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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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表彰式と全国大会のブロック抽選

 いつもなら一礼の後お互いに向かい合っている選手同士で激励や労いの言葉をかけ、握手を交わすのだが…、とてもそんな気にはなれなかった。


 合わせて良いんだろうか…。()()を見た後だから余計に合わせ辛かった。


だが、右手を差し出して待機している人が1人いた。


羽黒だった…。


―良いの…?


 少し迷ったが…、待たせるわけにもいかないと思って、握手を受け入れた。


「頑張って来いよ」

「…うん」

 握手を交わした後、その右手で永田の左肩を抱くようにポンと叩いた羽黒。1塁側ベンチへ帰っていく背番号6を見送ったまま、檄を送られた永田は暫く立ち続けた。


「永田、何してんの」

「えっ」

「早く早く。いつものルーティンするんでしょ?」

 先に握手を交わして3塁側ベンチ前に戻りかけた他のメンバーに呼ばれて、永田は漸く我に返って駆け足でその列に戻った。

「昨日のオレみたいなことすな」

「うるさいな。あれは向こうから呼んだんでしょ? それよりも皆、応援団挨拶行くよ」

「いや…、ちゃうで」

「えっ?」


 関川が指で指し示す方向には、バックネット側に向けられたスタンドマイクが置かれていた。すると大会会長と役員が複数名、その一部は折り畳み式のテーブルを持って出て来た。


「N`Carsのキャプテン」

「はい」

 役員の1人に呼ばれた永田が、そのままスタンドマイクのあるホームベース後方へ向かった。

―そっか表彰式があったんだ…。

 表彰式の後にいつものルーティンを行うということを失念してしまった永田は、自分の迂闊なスケジュール管理を反省しながらスタンドマイクの正面に立った。


 しかし、同じく失念してしまった人がもう1人いた。


「表彰式あったの忘れてた…」

「瞬も迂闊やったな」

 萩原である。整列の時永田だけそのままにしておけば良かったものを、自分が本能で呼んだばっかりに永田は1度、3塁側ベンチ前に戻りかけてしまっていた。

「永田に無駄な労力使わせちまった…」

「皆試合(ゲーム)に集中しとったからな」

 味方の試合外のミスを関川(副キャプテン)がフォローする中、


『全国草野球選手権大会・山形県代表決定戦第2試合。表彰式・表彰状授与』


ウグイス嬢のこの一言で、表彰式が始まった。


『N`Cars主将、永田 晋也』

「はい」

 永田は緊張した足取りのまま、1歩、2歩…と、スタンドマイクの前まで進む。


『表彰状、N`Cars殿。貴団体は全国草野球選手権 山形県大会に於いて大変優秀な成績を収めましたのでここに表彰いたします』


 その後日付と大会会長の氏名が読み上げられて、表彰状が永田の前に差し出されると、緊張したままの永田はゆっくりと片腕ずつ表彰状の前に差し出して、両手で丁寧に受け取った。しかしあまりの緊張に、


「大丈夫?」

「…はい」

「おめでとう」

「ありがとうございます」


と、思わず大会会長が永田に訊ねて、ちょこっとだけ永田とのやり取りが交わされた。


 そして、両手で表彰状を持ったまま1歩、2歩…と、ゆっくり後ろに下がって、大会会長とお互いに礼を交わす…、と、何を思ったのか永田は3塁側ベンチに歩を進め始めた。


「いやこっちこっち」

「えっ」

 呼び止めた役員が持っていたバインダーを見て、


―…あそっか…。


再び引き返して、その役員がいる台へ向かうと、表彰状をその役員に渡した。

「じゃあこれは後で閉会式の時に」

「はい」

 すると今度は、その左横にあった箱を見つけた。


―これは覚えてる…。米沢ローリングスの情野も引いていた、全国大会に絡む籤の箱だな。


「では、ここから籤を1枚引いてください」

「はい」


 永田が右手を差し出そうとして、途中で止めた。


「…ところでこれ何の籤ですか?」

「全国大会のブロックを決める籤だよ。今年は4代表だから、籤にAからDまでが書かれてあって、全国大会の時はその籤に書かれてあるブロックに入って、そこで再び抽選をする、というわけ」

「ありがとうございます」


 全国大会のブロックを決める予備抽選の籤だとわかった永田だったが、そうとわかると再び緊張し始めた。


―待てよ…。これ拙いとこ引いちゃ駄目だよな…。今年は4代表だけど既に1枚引かれているから実質1/3…。さあどこだ…。拙いとこじゃないことを祈って…。


 恐る恐る右手を抽選箱の中に入れる。右手で探りながら茶封筒の感触を得ると、そのままゆっくりと丁寧に引き上げた。


「…B?」

 茶封筒を丁寧に開けると、そこにはBと書かれた籤の紙が入っていた。しかしもう1枚入っている。見るとこれもBと書かれていた。これはどういうことか。

「あの…、2枚入っていたんですけど」

「ああ、1枚はウチで預かって、もう1枚は各チームの控えに持っておいて。全国大会の抽選会の時にそれ持って各ブロックの抽選会場に入るから」

「ありがとうございます」

「N`Carsさん、Bブロックです」


 表彰式の前に取った帽子を再び被り直しながら、駆け足で3塁側ベンチに向かう。


『以上で代表決定戦第2試合の表彰式・表彰状授与を終わります。選手・ご来場の皆様、ご協力ありがとうございました』


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