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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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70/136

全国大会決定!

「点は取られたがムードが悪ぐなったわけでは無ぇ。それにこっちも1番がらだ。今の良いムードを維持したまま、まずは追い付いで来い。良いな!?」

「はい!」

「良ーし、まずは…、確実に。追い付くぞ!!」

「おー!!」

「瞬、涼、出ろよ!」

「ええムードそのままバットに乗せや!」


『11回の表の攻撃で自ら勝ち越しタイムリーを打った平吹が、そのまま1塁からマウンドへ向かいます。ここまで10イニングを投げて球数が96球、打たれたヒットは散発の3本、与えた四死球は何れもフォアボールのみの2個、そして奪三振は振り逃げ1個を含めまして15個という数字。失点・自責点は何れも1点という状況。ですからこちらも100球に近いという状況です』

『イニングを考えると少ない方ではあるんですが走った後なのでね…、ただ自分のバットで援護点を入れられたのでね、それがどこまで効くかというのが鍵になって来そうです』

『1点を勝ち越した鶴岡クレーンズ。裏の守備を締めて2年連続6回目の全国大会出場なるか。1点を追うN`Cars。1番からの上位打線で追い付くことが出来るか』

『どちらにとってもトップバッターが鍵です。鶴岡クレーンズは抑えて、N`Carsは塁に出られるかですよ』

『11回の裏、N`Carsの攻撃は―1番 センター 萩原』

「プレイ!」

『先程センターの守備で見事な好返球を見せた萩原から。今日は4打数ノーヒットと当たっていませんがその中には良い当たりもありました』

『守備で良いプレーをした直後なのでね、ノーヒットと言えども侮れませんよ』


バシィ!


「ストライーク!」

『初球から狙う姿勢は変わりません。ただそれでいて尚も打てない平吹のストレート』

『初回から球威が変わっていませんね。今のも148km/hでした』

―速い…。確かに速いけど、バットに当てて何とか塁に出る。バットに当てれば足がある。ならば…、


―さっきのイメージで、速く低いゴロの打球を…、!!

バシィ!


「ストライクツー!」

『これも空振りです。2ストライク』

―…わかっていても打てない…。目は慣れている筈なのに尚球威を上げて来る平吹の真っ直ぐ…。でも先に点を取られた手前オレは塁に出なければならない。そうすれば…、


―涼と2人で、足技を使うことも出来る―!!

バシィ!


「ストライクスリー! バッターアウト!」

『空振り三振!』

「「「ああっ…」」」

『今ので16個目の三振です。全てストレートで奪いました』

『11イニング目に入っている上もう100球近く投げているのに球威変わりませんね』

『今ので99球ですから…、次が100球目です平吹投手』

『2番 ショート 小宮山』

―あと2つ…。良裕があの球威なら安心して見ていられる。コイツも切れば次は安パイだから()()

『今日は四球(フォアボール)での出塁や良い当たりのライナーを打つシーンもありましたが未だ3打数ノーヒットの小宮山』

―兼人のホームランで始まった今日の試合…。勝ち越し点は自分で入れたけど、皆が頑張ってくれたからここまで来れた…。あと2つだけど()()1()()。確り締めて、今年も全国だ!!


カキ―ン!


『初球センター前ヒットー!!』

「良いぞ涼!!」

「ナイスバッティング!!」

『1アウトから今大会好調の小宮山のセンター前ヒット。これで小宮山は今大会通算11打数6安打』

―終わらせっかよ…。

『萩原選手の三振でムードが沈みかけたんですが…、再び盛り返しましたね』

『鶴岡バッテリーが100球目に選んだ球はストレートでした。そのストレートを小宮山が打ち返してチーム4本目のヒット。1アウト1塁と同点のチャンスです』

『3番 ライト 永田』

『…で、迎えるバッターがこの人なんですよね』

『ここまで今大会通算13打数ノーヒット。スターティングメンバーの中で唯一ヒットがないこの人です』

―追い込まれでる場面だがらな。ここは確実に行ぐぞ。

―はい。

―まあそうだろうな…。良裕2つ行くぞ。

―速い球で強くやらせてゲッツーで締めね…。わかった。

『バントの構えをとっていますが決めるなら確実に行きたい』


キィン!


「ファールボール!」

「ああっ…」

「バントも無理そうだけど涼くん足あるから盗塁も出来ますよ?」

「いや…、アウトさなっではいげねぇランナーだ。真奈美ちゃんの考えもわかるが、ここは潰さずに行ぐ」

『ここも同じ構えをとる永田に対して…、斎と上肴ダッシュ!!』


キィン!


「ファールボール!」

『ここもバント出来ず2ストライク。両者の物凄いチャージの前に自分たちの攻めが出来ず追い込まれました』

―…これスリーバントが…? いやどうせスリーバントやらすんだばファールのほうが良い。空振りだばボールインプレーだがら小宮山も巻き添え喰らうかもしれねぇがらな…。永田だと空振りのリスクもあるがら…、ヒッティングだ。どうせアウトさなるなら思い切り振って三振して来い。

『構えをヒッティングに切り替えました。進塁打を狙おうという考えか』

―せめて前に飛ばして何とか…!!

『追い込まれてからの3球目、今度はチャージしません』


―でやっ!

カッ!


『振って来た、ボテボテのセカンド前!』

「朝日!」

『深めに守っていたセカンド、前にダッシュして来て…、あーっと捌けない!! 素手で拾い直したが投げられない、内野安打!!』

「やった!」

「遂にアイツにヒット出たぞ!」

「え、ヒッ…、あ、ヒットランプ点いた」

『打った永田はヘッドスライディングで1塁へ飛び込んでセーフ。今大会初ヒットで1アウト1・2塁、こちらもこの試合初めての連打でチャンスを作りましたN`Carsです!』

『前に飛ばしたことで何とか繋ぎましたね。内野2塁経由のゲッツーということで二遊間は2人とも深めに守っていました。そこに弱い打球ですから当然ダッシュを強いるわけで…、素手で捌くという判断までは良かったのですがあと1歩、ボールが手に付き切りませんでしたね』

『4番 ファースト 三池』

「タイム!」

『さあここから今大会ホームランを打っているバッターが3人続きます。1アウトランナー1・2塁、1塁ランナーの永田が還れば逆転サヨナラという場面で…、鶴岡クレーンズは守備のタイムを取ります。背番号15、控えの外野手で代走やベースコーチも務める鷹匠が監督の指示を伝えに行きます』


「朝日、今のは仕方無い。切り替えて守ろう」

「うん」

「内野は引き続き2塁経由のゲッツーで。外野は定位置だけどセカンドランナーが俊足だからバックホームで。万一外野は越されても1塁ランナーは絶対に還すな。良い?」

「うん」

「で、バッテリー」

「はい」

「スライダー1本で。さっき俊足のランナーがいながら送りバントをやったように、N`Cars(向こう)は確実な作戦を取ってくるから足技は使い辛い。だからここは打者1本で」

「三池には全球スライダーってことね?」

「うん。だってランナー貯められて関川と片山と勝負するの、嫌でしょ?」

「うん」

「うん」

「うん」

「オレはそれでも良いけど…、チームの為を思うなら三池で切ったほうが良いわな」

―良裕はそうかもしれないけど…、切れる時に切っとかないと後で後悔するのもこの場面だからな…。

「ということで、三池には全球スライダー、内野2塁経由のゲッツー、外野へ飛んでもバックホーム、外野を越されても1塁ランナーは絶対に還すな。良い!?」

「はい!」

「良し、皆でこのピンチ、乗り切るぞ!!」

「おー!!」

「ありがとな鷹匠」

「うん」


『鶴岡クレーンズの内野陣と伝令役の鷹匠がそれぞれ戻ります。延長11回の裏、こちらも重要な局面で延長イニングスでは1イニングにつき1回使える守備のタイムを使いました』

『お互いに重要な場面ということで、守備のタイム中はそれぞれ慎重に作戦を確かめ合ったという印象ですね』

「守備のタイム1回!」

「はい1回です」

『バッターは 三池』

「11回裏、1アウト1・2塁。プレイ!」

―スライダー1本。

―スライダー1本。鷹匠が言うには足技は使って来ないそうだからバッター1本で良い。

―うん。

『どちらにとっても重要な場面を迎えました。N`Carsの積極的な打撃(バッティング)を考えれば初球で決着がつくかもしれません』

「2・3塁にしてええからな!」

「トリは浩介とオレがやったるで!」

『重要な1球で…、ランナー走った!!』

―!?

「えっ!?」


バシィ!


「ボール!」

『いや…、偽走のモーションです。走ってません小宮山』

―おいおい鷹匠…、もとい監督…、足技は使えないって話じゃなかったのか?

―あれおかしいな…、バッター1本で良いって監督に言われたことをそっくりそのまま皆に伝えた筈なのに…。

「何でウエストした? する必要ねえべ」

「良裕がですか?」

「違う。温海が小宮山がモーション取ったのにビビって立っちゃったんだ。ピッチャーは嫌でもキャッチャーの構えたとこさ投げねばなんねぇからこれは鷹匠、お前でも良裕でも無い。温海だ」

『ん? ただバッテリーの表情を見ますと2人とも何か思っていたのと違うかのような表情をしていますね…。温海に至っては1塁側ベンチを見ています』

『さっきの守備のタイム中に話し合った内容と違うのか…、或いはサインミスか…』

「ウエスト要らない。さっき話し合った通りに投げろ!」

「はい!」

「もし走られても2・3塁だからな。すぐには点にはならない。そういう意味もあってバッター1本で行けっつったんだ」

―良いのかランナーいるのに…?


『走ったっ!』

バシィ!


「ボールツー!」

『今度は立ちません温海。スライダー、これは外に外れて2ボール。そしてまたも偽走のモーションの小宮山』

「駄目だ…。温海(アイツ)心の中で足技を警戒してる…。もう1回伝令送っ…、あっ!!」

 先程伝令に行った鷹匠が両腕をクロスさせて×のサインを出す。

「延長に入ると1イニングに付き1回限定ですからもう使えませんよ」

「そっか…。そうだった…。さっき使ったんだ…。こうなりゃキャッチャー代えるか…。公一キャッチャーでライトに鷹匠…、あーでも駄目か」

「え、何でですか?」

N`Cars(アイツら)はバッティングのチームだべ? しかもファーストストライクから積極的に振る…。ってことは、()()をすべき場面もわかっている…。キャッチャーを代える、この代わり端こそ狙い目だからそれこそやられる…」


バシィ!


「ボールスリー!」

『またも偽走、またもスライダー…で、走らず、ボールもアウトコースに外れてボールスリー』

「ってことは…」

「今は規則的にも場面的にも動けない…。キャッチャーだけがマウンドに行けるんだが今回はそのキャッチャーが問題だからな…」


―指銜えて、見てるしかねえのか…。


バシィ!


「ボールフォア!」

『今度は走りませんでした…が、フォアボール! アウトコースのスライダー外れて平吹投手今日3つ目のフォアボール! 三池が選んで1アウト満塁、N`Carsこの試合初めての満塁のチャンスに打撃好調のバッターを立て続けに迎えます』

『5番 キャッチャー 関川』

―試合のトリを飾るには相応しい場面だな。満塁で関川と片山(あの2人)だからね。

―本当に良裕(アイツ)はポジティブだよな…。オレなんて今でさえ心身共に疲れそうなのにマウンドにいるなんてなったら…。

『今日もセンター前ヒットが1本あります。今大会勝負強いバッティングを発揮して来た関川、そして次の片山』

―こういう時に打ててこそ最高のバッター。ならばオレもベストボールで応えたいから…、温海、関川()と次の片山には全球ベストボールで行かせてくれ。

―全球ストレート!? …良しわかった。良裕(お前)のベストボールでこの試合締めようぜ。

―この場面で臆するどころか前向きに来る平吹(アンタ)のメンタル…、技術(テク)と体力だけやない、心技体揃ったええ選手や。面見てたらわかる…、多分どんな球種でも、お前のベストボールで来る筈や…。

『1アウト満塁ですのでサードとファーストはホーム経由で、二遊間はセカンド経由でそれぞれダブルプレーを狙おうという姿勢』

『全ての内野手がホームを狙わなければならないわけではありませんのでこれで良いと思います』


―行くぞ温海。捕れよ。

―来い良裕。

―ベストのスイングで捉える。


『このピンチの場面で特に優れた好打者に対して鶴岡バッテリーは初球何から入るか、この試合の108球目』


―この試合、勝って締める!!

―ストレートや! 行かせて貰うで!!


キィン!


『初球攻撃、三遊間―抜けない!! 羽黒ダイビングで捕った!!』

「兼人!」

『そのままスローイング…、』


「え!?」


「…」


『あ―――っ、ホームへの送球が逸れた――!! ボールはバックネットへ、同点のランナーホームイン、セカンドランナーも3塁を廻った!!』

「温海早くしろ! オレだ!!」

『ホームカバーの平吹、セカンドランナーの永田、両者頭からホームベースへ突っ込む――っ!!』

「永田アウトになってもかまへんから突っ込め―――っ!!」


バシィ!

ズザァッ!


『際どいタイミングでボールが渡ったが、判定は!?』






「セーフ! セ――フ!! セ―――フ!!!」



『セーフだ―――――!! 逆転サヨナラ―――――!!! 今大会唯一の初出場N`Cars、延長11回逆転サヨナラで初の全国大会出場決定―――――!!!』

「「「やった―――――っ!!」」」

「うわあマジかああ」

「凄ええ…信じらんねえ…」


―はぁ…はぁ…、あれ…? 審判セーフっつった? ん。

 ヘッドスライディングをした永田の目前には、ホームベースに触れた左手があった。…が同時に、同じくホームベースに触れているグローブも見えた。誰のだろうか。


 ゆっくりと立ち上がる。そこには同じくヘッドスライディングをしたまま体ごとグラウンドに伏せている背番号1がいた。…平吹だった。

「おい皆、もうよせ。…あれ見ろ」

 サヨナラ勝ちに歓喜するN`Carsのメンバーを落ち着かせた永田が見る先は、茫然自失の鶴岡クレーンズのメンバーの姿があった。


 最後の最後で重大なミスプレーを犯してしまった羽黒…、右膝を着いたまま、表情を見る限り動揺が隠しきれていない。藤島は両膝を着き、朝日は項垂れて更に帽子を目深に被った。


 ホームクロスプレーの拍子に飛んだであろうボールが、平吹の足元に転がっていた。それこそが、この試合の何かを語っていたのかもしれない。


―オレらだって、ああなった状態で喜ばれたら嫌じゃん?―


「…整列しよう」

 静まり返ったN`Carsのメンバーに心の中で諭した永田は、口頭で全員にこう言った。

『ちょっとまだ…、鶴岡クレーンズの選手たちが立てていません…。両チーム整列に時間がかかっています…』

『これ程の大きなショックを受け止めきれませんよね…。いつもは試合時間のスピードアップをしろと催促されがちな場面ですが、ちょっとこれで催促したら酷ですね…』


『1人…、また1人…と、ゆっくりと立ち上がって…、ホームプレート前へ整列に向かいます。尚関川の最終打席の記録ですがまだ公式記録の発表が出ていません…』

―全員…、揃いましたね。

「3対2で、N`Carsの勝ち。ゲーム!」

「ありがとうございました!!」

 試合終了を告げるサイレンが鳴る。


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