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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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74/136

全国大会へ向けて

その頃、3塁側ロッカールーム


 全国草野球選手権大会、山形県大会に初出場で初勝利、そこから合計4勝を積み重ねて、見事初出場で全国大会初出場を決めたN`Carsのメンバーは、全員荷物と道具を持って3塁側ロッカールームにいた。


「では、これからミーティングを始めます。お願いします」

「お願いします」


 いつものように、永田がミーティングの挨拶の音頭を取って、他のメンバーがそれに続く。

 続いて徳山監督の談話。


「まずは皆、お疲れ様。…そしておめでとう」

「ありがとうございまーす」

 N`Carsのメンバーが徳山監督からの祝福にお礼を述べる中、

「監督もおめでとうございます」

と、永田は1人、徳山監督に祝福の言葉を返した。しかし昨日とはトーンが違う。


「ああ…、どした?」

「えっ…、いや…、昨日までは次があったから皆次に備えて、っていう心構えでしたけど、今日は勝ったけどそれが()()()()()()()から…、何か寂しいな、と思って…」

「ああ…、確かにな…。県大会は確かに今日までだけんど、この全国草野球選手権大会はまだ終わってねぇぞ。ちょっとインターバルがあるだけで、今度は全国大会があるんだ。例えで言うなら、本来進むべき道を、1つ何かしらのチェックポイントを通過したところで中休みを貰っでる様なものだ。だがら今度は、全国大会さ向けで何をすべきか、っていうのをこのミーティングで話し合う。そうすれば、再スタートした時に、本来進むべき道をより真っ直ぐ進むことが出来るぞ」


 徳山監督はメンバー全員にこう諭した。これを見ていた永田は、この時の徳山監督の様子がどこかさまになっているように見えた。

―そう言えばこの人昔教員だったな…。この前に教壇を置いてもおかしくない。似合う。


 そのまま徳山監督は続けた。

「まず今日の試合だが…、どっちがって言うと良ぐ耐えたな、っていうのが感想」

「耐えた…?」

「耐えた、って…」

 徳山監督の「耐えた」というワードに少しざわつく中、永田が質問する。

「耐えた、というのは…?」

「攻守ともに、相手が格上っていう中で、良く我慢したと思うよ。まず打撃面が格上のピッチャーの平吹さ抑えられでたな。これは皆悔しいと思う。バッティングに力入れで勝って来たチームが、自分たちの得意分野を封じられではどう勝って良いが、わがらねがったと思う。ただその中で守備のほうは、ミスは出てしまったけんど余計に出してしまったランナーを還さねがったのは大きかったと思う。確り守っで耐えで…、チャンスが来たらそれをものにする…、地味かもしれねぇけんど、相手が格上の時程この戦い方は有効になってくるがらな、皆確り体に覚えとけよ」

「はい!」


 徳山監督から確りとその意味と説明をして貰ったメンバーが、一斉に返事をした。その後で徳山監督は続ける。


「片山」

「はい」

「今日はおめのピッチングとバッティングに助けられだ部分も大きがっだと思う。格上相手ってことでおめもしんどがっだがもしれねぇけんどよ、良ぐあそこまで行けだな」

「ありがとうございます」

「途中のパーフェクトさ抑えでだ部分は出来過ぎだとしても、良く好投してくれた。あのピッチャーの平吹がら、良くあそこまで飛ばした。ナイスピッチ、ナイスバッティング」

 立て続けの誉め言葉に、片山は軽く頷いた。

「全国大会でも格上のチームとはしょっちゅう当たるかもしれねぇが、その時は頼むぞ」

「はい。あ、でもオレら格上好きなんで。何なら全部格上でもええ位です」

「オレや開次はな。けど皆が付いて来れへんかったら意味無いで。オレらだけが頑張っても勝てへん。その証拠にあれ見てみい」


 関川が見る先は、片山の話を聞くなり、左手を額に当てて何やら抱え込んでしまっている永田の姿があった。


「それってつまり、オレにそういう籤を引け、ってこと…?」

「誰も永田にそないなこと言うとらん。それにあくまで開次の個人的希望や。まずどんな時でも常に勝つ気持ちで居れ、相手を舐めたらアカン、戦う前は皆猛者やから。練習でやってきたことを存分に見せて、常に勝つ、攻める気持ちを捨てずに全力でプレーせえっちゅうんが監督の教えや。せやから籤が何引こうが、相手がどこやろうが、考え方は一緒やで。これは皆にも言えることやからな」

 話の途中から、関川は皆のほうを向いてこう言った。その上で再び永田のほうを向いてこう続けた。

「お前にそないな籤を引いて貰うっちぅ話やなくて、相手は常に格上っちぅ気持ちで居れ、っちぅ話や。その気持ちが強く出とる開次(アイツ)やからああいう発言が出たまでや。…誤解させて悪かったな。実力が足らんかったりええ結果を出さなアカンいう思いからビビって後ろ向きな気持ちになってまうけど、この気持ちを持ち続けていれば、何れお前も前向きで強気な気持ちになれると思うで…」

「ああ…」


 関川の解釈を聞いて、永田は少し落ち着いた。

―まー良かったよ…。悪い籤引いて吊し上げになんの嫌だったもん…。


「だから開次はああ言ったのか」

「そう」

 座りながら小宮山に返した関川に、片山が声を掛ける。


「おい」

「ん?」

「何でお前先に謝んねん…、説明終わったらオレから先に面下げよう思たのに」

「誤解は早めに解いたほうがええやろ…。せやから先にやらして貰うたわ。言った主は確かにお前やけど、早めのほうがええ思てな。お前も永田に謝るんやったら早いほうがええで」

「ああ…」


 すると片山は立ち上がって、両手を合わせて頭を下げた…。しかしそれだけだった。

「何でジェスチャーだけやねん、ちゃんと言葉で謝罪せんかい!」

 これを見た関川、片山の腰付近をツッコミの要領で右手で打つ。途端に他のメンバーからは冗談と思われたのか、笑い声が聞こえた。

「あだ」

「お前やろ誤解してまうようなこと言うたのー。真面目にやれや」

「はい2人とも揉めなーい。皆も静かにしてー」

 永田がすかさず皆を静かにさせた。


「すまんかったな」

「あ、うん」

という片山と永田のやり取りの後、片山はその場に座った。


 それから今度は、再び徳山監督が話す。

「うん、関川の言ってくれた通りだ。巧いヤツがどんなに頑張っても、他が付いて来れねぇんだば勝てねぇ。だがらたとえソイツらより下手だったとしても、下手なりに勝つ、攻めるって気持ちを持てば自ずとそれは伝わるもんだ。ではどうするか…、その気持ちがあれば、悪がっだところを反省・修正することも出来るわけだ」

「…それで行くと、今日は攻守とも駄目でしたね…」

「いや、駄目は極端だけんどよ、確かに今日は打つほうは平吹さパッタリ抑えられで、守るほうは粘って0に抑えはしたけんどミスは出てしまったもんな。全国クラスの平吹でこれだば…、確かに今のままの打撃(バッティング)では全国のピッチャーを打って勝つということは難しい。だがら今後は全国クラスのピッチャーの球を打つ練習を重ねで行かねどなんねぇな。けどそれで言うど永田、おめ初ヒット打ったじゃん」

「え」

 途端に他のメンバー全員から拍手が沸き起こった。

―オレのヒットなんて1番駄目な当たりじゃん。

「いや、ちょちょちょっと待って、あんな地味でボテボテな当たりで拍手起こさないで」

 自分のヒットの中身が恥ずかしかった永田は、大慌てで全員の拍手を止めさせた。

―だからさっき攻守とも駄目って言ったんだよ…。結果もだけど中身も駄目、っつうパターンはそうだけど結果が良くても中身が駄目なら余計そう思うのよ。

「うん、本人がわがっでる様だがら良いけんど、ヒットっていう結果はまず出た、けど今度は同じ様なボールをクリーンヒットさしねぇど勝でない、何より本人が成長しない。だがら次以降の練習では打撃(バッティング)ではそれを重点的にやりましょう、ってこと」


―1番オレが例え易かったのか? あんな当たりじゃなぁ…。

 いや、ただ単にマイナスのコメントを発した上暗い雰囲気だったので、まずポジティブに気持ちを持って貰おう、ということだろう。

 そのまま徳山監督は続ける。

「次に守備。大会通じて言えるのが、失策が多い、それも失点さ繋がる失策が多いっつうごどだ。スローイングよりも、キャッチングのミスが多い。キャッチングはどんな打球でもボールを確りグローブさ収めでそのまま掴む、っていう動作が出来なげれば次の動作も出来ない、アウトも取れない、何よりテンポが悪ぐなってしまう。だがらまずは確りとボールの正面さ入っで、グローブさ収めでそのまま掴むっていう…、本当に基本的なことだけんど、それを全国大会入るまでに重点的にやりましょう」

「はい!」

―ウチは打撃重視で練習して来たがら正直守備で今一歩劣ってしまうのは仕方無い。だけんど最低限、守るべき場面では守れねぇど本当に困る。正直小中学生レベルの守備の指導だが…、小中学生でやるってことはそこが基礎になってるってことだがらな。ウチの様な打撃が良くて守備が良ぐねぇチームさは、これが良いのかもしれねぇな。


 一通り今日の試合、及び大会通じての良かった点と悪かった点を挙げた後、徳山監督は続ける。


「で、この後なんだけんど」

「はい」

「荷物纏めで、ロッカールーム掃除した後、第3試合観ます」

「…えっ?」

「観る?」

 第3試合を見るという発言に、関川と萩原が反応を見せる。

「…いや、全国大会さ行くんだば、そこで活躍して実績上げてるチームの野球がどんなもんか観るのが良いんでねぇが、って思ったのよ。巧いチームの野球を観るのも良い練習だがらよ」

 確かに、次の試合の新庄ゴールデンスターズ 対 山形スタイリーズは、どちらも全国大会に出場したことがあるチーム同士の対戦である。新庄ゴールデンスターズはこれまでに2回出場していてまだ全国大会での勝ち星は上げていないが、山形スタイリーズは山形県勢最多の18回出場していて勝利数も県勢最多、何なら直近の出場で県勢最高成績タイのベスト4まで記録している。

 全国大会経験チーム同士が当たるのは代表決定戦4試合中この試合のみで、残り3試合は全て勝てば初出場 対 全国大会経験チームという構図であった。

 これを聞いた片山が質問する。

「でもどこで観るんですか?」

「内野が良いど思ったけんど…、ちょっと人多いがら、外野だな」

―外野ねぇ…。ま、浩介とゆっくりストレッチしながら観れるか…。

「ありがとうございます」


 一通りの話が終わった徳山監督は、アイコンタクトで永田に話の主導権を渡す。

「今日も良かったところ、悪かったところ、それぞれ全国大会に向けて肝に銘じて、では」

「以上だな」

「はい。これでミーティングを終わります。ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「では忘れ物ないように荷物纏めて、あといつものようにこのロッカールームを掃除してから出ましょう。出た後は外野席に行きます」

「はい!」

 N`Carsのメンバーはミーティングを締めると、すぐにロッカールームの掃除に取り掛かった。


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