、B、C、Dのブロックに入った順に入場行進する都合上、Aブロックが先頭になることから、代表旗授与はAブロックのチームの主将(キャプテン)に行われるという。


『以上で代表決定戦第4試合の表彰式・表彰状授与を終わります。引き続き、閉会式に入りますので皆様暫くお待ちくださいませ』

―妙に味噌汁美味いなあ…、何でだ?

 ちょっと飲んだ味噌汁の味が、いつもより美味い。決して出来が良かったとかそういうわけでは無い、いつも通り作っているからいつも通りの味の筈である。そう言えば今日作った竜田揚げも最初から妙に美味かった。…もしかして、全国大会へ行けるからその喜びで美味くなっているのか?

 ここに来て、その喜びが体を駆け巡ったのか、松浪は自分で作った夕飯がいつも以上に美味いと思い始めた。閉会式が始まるまでの間、松浪は夕飯を食べ進められるだけ食べ進めた。




 閉会式を待つ間、荒瀬は抽選籤の紙が入った茶封筒を持って3塁側ベンチに戻って来た。

「さっき言われたんだけど、これから閉会式だけど、主将(キャプテン)以外の皆さんは戻っても良いって」

「あ、そうなの?」

「うん」

「だけんどおめ…、念の為聞くぞ。どこ引いた?」

「Aブロックです」

と言いながら、荒瀬は茶封筒からAと書かれた抽選籤の紙を本間監督に見せる。

「あー…、だば代表旗受け取って…、持ち帰りどうすんのや?」

「今日車で来たんで…、それに乗せて帰ろうかと」

「いや、折角の重要な物だ。チームで来てることだから、ここはバスさ乗っけて丁寧に保管すんべ」

「…ですね…」

 本間監督の提案で、山形県代表旗はチームの移動に使ったバスで丁重に運んで、保管することになった。




 同じ時、情野、平山、永田の3人は、閉会式に参加すべくバックネット裏のアルプススタンドからグラウンドに移動していた。

「序盤は荒れたけど…、何だかんだ最後は荒瀬さんが確り締めたな」

「中盤以降荒瀬が立ち直って良かったよ」

「本人は納得してなかったけどな。打線も序盤から援護してくれたからこそ投げ切れたんだべな」


 移動開始した直後は荒瀬の話題で持ち切りだった3人。だが…、ふっと何かが頭を過ぎったのか、永田のトーンと表情が少し暗くなった。


「けど…、惜しいのは袖崎だな。あれだけ良いボール投げてたのに負けるのは勿体無い…」

「あー袖崎なぁ…」

「状態良くて尚酒田打線に捕まったからなぁ…。スペックは良い、何ならボールを見て点は取られても状態は維持出来ていたから、良い左投手だと思ったよ…。中盤以降立ち直った荒瀬を打って援護射撃出来なかったのが村山キーストーンズの最大の敗因だべな…」

 情野と平山からも惜しまれる内容だった袖崎。と、ここで永田があることを気にする。

「今日の敗戦投手って、誰になるんだ…?」


 ここで今日の第4試合、酒田ブルティモアズ 対 村山キーストーンズの試合を整理しよう。まず序盤、2回の裏途中で7対5と酒田ブルティモアズリード。この時2アウト1塁2塁で村山キーストーンズは先発の戸沢から2番手、今話題に上がった袖崎にスイッチする。この直後の3回の表に村山キーストーンズが追い付いたので、まず戸沢の負けは消える。こうなると、勝利投手と敗戦投手を決める所謂責任投手の対象は袖崎になる。だが袖崎が投げ続けている間に勝ち越され、この試合の最後まで追い付くことが出来なかった。6回の裏に途中で櫤山に代わったが、それが無くても敗戦投手は袖崎に記録される。


 情野と平山にこう説明され、永田は尚更惜しくなった。しかし説明していた情野と平山も、段々と惜しくなって来た。


「「「はぁ~あ…」」」


 袖崎の投球(ピッチング)が報われなかったことに、3人は惜しさのあまりため息を吐いた。そうこうしているうちに、閉会式の準備中のグラウンドに着いた。


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