アフタールーティン
『第3試合、新庄ゴールデンスターズ 対 山形スタイリーズの試合は、午後1時35分試合開始予定でございます』
『今場内でのアナウンスがありました通り、第3試合は午後1時35分試合開始予定との発表がありました。渡邊さん』
『はい』
『延長11回、試合時間2時間43分に及ぶ熱戦となりました今日の第2試合ですが、振り返って如何ですか』
『お互いここまで3試合、強打で勝ち上がって来たチームという印象でしたので、お互い好投手を持っていると言えども今日は打ち合いになるんじゃないかという予想もあったんですが、蓋を開けてみれば両エースピッチャーの好投が光った試合でしたね』
「ベンチ拭きはオレらでやるから! 皆は荷物と道具片付けてて!」
先に3塁側ベンチに戻った永田と萩原がいつもよりハイペースでベンチを拭く中、他のメンバーはこれまたいつもよりハイペースで荷物と道具を片付け始めた。
その傍ら、解説者の渡邊が好投が光ったといううちの1人、片山が、関川とクールダウンのキャッチボールをしていた。
『鶴岡クレーンズのエースピッチャー・平吹、N`Carsのエースピッチャー・片山、どちらもお互い打撃のチームを前にして、素晴らしいピッチングでした。平吹投手は今日で4連投目という中でこの試合の成績…、ですから投球回10回と1/3イニング、奪った三振は相手先発から全員の16個、打たれたヒットは6本、与えた四球は3つ、失点は3で自責点は2…、これを合わせますと総合成績でも凄い数字です』
『4試合で投球回合計30と1/3イニング、被安打が合計20、失点が合計4で自責点が合計で3…、ですから今大会防御率0.70…、負けて尚この凄さですから如何に平吹投手が攻略の難しい好投手だったかがわかります』
『またこの中で打たれたヒット6本、失点は3で自責点は2とお伝えしたんですが、N`Carsの関川選手の最終打席につきまして、公式記録員より、ショートへのタイムリー内野安打で打点1、そしてサヨナラとなった3点目についてはそのショートの本塁への悪送球と記録されました…』
―良し、アイシング巻き終えた、荷物と道具も全部出してる、ベンチも拭き終えた…。
ベンチ拭きに使った雑巾が2枚あることを確認して、永田はそれらをバッグに閉まいながらベンチからグラウンドに向かった。
「皆さんお待たせしました、どうぞ」
「お前が言う前に皆ベンチに入ってキャッチボールとかしとるがな」
「えっ…」
永田は山形スタイリーズの皆様がお待ちだろうと思って声を掛けたが、関川が言う通り彼らは既にベンチに荷物と道具を置いて3塁側ブルペンの前後でキャッチボールを始めていた。グラウンドは今整備中なので、キャッチボールをしながらシートノックの時間を待つ、という状況だ。
『次に片山投手の成績ですが、3試合で投球回合計25回、被安打が合計11、失点が8ですが自責点は今日記録してしまった2点のみで、防御率は0.56。奪った三振は今日の13個を含めて3試合で合計29個、与えた四死球は今日の四球1個を含めて3個。スピードとコントロールを兼ね備えた素晴らしい投手で、また今大会で相手先発全員奪三振を2度、無四死球試合を1度達成しました』
『大会が始まった当初はN`Carsというチーム自体が登録1年目で初出場ということもあって無名だったんですが、こんなに素晴らしくて攻略が難しい投手がいたということで…、多くの方も見直されたんじゃないかと思います』
「お前で大分時間喰うとるでホンマ…、アイシング終わったらオレらこの後ストレッチもあんねん」
「あーはい…、もう皆並んでいるのね…、わかったわかった…。気を付け、礼! ありがとうございました!!」
「ありがとうございました!!」
『両投手攻略しにくいという中で、攻撃面・走塁面については?』
『まずは鶴岡クレーンズの羽黒選手ですね。N`Carsの片山投手のストレートを逆方向に、鋭いスイングで持って行ったあの先頭打者ホームランは素晴らしかったです。この羽黒選手を筆頭に鶴岡クレーンズの各バッターは皆良いスイングをしていたんですが、逆にあのホームランで片山投手が開き直ったような投球をしたのもあって、良いスイングをしても尚打てず、延長に入るまでほぼノーチャンスでしたからね…。次に延長に入ってからのほうが鶴岡クレーンズは相手のミスもあって良く攻められていたんですが、延長11回に平吹選手が自ら打つまでチャンスを得て進めて広げておきながら片山投手に粘られてあと1歩取れないというイニングが何イニングもあったのが苦戦・敗戦の要因ですね』
『次にN`Carsはどうでしたか?』
『相手の平吹投手が得点圏にランナーを進めることすら難しい投手ということもあって、1塁には何とか形を作っていたんですが、そこから中々ランナーを進めることが出来なかった、というのが序盤の印象でした。しかしランナーが得点圏に行った5回と延長11回は2イングとも点に出来ていましたので、前回の最上ノーストップズ戦同様、少ないチャンスをものにする野球が出来ていたと思います。16三振を奪われた上4回までは2塁を踏めなかったという、3試合で平均7得点の打線が平吹投手の前に抑えられていた中で、持ち前のスイングの良さとチャンスでの集中力の高さは素晴らしいと思います』
『では走塁面のほうは?』
『どちらかと言うと鶴岡クレーンズのほうがアグレッシブに攻められていたかな、と思います。特に先程も申し上げました通り延長回に入ってからなんですが、積極的に足技を使おうとする姿勢が見られました。また記録に表れないような場面でも積極的に次の塁を狙おうとしたりと…、フライアウトで野手が打球を捕るまでの間に打者走者が2塁近くまで行っていたりと、盗塁こそ関川捕手の強肩の前に出来ませんでしたが、走れる場面であれば隙あらば行くという印象でした。N`Carsもアウトにはならずとも何回か牽制をバッテリーから貰ったりモーションで攪乱したりと相手バッテリーに足技があるという意識を植え付けはしたんですが、格上チームのバッテリーということもあって実行までには至りませんでしたね』
『さあこれで代表決定戦第2試合までが終わりました。山形県代表2チーム目は延長11回、逆転サヨナラで初出場のN`Carsが3対2で勝利して代表の座を掴んだというゲームでした。第1試合では米沢ローリングスが4対1で白鷹ホワイトホークスを下して代表の座を掴みました。置賜勢同士の対戦とは言え米沢ローリングスはチームとしても、また置賜勢としても25年振り2回目の山形県代表の座を掴み取っていますので、それに続く置賜勢からの山形県代表となりました。また先程も申し上げました通り第2試合が延長11回、2時間43分という長い試合になりましたので、第3試合は予定を35分遅らせて午後1時35分の試合開始予定です』
グラウンド整備はもうすぐ終わる。その中を、N`Carsの選手たちは全員グラウンドにそれぞれ一礼をしてからベンチ側の専用の通路を通ってロッカールームに戻る。
―良いバッターたちだったよ…。何ならウチが勝つまで何度でも対戦したいね…、あれ?
「兼人…、いつもの」
「あっ…、ああ…、気を付け! 礼! …ありがとうございました!!」
「ありがとうございました!!」
―良裕はどうやら立ち直った様なのに、兼人はまだ引き摺ってるのかな…。さっきも良裕に声掛けられるまで放心状態だったもんな…。
引き摺っている、というよりかは、時間が経って自責の念に段々と大きく駆られた様だった。藤島の言う通り確かに羽黒は平吹に声を掛けられるまで放心状態だったが、最初から引き摺っているなら試合終了後の挨拶で握手を求めたりはしないだろう。
況してそれが、主将同志とは言え自分のエラーでサヨナラのホームを赦してしまった張本人相手なら…。
『山形スタイリーズ、シートノックの準備をしてください』
グラウンドでは、第3試合に登場する山形スタイリーズの選手たちがシートノックを受けるべく、それぞれのポジションに就いている。その中を、どこか重い足取りで、鶴岡クレーンズの選手たちも専用の通路を通ってロッカールームに戻っていく。
『この後第3試合は新庄ゴールデンスターズ 対 山形スタイリーズ、その後の第4試合は村山キーストーンズ 対 酒田ブルティモアズの試合がそれぞれ予定されています。全国草野球選手権 山形県大会も残すところあと代表決定戦の2試合、残る山形県代表の座もあと2つとなりました。その2つは果たしてどこか、熱戦を期待しましょう。解説は社会人野球山形興業で選手時代に2度、日本一に輝きその後監督に就任、10年間務められました渡邊さん、実況は私、佐田でこの試合の模様をお送りしました。渡邊さん本日はどうもありがとうございました』
『148km/h 対 146km/hの快速球右腕対決にして8点打線 対 7点打線の対決、また見てみたいです。こちらこそ本日はありがとうございました』
『渡邊さんから両チームのエースピッチャー及び打線に対して最高の誉め言葉を頂いたところで、放送席の解説者と実況を交代します。放送席交代の間、テレビ・ラジオでご視聴の皆様にはこの後3分間のそれぞれの番組のお知らせに引き続き、代表決定戦第3試合、新庄ゴールデンスターズ 対 山形スタイリーズのお伝えして参ります。第3試合は午後1時35分試合開始の予定です』




