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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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1球の選択とその結果

 5対1。代表決定戦第3試合、新庄ゴールデンスターズ 対 山形スタイリーズの試合は、4回の表を終えて山形スタイリーズが4点をリードしていた。序盤に一発攻勢で早くも5対0と大量リードした山形スタイリーズだが、新庄ゴールデンスターズが併殺(ダブルプレー)崩れの間に1点を返して、結果的に初めて作ったチャンスを活かして得点を挙げる格好となった。


 こうなると次の1点がどちらに入るかだが、これが膠着気味で中々入らない。何なら山形スタイリーズは序盤の豪快さが中盤に入って大人しく抑えられていて、新庄ゴールデンスターズは1点こそ挙げたものの平均3点打線で守備のチームとあってはチャンスもそうそう作れない。


 試合が大人しくなった。得点の入った1回裏、2回裏、4回表以外は0を並べ続けて、5回の裏へと突入した。情野との挨拶を終えて戻って来た直後は外野フェンスに出来るだけ近い位置に座っていた永田だが、新庄ゴールデンスターズが1点を挙げて以降は元の位置に戻って座った。


―このまま行くのかなぁ…。

―この後も無失点に抑え続ければ新庄ゴールデンスターズにも勝機あんねんけど。

―そうか? あのガチムチバッターが居る限りそうは思えへんで。

―あっ…。


 永田、関川、片山、都筑がこの後の展開を予想する中、5回の裏山形スタイリーズは2アウトながら追加点のチャンスを作った。

―それ見てみい…。ただで済まされへんようになったで。今日はタイミングも合っとるから尚更や。


『4番 サード 武田』

 片山が言うガチムチバッターが打席に入る。

―無失点やろ? 敬遠でもええ。てかそうで無いと抑えられへんでこのピッチャー。

―けどキャッチャー座っとるで。

「は?」

 片山は思わず声を上げた。

―何で? あそこのキャッチャー何考えとんねん。あのピッチャーの球威では抑えられへんで。バックの守備が堅いからその投手(タイプ)のほうが相性ええねんけど、武田の今日の打席を見る限り2打席ともきっちり矯めがとれてる。っちぅことはもうタイミングはドンピーや。どのコースに投げてもどの球種を投げてももう通用せえへんのに…、座るか…。

―開次が声上げるんもわかるわ。これ立たへんと厳しいで。このピッチャーは球種の多彩さとコントロールの良さはウチで言うたら京太タイプ、球威で言うたら永田タイプ。まあそれでも永田より球威はあんねんけどな。オレがアイツやったらマスク越しの相手が京太やったらコースはアウトロー中心に、球種の多彩さを活かして変化球多めのリード。永田やったら…、敬遠やな。もう1点もやれへん場面やから。その上で次のバッターには兎に角低めにストライクを投げさせて早めに打ち取る。けど捕手(アイツ)…、勝負? そしてインコース?


 新庄バッテリーの選択に色々内心で苦言を呈すN`Carsのバッテリー。片山がどちらかと言えば投手の視点から、関川が捕手の視点からそれぞれ意見を持っている中、球が投じられる。


カキ―ン!


「「あー、言わんこっちゃない…」」


 打ち返した瞬間、見事なハモリを見せたN`Carsバッテリー。同時に片山は右手で顔を伏せて上を見上げ、関川は若干左下を向くように頭垂れた。


『痛烈、ピッチャー返しはセンター前―っ!! タイムリーヒットとなって6対1、再び5点差に開きました!! そして武田は今日4打点!!』


―何で勝負に行ったんやあのバッテリー…。もう通用するボールや無いのに…。

―外から内に喰い込むボールでクロスファイア効かせようとしたんやろな…。球種はそういうボールやったけど、その途中…、特にベース上で真ん中に来てしまえばタイミングがとれてる以上もう意味あらへん。


 片山と関川、それぞれがピッチャーとキャッチャーの立場から苦言を呈しつつも、同時に今の1球、今の1点を悔いていた。

 いや、一番悔いているのは新庄バッテリーかもしれない。関川はピッチャーとキャッチャー、両者の表情を見ていた。


―今の1球で…、気持ち切れかかってるな…。この後を抑えれば持ち直すかもしれへんけど、そのままズルズル行ったらどうしようもないで。

―これどないすんねん…。あと2回やぞ。どないやってあと5回ホーム踏むねん新庄(アイツら)


 悔いの後呆れたような気持ちになった片山は、顔を伏せていた右手を解いた後、帽子を取って右手の人差し指で回し始めながら両者(バッテリー)を見ていた。


『尚も2アウト1塁とチャンスは続きます』

―4回で済んでたもんが5回になってしもうたからなー。これで控え投手(ピッチャー)なんか継ぎ込んだらそれこそあと2回を待たずして白旗やわ。

 片山は座っていた姿勢から上半身を人工芝の上に仰向けに寝かせると、帽子を廻し止めて自分の顔の上に置いた。

―やっぱり投げさすか。このまま行く気やな…、あ。


「終わった」

「終わったー?」

「うん。グラウンド整備始まったで」

 試合を観続けていた関川に教えられた片山は、顔の上の帽子を取った後、目深ではあるが頭に被り直した。


「…見んの?」

「グラウンド整備やろ? それにあの様子やったら山形スタイリーズがよっぽどのヘマせん限り試合の大方決まったで」

 帽子を目深に被って、更に両腕を頭の後ろに廻したエースピッチャーはこう言った。

―うーん…、確かに開次の言う通りあと2回で5点差…。次の回もこれかそれ以上の差がついたら山形スタイリーズは控え投手(ピー)を登板させてエース温存の上で抑える余裕も出て来そうやな。平均3点の新庄ゴールデンスターズ打線では2回で5点はきつい上に横山から4回以外はチャンスらしいチャンスも無い…、ん?


 関川がチラッと片山を見遣ると、先程から仰向けになっていたエースピッチャーは完全にリラックスモードに入っていた。

―オレもリラックスするか…。但し6回の表が始まるまで。

 関川も上半身を人工芝の上に寝かせて、こちらは帽子を真っ直ぐに被ったままリラックスモードに入った。


『6回の表、新庄ゴールデンスターズの攻撃は―』

 ウグイス嬢のアナウンスが聴こえて、関川はリラックスモードから起き上がった。既にグラウンド整備は終わっていて、山形スタイリーズの守備陣が各ポジションに就いている。が、

―ホンマにリラックスモード入っとる…。これ、起こさん様にしたほうがええな…。

隣で同じくリラックスモードに入っていたエースピッチャーは、リラックスを通り越してお休みムードに入っていた。取り敢えず、関川は自分だけでも試合を最後まで観ておこうと、グラウンドを見た。


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