久々の快音
「この回打順良いがらな、1点で良い。勝ち越すぞ。良いな!?」
「はい!」
「あれ、浩介が入んの?」
「この回永田に廻るから。良ーし…、勝ち越すで!!」
「おー!!」
『さあこちらも好投が続きます鶴岡クレーンズのエース・平吹投手。日系3世のブラジル人である平吹は身長171cmと決して体が大きいほうではありません…。しかしながら今大会自己最速の148km/hの速球を中心とした投球で今大会を勝ち上がって来ました。今日も5回まで毎回の8奪三振、与えた四死球はフォアボールのみの僅かに1個、先程の5回に1点を取られましたがそれでも今大会ここまで通算失点・自責点ともに僅か2点、そして被安打が散発の3と…、強打のN`Carsを相手に点は許したものの連打は許さず、長打も2塁打の1本だけというこちらも素晴らしい内容です』
『今日で4連投目ですがそれをも感じさせない素晴らしいピッチング。スタミナの面でも確りしていますので中々この大きな壁を崩すまでには至らないでしょうね』
『6回の裏、N`Carsの攻撃は―2番 ショート 小宮山』
『この回確実に廻る3人は今日全員ノーヒット。出塁も小宮山が四球を貰った1回だけです』
「プレイ!」
『せめてこの中から1人出て…、今日当たっている関川と片山に廻したいですね』
―4回は同じシチュエーションで油断したからな…。良裕、安パイでも全力で確実に抑えるぞ。
―良かった反省してくれて。オレも全力で投げるぞ。
「涼と永田と和義で何とかせえ! 何なら全員出えや!」
―そんな理不尽なこと要求しなくても良いでしょ関川さん…。
ガキィ!
『初球から行った、詰まっているが、ショート羽黒の頭を越すか!?』
―え!?
「涼これ行くで!」
「良し!」
「兼人、亘、どっちでも良い、捕れ――っ!!」
『羽黒が背走して頭から後方へダイブ、どうだっ!?』
『センターの藤島も近くまで来ているが…、』
「キャーッチ! キャーッチ、キャーッチ!」
『捕った―――! 羽黒見事なダイビングキャッチ、ファインプレ―――!』
「あーっ」
「やったあ兼人!」
―ナイスキャッチ。
『ショートとセンターの間に飛んだ詰まった打球でしたが…、羽黒良く俊足を飛ばして捕りました!』
『もうちょっとでポテンヒットになるかもしれない打球だったので、これを捕れたのは大きいですよ。先程の藤島選手同様、1歩目の速さとここしかないタイミングでのダイビングだったので、ムードも左右しかねないプレーでした』
―…、でも小宮山だったからそうなったわけで、オレは…。
『羽黒の好守で1アウトを取りました。さあここからはクリーンアップ』
『3番 ライト 永田』
―そこまでのプレーヤーじゃないのよ。悪く言えば凡人よ?
『ここまでの通算成績が11打数ノーヒットの永田ですが』
『3番でキャプテンとは思えない位酷いですね』
―まあでも凡人だけど…、ランナーいないのとさっき勝ち越すって監督が言った手前まず塁に出るか…。
『このキャプテンが頑張れば、というところですが』
ガキィン!
―はいやっぱり凡人でした。取り敢えず走っとこ。
『バックネットから1塁側寄りで…、温海が』
バシッ。
「キャーッチ! バッターアウト!」
『捕ります。2アウト』
―言うまでも無かったな。
『これで12打数快音がありません永田』
―この回もあっさり終わりそうだな…。やっぱりシラケてるもんムード。
『4番 ファースト 三池』
―こりゃ守って耐えるしか無いな。無失点に抑えてチャンスを待って…。
「和義出え! オレと開次に廻せや!」
―そうかなぁ…。得点できるの次の回以降っぽいんだけど。廻る前に終わりそうな予か…、
キィ―ン!!
「お!?」
「え!?」
―えっ?
『レフトへ―――、大きい―――っ!! 櫛引バック、バ―――ック!!』
「行くぞ!」
「和義走っとけ! 長打なるで!」
―やばい、拙いリードしたか!?
―いや…、それは…、
『フェンスに貼り付く! 入れば勝ち越しだが!?』
パシッ。
「キャーッチ! キャーッチ、キャーッチ!」
『掴んだあっ! 最後はフェンス前、ギリギリの位置でレフトの櫛引が掴みました!』
「ふわぁ…」
「櫛引ナイスキャッチ!」
―無かったね。温海そんなこと無かったよ。打ち取れたんだから。
『後半戦通算5打席連続三振と快音が無かった三池に、アウトにはなりましたが久々の快音が聞かれました! しかしもうあと1mと無いか…、というところまで伸びた打球、ギリギリのところで堪えたのは鶴岡守備陣!』
―…良かったぁ…。スライダーが苦手だったからスライダー中心の配球を続けて来たけど、スライダー見せ過ぎると逆にヤマ張られるからってストレート入れて来たらこれだ…。また良裕に気まずい思いするんじゃないかと思ったよ…。
―苦手なスライダー中心の配球に投球の割合が下がったストレートを入れて来てもしっかり打ってくるってことは、好球必打が確り出来ているチームってことだね。読みとか先入観に捉われずにストライクは積極的に打って来る…、良いチームだ。
『インコースのストレートだったんですが良くあそこまで持って行きました。しかし平吹投手も先程の片山投手同様、打者3人を3球で打ち取りはしたんですがその中にもヒヤッとするような打球がありましたので、こちらも肝に銘じて行きたいですね。これから最終回、ロースコアの同点ですのでちょっとのミスも赦されない雰囲気になって来ますよ』
『6回の裏終了。2番3番4番という打順を、平吹投手がこちらも僅か3球で抑えています』




