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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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68/136

自分の役割

「随分しつこかったけんど、良ぐ耐えたな。今こそ勝負決める時だ。片山も結構投げさせられだがら、早ぐ楽さしてやれ。良いな!?」

「はい!」

「良ーし…、サヨナラにすっぞ!!」

「おー!!」


『これから延長10回の裏、今度はマウンドに就きます鶴岡クレーンズのエース・平吹。こちらは9回までに75球を投げて14個の三振を奪いました。打たれたヒットは散発の3本、与えた四死球は四球(フォアボール)のみの1個だけ。失点は1、自責点も1と、こちらもスピードと制球(コントロール)が素晴らしいピッチャーです』

『非常に安定度が高いピッチャーですよね。2回戦の天童ファイリーズ戦では被安打8と打ち込まれる場面もありましたがそれでも要所を締めて完封するなど粘り強さも持ち合わせています。ただ何よりも通算での失点と自責点がともに2点と低いのはバックの堅実な守備と強力な打線の2つに支えられているからなんでしょうねえ』

『バックの攻守に渡る強力なサポートもあってこの大会ここまで好投して来た平吹。しかしこの回の先頭バッターはその強力なサポートが効かないかもしれません』

『10回の裏、N`Carsの攻撃は―6番 ピッチャー 片山』

『今大会通算13打数7安打1本塁打(ホーマー)2打点、今日もここまで3打数1安打二塁打が1本と投手ながらバッティングでも大活躍の片山からです。そして何よりこの片山だけが両チームのスターティングメンバーを通じて唯一、まだ三振がありません』

「プレイ!」

―正直ここがヤマだな。後の2人は正直バッティングではパッとしないからほぼ片山だけだな。そうなるとさっきの回で援護点が入っていれば…、良裕も苦労すること無かったのに。

―今更そんなこと考えてもしょうがないよ温海。そんならここを抑え返して、次の回で点をとりゃ良いんだから。


ドォン!


「ストライーク!」

『相変わらずこのストレートは伸びます。そして片山も初球から狙って来ました』

―相変わらずええボール放りまんな。

―確かに片山は凄いバッターだけど、ウチだってアンタや関川のような大物を抑えないと勝てないの。悪いけどここは確りと締めさせて頂くよ。


ドォン!


「ストライクツー!」

「開次、1人で決めに行くな!」

「何も1人でなんて言うてへんやろ」

―オレから始まるからそこで決めるとは言うたけど、何もオレ「1人で」決めるとは言うてへん。オレが起爆剤になって、そこで決めるんや。その証拠見せるか…。

「あ、バット短う持った。1人で決めるんちゃうかったんや」

―まずオレが出る。何なら単打(シングルヒット)でもええ。確かに皆で協力することは重要やけど、かと言って他力本願はアカン。5回の時のように、自分がすべきことを1個ずつ皆で順々に熟していって、次の1点を取る。

―さあ来いやって目ぇしてるな。良いよ良いよそれ。オレ大好きだよ。でも生憎次の球で君のスコアブックの欄の真ん中にはローマ数字の1が記されるよ。

『5回の第2打席では巧みなバットコントロールを見せて長打(ロングヒット)にした片山。その片山を追い込んだ平吹、3球目』


ドォン!


「ストライクスリー! バッターアウト!」

『空振り三振! …いやー渡邊さん、延長に入っても尚あのストレートが伸びて好打者を次々と三振に取るって凄いことですよね』

『そうですね…。打撃技術でも優れている関川選手と片山選手をイニングを跨いでとは言え連続で三振を奪ってますからね…』

『わかっていても打てない…、それが況して球数が少ないとは言え延長という、この先どの位体力を消耗するかわからない中で尚あのスピードが出ての三振ですからね…。球場内も一瞬呆気に取られるような声が聴こえました。これで平吹投手は前の回から合わせて振り逃げを含めて4者連続三振、こちらも相手先発全員奪三振を達成しました。数としてはこの試合28個目のアウトで既に15個目の奪三振です』

『7番 セカンド 梶原』

『さあ今日送りバントはありますがノーヒットの梶原。守備ではこの大会堅守が光っています』

打撃(バッティング)でも良い結果出してくれると良いんですけどね…。況して片山選手のすぐ後ろで、通算成績が10打数1安打ではこれは相手に行けると思われてもおかしくありませんよ』


ガッ!


「ファールボール!」

『初球から振って来ました』

『この姿勢は相変わらずですね』

―へえ…。ストレートに的絞ってるじゃん。けど一ヤマ超えたから、この安パイさっさと片付けようぜ。

―いや…、安パイだからこそだよ? ていうか安パイっていう概念こそが罠に嵌る原因だと思うが。

―ああ…、そうだっけか良裕。済まなかった。


バシィ!


「ストライクツー!」

『今度はインサイドのストレート。2球で追い込みました平吹』

『ただ2球ともスイングは良いんですよね…。結果が伴わないだけで。このスイングが良いという内容を見る限りではとても打率1割というだけで侮れませんよ』


『3球目もストレート!』

ガキィ!


「ファールボール!」

『粘ります梶原』

―でも3つも続けてストレートを投げさせたからコースは違ってもそのイメージは付いてる筈…。それに今4打席目だから尚更か…。じゃ次は違うヤツで。

―スライダー? わかった。


カコッ!


「ファールボール!」

『スライダーについて行きます』

―良く当てたな。

―外に外させて空振りを誘ったのに…、それにバットを出してったか…。

―ふーん。良いバッターじゃん?

―今度はマジモンで外すか。ストレートなら少々のボールゾーンであれば届いてもスライダーならそこから更に外れるから空振りを誘い易い。


バシィ!


「ボール!」

『スライダー外れてボール!』

―あっ、チッ、掛からなかったか…。

―ちゃんと見えてる。温海はストライクより僅かに外れたところから更に遠いアウトコースのボールゾーンへ逃げる球で空振りを誘ったけど、ちゃんと見えていて掛からなかった。

―ストレート3球、次スライダー2球…、多分狙い球とは違っていたんだろうけどそれでも当てて来る。…次どうする? 良裕のサインで良いよ。

―あ、良いの? んじゃあ…、これで。

―え!? 良いのかよそれ。


―6球目…、ストレート!!

ガキン!


「ファールボール!」

―付いてった…。外へのイメージが付きかかってる頃だから、意外とど真ん中にやられると思いきや…。

―成る程ね…、考え過ぎたところに敢えて裏をかいて簡単なのを放って決めようとしたのね。

―決めるってのはちょっと違うけど…、試しただけ。まあでもこれで好球必打が徹底されていることがわかったから…、

―シュート?

―暫く投げてないからイメージ無いと思う。

―わかった。


『7球目…、内側に来た!!』

ガキッ!


「ファールボール!」

―付いてった…。

―真ん中から喰い込んで来た…。シュートか…? そんなのあったっけ? …あ、あったか。ずっとストレートとスライダーとカーブでしか投げて来なかったから忘れてた…。

『シュートを投げて来ましたがそれにも付いて行った梶原』

『シュートは…、4回に小宮山選手に投げたっきりですね。それ以外はストレート、スライダー、カーブで抑えてましたから』

『8球目』

―暫く投げてないような球でも付いて来られる…、てっきり見送るか空振りでオレのミットに収まるかと思いきや…、そう言えばこの勝負左右しか使えてないな…。

―ん?

―ストレートとスライダーとシュートじゃ左右しか使えてない。高低を使おう。カーブだ8球目。

―カーブ? わかった。

―但し2球連続で。1球目は外して、2球目で空振りを狙う。


バシィ!


「ボールツー!」

『カーブ、これは高めに外れました。カウント2-2』

―で、今ので高低のあるヤツを高めに外して…、次は同じのを低めに。これで空振りを取る。

―イメージ付いてるだけに余計振り易いか。うん。


チッ!

バスッ!


『空振っ…、いや!?』


「ファール! ファール! ファールボール!」

『ファールです! バットに掠ってからワンバウンドしてミットに収まったのでファールの判定です!』

『若干掠ってからですね。しかし今のカーブ、あれだけキレていて低めにコントロールされていて、結果ファールにはなりましたけど、振れば勿論のこと、見送っても入ってたんじゃないですかね…?』

『ワンバウンドしているのにですか?』

『はい。結構ギリギリではあるんですけど、膝元の低めに確り制球されていたと思います』

―ていうボールなのに何で付いて行くんだ…?

―凄いね。さっきの斎みたいだ。

―よう粘るな栄次のヤツ。何か目的を遂行するんかな…。


―さっき開次は…、1点を取る為にまず自分が塁に出ようとして…、出来なかった…。


『10球目』

ガキン!


「ファールボール!」

『今度はストレートに喰らい付いて行きます』


―今度はその役割はオレに託された…。兎に角何が何でも出塁して、後続で得点にする。


『間を少し早めたか、次が11球目』


ギィン!


「ファールボール!」

『スライダー、これもファール! タイミングは合っています』


―今まで開次や浩介が打って投げて大活躍してるのをずっと見て来てるからな…。今度はその2人に頼らずとも、1点を取る。


『同じテンポで12球目』


ギィン!


「ファールボール!」

『またスライダー、これも付いて行きます』

―随分しつこいな。粘られたら粘り返す、ってか。

―確かに守備は巧いけど守備だけじゃない。バット持ってればどんなに率低くても好打者・強打者だ。彼もその1人だろう。だから率が低いからと言って安パイっていう概念を持つのは駄目なんだ。

―正直さっさと決めてしまいたいんよね本音は…。目の前でカットされ続けたらマスク越しでも呆れて来るわ。次はサイドのむっちゃ際どいところ+高低だ。

―つまりカーブ?

―そう。それもアウトコースのギリギリ掠める程度で。

『速い間合いでスライダーを2球続けて…、次が13球目』


バシィ!

―決まった!

「ボールスリー!」

―…えっ?


『んっ…、際どいがボールだ! アウトコース一杯のカーブでした…が』

『結構際どいですね。審判の右腕が上がってもおかしくないような位置でした』

―おかしいな入ったと思ったのに…?

―早く返せよ…。フルカンなんでしょ?

―聞き間違いか…? でもスコアボードはフルカウント灯ってるからなぁ…。

「カウント3ボール2ストライク!」

―…あ、じゃあ聞き間違えじゃない…。

―素晴らしい選球眼だね…。良く考えりゃN`Cars(向こう)にも素晴らしいエースピッチャーいるから、そこでスピードとコントロールには見慣れているわけか。こんな際どいボールを見れるんだから大したもんだよ。

『ロージンバッグを右手に取ってから…14球目に入ります』

―カーブ見せたからストレートで良い? 次。

―速いヤツでしょ? わかった。


ギィン!


『打ち上げて…、ファースト上肴が追っていくが…、』

「ファースト!」


ガシャン。


『1塁側アルプススタンド前のフェンスに当たりました』

「ファールボール!」

―振り遅れたな…。

―緩い球の後に速い球を見せる…、タイミングを外すには一番単純やけどええ組み立て。

―ええ配球やな…、けどこれで栄次もタイミングの計り方をリセット出来たで。

カーブ(遅い方)にタイミング合わせても駄目か…。ストレート《速い方》にタイミングを合わせて、遅いのが来たら手前まで引き付けて打つ。

『フルカウントからの15球目』


キィン!


『一塁線速い打球!』

「ファールボール!」


『ああ…、際どい打球でした』

―今はファールになったけどこうやって引き付けて逆方向へ狙って打つ。

『確りとストレートを引き付けて打ちましたね。タイミングも合ってますから、フェアグラウンドに飛ぶのも時間の問題ですよ』

―危ないな…。しかしストレート→カーブの配球はさっきやったから梶原(向こう)にも読まれてるか…。ならば違うヤツで。

―ストレートを続ける?

―アウトコースにズバッと。今までで1番速いの来い。ファールチップなら収めるから。

―わかった。

『キャッチャーもう1回外…、16球目』


バシィ!

『ストレートを続けた!』

―速い!

「ナイスボール!!」


「ボールフォア!」

―…え?

『フォアボール! 最後際どいが外れました! 梶原良く粘りました…、これで平吹はこの試合2つ目のフォアボール、9回に続いてサヨナラのランナーが出ましたN`Cars』

「やったナイ選!」

―良かった…。あんだけ速いストレートが2球続けて来たからやられたと思った…。危なかった。

「ナイ選。148km/h出てたよ」

「148…? 道理で速いと思ったよ」

―さすが冷静で寡黙な男。しれーっと言ってのけた…。

『8番 レフト 桜場』

『1アウト1塁、7番の梶原が四球(フォアボール)を選んでサヨナラのチャンスを作りました。しかしこちらも今日ヒットの無い桜場』

『ヒット無いばかりか今日3三振ですよね…』

『しかし桜場は通算13打数2安打、打率は低いですがその2安打は何れも2塁打ですから当たれば長打が期待出来るバッター』

『その一方で通算8三振…、振り回すだけで結果は二の次ともとれる数字ですよね…』

「充、栄次何か言ってた?」

「道理で速いと思ったよって…、守に行ってた」

「守に言ってた?」

「オレが栄次のバッティンググローブ取りに行った時そういう会話してるの聞いたもん」

―…あ、偶々聞いたのね。てかそれをしれっと言ってのけるって…。


キィ―ン!!


「えっ!?」

「えっ!?」

―んっ?

「えっ?」


『ライトへ大きい―――っ!! 五十川バーック、バ―――ック!!』

「俊和1塁まで走れ! 栄次はハーフウェイや!」

「公一追い付け! 内野は4つの準備だっ!」

『ライトポール際に伸びている、サヨナラのランナーがいる、入れば勿論、頭を越えてもサヨナラか!?』


パシッ。


「キャーッチ! キャーッチ、キャーッチ!」

『捕った! ライトの五十川、フェンス手前で捕りました!』

「栄次バック!」

「ボールファーストだっ! 朝日繋げ!」

「上肴ベースに入れ!」

『ボールはそのままファーストベースへ…、梶原ギリギリ1塁に戻りました』

―あの悔しい表情…、俊和は俊和なりに自分の役割を果たして1点に繋げようとしたってことか…。開次も栄次もそうやろうとしてたんだ。

『9番 サード 都筑』

―ならオレも。

―健繋げよ。そしたらオレは還す役割だから、その準備は出来てるぞ。

『しかしライトポール際への大きな打球でした…、ポールまで1m無いばかりかフェンスまでも20cm無い位の位置まで飛びました』

『凄いバッティングでしたね。私この打席の前に酷いこと言ってしまいましたけど、アウトになってもあれだけ大きな当たりを打てるとなると結構ヒヤッとしますね…』

『しかし2アウトにはなりましたがランナー1塁は変わらず。打席には今大会好調の9番都筑』

『今日も打ってますからね都筑選手。後続にもサヨナラにも、どちらの意味でも繋げて欲しいですね』

「健繋げよ! トリはオレと涼で決める!」

「任せたぞ瞬、涼!」


キィーン!

「「おっ…、」」


『良い当たり―…、もしかしこれはセカンド朝日の守備範囲。確りと捌いてファースト上肴へ、3アウト』

「あぁっ」

「惜しい…」

「さあ、切り替えて守ろう」

「おー!!」

―入っててもおかしくなかった…、悪くとも栄次を還せるバッティングだったが…、しょうがないか。

―今のが入らへんかったのがあれやけど…、もっと言えばオレが出られへんかったことやもんな。俊和と健は責められへん、兎に角勝つまで辛抱し続けよう。

『延長10回の裏終了。1アウトから四球(フォアボール)のランナーが出ましたが良い当たりこそ出たものの後続が続かず無得点。今大会最長の延長11回へと入って行きます』


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