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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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85/137

代表3チーム主将、全員集合

 1人、荷物と道具をメンバーに預けて球場に残った永田は、閉会式の開始を待っている間、バックネット裏のアルプススタンドで代表決定戦の第4試合を観ようとした。

 だが、永田は緊張(プレッシャー)に囚われていた。というのも、お客さんが殆ど帰ろうとしていないのだ。グラウンドでは表彰式と全国大会のブロック抽選が行われていて、山形スタイリーズの平山が表彰状を受け取って役員に一旦預けた後、抽選箱の中に右手を入れる様子が目に映っていたが…、


―これ見たらお客さんも結構帰るだろうなあ…。

と思っていた永田、お客さんがある程度帰るまでその場に止まって待機しようと決めた。


―さあある程度帰るかなお客さん。

 平山が全国大会のブロック抽選で引いた予備抽選の籤が入った茶封筒を持って3塁側ベンチへ戻るのを見ると、永田はこう思い始めた。もしこのカードだけを見に来たのなら、今日もう後は両チームともこの球場ですべきことを終えているので、態々球場に留まる必要は無いからである。


 …しかし、何時まで経っても帰ろうとしない。グラウンドでは表彰式と抽選で使った台や箱、マイク等が片付けられて、整備員によるグラウンド整備が始まっていた。両チームの選手たちも片付け作業を始めていて、この後第4試合に控える2チームがそれを待っている、という状態なのだが、帰る客が殆ど見当たらない。


―…若しかして、次の第4試合も観る予定なのか? それも酒田ブルティモアズさん目当てで。

 この後の代表決定戦第4試合は、村山キーストーンズ 対 酒田ブルティモアズの一戦が組まれていた。村山キーストーンズは勝てば初出場だが酒田ブルティモアズは10回の出場経験があり、今回勝てば11回目の全国大会である。今残っている大勢のお客さんがもしこの試合も観る予定ならば、当然ながら知名度の高い方を目当てに見る筈である。


―人多いと浮き足立つんだよなーオレ…、ん? あれ情野さんか?

 永田は比較的人が空いている場所に座っている人を見つけた。今いるアルプススタンドの出入口からは比較的遠かったが、見覚えのある野球帽を被っていた。


―だよなそうだもんなあの野球帽…、あのユニだから尚更か。

 その人は立ち上がった後、上半身を右へ半回転させて何やら確かめていた。その時に見えた服が米沢ローリングスのユニフォームだったので、永田は確信してそちらにゆっくりと歩を進めた。


「あれ、永田?」

「情野さん?」

「あれ、オレさっきタメ語で良いって…」

「でも呼び捨てで呼んで良いって言われてないから…」

「で、何してんの?」

「いや…、試合を観ようかと…」

 それを聞くと情野は荷物を一通り片付けて今座っている場所から少しずらして座り直した。


「座るんだべ? 早く」

「ああ…」

 そう言われると永田は誘われるがままに情野の隣に座った。


『酒田ブルティモアズ、シートノックの準備をしてください』

 グラウンドでは整備を終えた整備員が全員引き揚げて、第3試合を終えた両チームのメンバーがそれぞれグラウンドに挨拶と一礼をした後、それぞれのロッカールームへと戻って行く。その傍らでは、酒田ブルティモアズの選手たちがシートノックの準備をしていた。ということは、今日の代表決定戦第4試合は、村山キーストーンズが先攻、酒田ブルティモアズが後攻だ。


 スコアボードの電光掲示板は、第4試合に備えて既に書き換えられていた。両チームのメンバー表とスコアボードは一旦全てクリアにされて、今日のこれまでの3試合の結果を表示した上で、メンバー表にチーム名とスターティングメンバーの名前を順次書き込む。


『時間は7分間です。それではシートノックを始めてください』

 このアナウンスと同時に、シートノック開始のオートマチックサイレンが鳴って、スコアボードのBSOランプが7個全て一斉に点灯する。

 この7個のランプが1分経過する毎に1個ずつ消灯していくが、その間に両チームのスターティングメンバーが読み上げられる。


『4番 ピッチャー 荒瀬。ピッチャー 荒瀬』

「今日も荒瀬か…」

「荒瀬さんか…」

 酒田ブルティモアズは今日も右のオーバーハンドのエース投手(ピッチャー)・荒瀬を先発のマウンドに起用した。2人はこれに反応したが、永田の反応に情野があることに気付いた。


「敢えて敬語なんだ」

「うん…、だ…、だって…、直接荒瀬さんと話したこと無いもん…」

「あ、そうなの? オレはある」

「え、どこで?」

「少し前の練習試合で。そん時米沢(オレら)4-1で負けてんだけど、その後に投打ともに巧かったのを敬語で伝えたらああ、別に敬語じゃなくて良いよ、って。グラウンドにいるうちは年齢関係無い、って言われたから…。だから本当は荒瀬さん1個上なんだけどこうやってちょっと…、偶に呼び捨てさせて貰ってる。でもあの時は…、ぶっちゃけあの人に柵越え打たれちゃったから尚更そういう敬うべき態度になってたんだなオレも…」


 そんなことがあったのか…。強豪チームの選手同士がチームの垣根を、将又野球というスポーツの垣根を越えてプライベートでも仲が良いという話は良く聞くが、こんなところにもそれがあったのか、と永田は聞いてて思った。


『酒田ブルティモアズ、ノック時間あと1分です』

―あ。

 ここで我に返った。スコアボードを見たら、いつの間にか点灯しているBSOランプがあと1個だけになっていた。

―知らない間に6分も消耗していたのか…。

「でも…、3連投だけは頂けないな」

「どうして?」

「まず、投手自らに疲労が来る。これはわかるな? で、あの人初戦から投げてるから今日頭ってことは3連投なわけ。間に1人位挟んどかないと幾ら荒瀬さんでも持たないわけ」

 永田は情野の意見を時折頷きながら聞いた。その上で、こう質問した。

「なら途中からでも控え投手1人位入れとけば良いんじゃないの? 今日」

「更々そんな気無いと思うよ酒田(向こう)…。この大会最初から最後までガッツリ荒瀬さんで行く気だもん…」

―4連投したオレが言えることじゃないけどな。でもあれは皆が守ってくれたからであって…、投手(ピッチャー)自身が自滅したら勝つどころか投げさせてくれないもんな…。

 投手(ピッチャー)がちょっとでも自滅要素を晒せばそれだけで守るバックのリズムも狂う。何より相手にして貰えない。だからこそまずは自分が丁寧に投げて、バックの野手陣8人が確り守ってくれた。そのおかげで、自分は4連投させて貰えて、全国大会出場まで勝ち取ることが出来た。


『酒田ブルティモアズ、シートノックの時間終了です』

 このアナウンスと同時に、BSOランプは全て消えて、同時にオートマチックサイレンが鳴る。その中を、酒田ブルティモアズの選手たちは挨拶して一礼の後、駆け足で引き揚げる。

 自分が投げさせて貰えたのはバックのおかげだと思っていた情野だったが、ここであることに気付いた。


「…そういや永田も投げたよね? エースの片山が連投したのは昨日今日なのは覚えてたけど…、間に投げたのって…、お前だよね?」

「…ああうん…、燃えたけどな」

「あれ何でお前起用になったか覚えてる?」

「連投回避と、ピッチャー陣のありがたみをわかって貰いたかったかららしい。で、野手本業のヤツ選んだら最も投手経験の浅いオレになったらしい」

―野手本業ってことは…、つまり投手(ピッチャー)業がサブのヤツを選んだってことか…。


『続いて村山キーストーンズ、シートノックの準備をしてください』


 今度は村山キーストーンズの選手たちが各ポジションに駆け足で就く。


『時間は7分間です。それではシートノックを始めてください』


 このアナウンスと同時に、再びシートノック開始のオートマチックサイレンが鳴って、BSOランプ7個が一斉に点灯する。

 村山キーストーンズの選手たちがノックを受けている間、情野と永田は話を続けていた。


「ふーん…、連投回避ってことで、早めに手を打ったってわけか」

―形はどうであれ他の投手陣に出来るだけ長く経験を積ませるのと、その間に出来るだけ片山を温存させる。しかもそれをあの試合にやったってことは…、後者は兎も角前者の選択(チョイス)を野手本業の筈の永田にしたってことは…、そういう理不尽なことになるかもしれないからっていう意味かね…? もしそれで手に負えない様だったら、何時でも片山を投入すれば良いわけだからな。

 情野は永田の話を基に、永田を起用した采配の意図を推測した。


 しかし、現に永田は今大会唯一登板した東根チェリーズ戦で、本当に何時でも片山を投入されかねない状況にあった。実戦経験も浅い上緊張し易い性格、相手が格上の東根チェリーズとあっては…、戦う前から彼の投球内容は明らかだったろう。


「でもこんな酷い内容だったのに…、最後まで投げさせて貰えて…。途中でマウンド降りるのも嫌だったけど、自分が投げ続けて傷口広げて負けるのも嫌だったから…」

「多分…、交代させなかったのは打撃戦に持ち込んだからじゃないかな。点を取って貰えれば、仮に永田が幾ら失点を重ねてもその分を打って取り返してくれるわけだからな。これがもし駄目なら、まずは相手に与える点を止めることを目的に、スパッと代えてたと思う」

 自分の投球(ピッチング)が申し訳無い内容だったことを吐露した永田。それを聞いた情野は、ペットボトルのお茶を少し口に含んだ後、ここでも永田を最後まで完投させた意図を自分なりにではあるが分析した。


 自滅しないこと、連投云々絡みの投手起用、バックの攻守に渡る援護…、両者ピッチャー同士なだけに、話を理解し合いながら会話を進めていると、1人、オーラを身に纏った人物が来た。


「うおっ、びっくりした」

 一瞬右を見た情野がその人に驚いたのに続き、永田も右を見る。

「いきなりぬうって現れないでよ」

―あれ、この人平山さん…!?

 現れたのは山形スタイリーズの平山だった。表彰式と抽選を終えた後、おそらくロッカールームでミーティングを行った筈だが、そのミーティングが早く終わったのかバックネット裏のアルプススタンド、それも情野と永田の近くまで来ていた。


『村山キーストーンズ、ノック時間あと1分です』


 平山は村山キーストーンズのシートノックの締めを見ると、こっちを見た。

「どうも先程は…」

 そう言うと永田は立ち上がって、出来るだけ人1人が通れる位のスペースを空けて端に移動した。

「どうしたの? どっか行くの?」

「いや…、平山さんが座ろうとしてたから…」

「ああどうも…、ん?」

 スペースを譲って貰った平山が永田の傍を通って座ろうとした時、何かに気付いた。

「…何でオレの名前知ってんの?」

「いや、さっきの試合のスタメン覚えてて…、その後表彰式と抽選やったのが背番号6だったから…、平山さんかな、って。何なら試合前に会ってるから顔も声も覚えてて…」

「そう言えば会ってたね。てか永田、もうちょいリラックスして良いよ」

 席を譲って貰った平山と、譲った永田が同時に座った時、今度は永田があることに気付いた。

「あれ、何でオレの名前知ってんすか?」

「さっき会って…、背番号ずっと見てたから覚えてて…、あの後プログラム読み返してN`Carsのページ見て覚えたわけ」

「ああ」


『村山キーストーンズ、シートノックの時間終了です』


 永田が納得した時、オートマチックサイレンが鳴って、村山キーストーンズの選手たちもシートノックを終えた。


「…てか平山」

「ん?」

 情野の物とは銘柄が違うが、平山はペットボトルのお茶を少し口に含むと、話しかけてきた情野のほうを見た。

「いきなりぬうって現れんの止めてくれる? あれびっくりすんだよ。況して間に殆どお前を知らない人を挟んでる状況じゃ…。永田もつられちゃったじゃん」

「え、まずかった?」

―まずかったじゃないのよ…。他の人が見たら何あったのや、って驚くでしょうに…。


 情野と平山がお互いタメ口で話しているのを聞いた永田、2人に質問した。

「あれ…、2人同期?」

「ああうん…、そう」

 情野は右手人差し指で自分と平山を交互に指しながら答えた。

「あれ…、てことは、オレと情野が同期だから…、平山さんとも同…期…?」


 これまた自分含む3者を指差して確かめた永田。


「「「なーんだ。オレら3人、同期かー」」」


―って納得するわけねぇじゃん…。情野と平山は兎も角オレは2人とは今日知り合ったばかりだから同期でもすぐ入れるわけ無いって…。

 3人がお互い同期だと知った一行は、納得するものありナイーブな気持ちを顕わにする者ありと多様な見せつつも、3人横並びで、3塁側から順に情野、平山、永田の順で、バックスクリーンのほうを見てバックネット裏のアルプススタンドの席に座った。


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