粋な計らい
「ご馳走様でした」
1人、昼食を終えて、その時に出たゴミを片付けに行った時だった。
「永田、帰りに何かあんの?」
高峰だった。
「ん、あの、オレだけ閉会式出るから、それの」
「えっ…、ああ、代表決定戦終わってからのヤツか」
どうやら先程の会話を聞いていたようだった。
「てかどうするの? オレだけ、って言ったけど」
「んー、こっから長井までの交通費を確保できるだけのお金はあるから…、それで」
とは言ったがしかし、高峰はスマートフォンを取り出した。
―ちょっとなあ…、時間によっちゃー下手したらバスも電車も無いよ?
そのまま誰かに掛けているようだ。と、
「永田くん」
誰かが呼び止める声が。良く見ると、井手だった。
「ゴミ捨てるんでしょ? この中へ入れて」
ゴミを片付けようとして、そのまま立ったままだった。永田は持っていたゴミをゴミ袋に片付けた。
「ん?」
ペットボトルに入っていた残りのお茶を飲み始めた時、高峰が手招きで永田を呼んだ。
「一応、オレの知り合いに電話かけて、二つ返事でOKして貰ったから。帰る方向一緒だから多分問題無いと思う。まだ球場の近くにいる筈だから、一応挨拶…」
「…してきたほうが良いかな?」
「うん、早めのほうが良い。後からだとやり辛いでしょ?」
「…うん、まあな。で、何て人?」
ここで永田は高峰からその知り合いの名前を聞いたが、その人が衝撃的だった。
「…えっ?」
1人、球場の外に出た永田は、外周を歩きその人を探した。
―球場の近くって言うから多分この辺だと思うけど…、ん?
球場の外の壁に、両腕を上げて頭の上で組み、凭れ掛かるようにして立っているユニフォーム姿の男性の姿があった。見た限り、年齢は若そうだったが…。
―…まさかこの人じゃないよな…?
永田が目を切りかけた時、その人が手招きで永田を呼んだ。永田は自分かと自分に指を指して確かめると、頷いたのでそちらに歩いて向かった。
「ああ、アンタか?」
「ええ…、で、あなた情野さん?」
「うん。N`Carsのキャプテンを帰りに乗せてってくれないかって、京太から連絡あって」
―京太…? 高峰の下の名前か。間違いない。
「改めて、永田です」
「宜しく。オレは米沢ローリングスの情野」
2人はお互いに握手を交わした。と、
「ああ、タメ語で良いよ」
「えっ」
「京太と同学年でしょ? オレも京太と学年一緒だからさ」
「あ…、そうなの?」
情野から、タメ語で良いと言われた。顔を合わせたばかりなのに同学年という理由だけでタメ語で良いというのには何か申し訳ない気もしたが、ここはすんなりと受け入れることにした。
「…で、今何してるの?」
「試合観てる」
「あ…、ごめんな。良いところだったかもしれないのに」
「あー良い良い。早めに挨拶しておいたほうが良いって思ってたから。で、そっちは何してるの?」
「…ランメニュー。まあ今インターバル中だけど」
「…何かこっちも邪魔しちゃったな」
「良い良いインターバルだから。京太から連絡来たのもランメニューとインターバルの境目位だったから」
「他の皆さんは?」
「帰ったよ。ほら、閉会式は代表チームのキャプテンだけでしょ?」
「ああ、そうか」
「暇だから自主練でランメニューやってたわけ。監督からも代表になったら閉会式オレだけ出ることになるから帰りの足確保しとけよって言われて、だからオレだけ車で来て、京太の頼みもOKしたってわけ」
そういうことだったのか…。情野がどうして高峰の頼みを二つ返事でOKしたのか、その理由がわかったと同時に、今度はお互い今やっていることを邪魔してしまったような申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「じゃあ、閉会式で」
「うん。そっちもボールに気を付けろよ」
―…知ってたのか…?
永田と情野は、お互いやっていたことに戻った。情野は近くの自動販売機で水分を確保してからランメニューを再開して、永田は再び試合を観に駆け足で外野スタンドへと戻った。




