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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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55/136

貰ったチャンス

「抑えるほうは良い方向さ向かって来てる。打つほうだな。この回上位がらだ。何とか1点、取っで来い。良いな!?」

「はい!」

―あ、そうか、永田に廻るんか…。

「良し…、追い付くでぇ!!」

「おー!!」


「走ったっ!」


バシィ!


「ナイボール!」

「この回234。正直全力投球は次の回だよ」

「234で1巡目全員抑えてるからって油断出来ないよ。オレはこの回こそ全力で行く」

「…さすが良裕。わかった」

―1歩間違えばランナー有りで最も危険なバッター2人に廻るのに。ランナー有りでこそあの2人と勝負したい気持ちはあるけど、温海の今の発言がちょっと楽観視し過ぎなんだよな…。その所為でチームごと痛い目に遭うかもしれないのに。

「皆、締まっていくぞ!!」

「おー!!」

―1番説得力無い掛け声だわ。自分が1番気を引き締めなければならないのに。

『4回の裏、1対0と1点を追うN`Carsは2番の小宮山から。こちらもクリーンアップに打順が廻ります』

『4回の裏、N`Carsの攻撃は―2番 ショート 小宮山』

「プレイ!」

『何とか1人出て…、関川選手、片山選手に廻したいですね』


チッ!


「ぶっ」

『ん? 空振っ…、』


「ファールファール! ファールボール!」

『いや、ファールボールです。小宮山のバットに掠ってからキャッチャー温海のプロテクターに当たりました』

『しかし初球からストレートで来ましたね』

『そのストレートに対して小宮山も初球から振って来ました。1ストライク』


ガキン!


「ファールボール!」

『これもストレートを続けました。これで2ストライク』

―何だ安パイじゃん。さっさと片付けようぜ。

―そうか? ファールにされていることに何も思わないの温海?


ギィン!


「ファールボール!」

『これもついて行きました。ストレートを続けたバッテリー』

―前にも飛ばせない、追い込んでる。片付けちまえよストレートで。

―スライダー。ストレートは1巡目で見慣れている筈。ファールにされているのはその証拠だ。


カッ!


「ファールボール!」

『あっ、何とか当てました。スライダーでしょうか…、4球続けてファールで依然2ストライク』

『スライダーですね。アウトコースのストライクからボールゾーンになる球でしたが、良くバットの先に当てましたね』

―あっ、違う。ストレートに見慣れているからじゃない。今のスライダーを態々ファールにしたってことは…、多分待球作戦だ。兎に角ファールで粘って甘い球が来るまで待つ…。でなければ態々手を出さない筈だ。

―じゃあストレートじゃん。力で押してさあ。

―いや、尚更スライダーで行く。それももう1個分外で。さっき振って来ているから、味を占めていれば打てると思ってもう1回振って来る筈だ。


バシィ!


『外…、あっとバットは!?』

「「「振ったあっ!」」」

「審判!」

「Did he go?」


「No, he didn`t go!」

―振ってないかー…。

―いや廻ってたでしょ。審判取れよ。

『廻っていません。際どかったですが一塁塁審の寳田さんはノースイングの判定』

―良く止めたな。廻っててもおかしくない角度だったぞ。

―あそこまで廻ってたらスイングじゃん。何考えてんだ一塁塁審。

「温海、温海」

―寳田さんを睨むような行動するな。切り替えて次のボールだ。

―…あーあ、1球無駄にしちゃったよ。


ギィン!


「ファールボール!」

―さっきの取ってくれてればこんなに苦戦すること無かったのにね。

『今度はインコースのストレート。これもついて行きました』

―まだ恨んでるのかアイツ…。もう良いだろ。


ギィン!


「ファールボール!」

『今度はアウトコースのストレート。これもついて行きます小宮山』

―また単調なリードに戻った。アイツさっきオレがスライダーのサインを自分から出した理由わかってないな。こりゃしょうがない、オレからもう1回出すか。

―カーブ? 何考えてんだ良裕。

―もう力勝負では通用しない。技術(テク)とコントロールで躱す。


カッ!


「ファールボール!」

―合わせに行った…。巧いよコイツ。

―絶対届かない筈のアウトローのカーブなのにバットの先っぽで当てやがった…。小柄でそんなにリーチも長くない筈なのに。

―もう1球カーブ。

―はあ?

―確かにテクニックは巧いけど、今のカーブで体勢が崩れてる。しかも最後は片手で当てに行ってる。同じ球で完全に体勢を崩させて、三振に仕留める。

―力勝負で行って良いのに…。わかった。


バシィ!


「うっ…」

「ボール!」

―ええ…、入ってんじゃん。

―いやボール。さっき投げたのより少し外れてる。

―カーブだったけどちょっとだけ外れてるって早めに気付いて良かった。

『カーブを2球続けましたが8球目はファール、9球目は際どいコースでしたが見送ってカウント2-2』

―踏み込みまでしたのにバット早めに止められた上「ボール」かよ…。力勝負で行ったほうが良いって。

―いや…、力勝負だけでは通用しない。お前は小宮山が華奢だからって舐めてるかもしれないけど、コイツだってN`Carsの強力打線のうちの1人なんだ。況してオレと同じ位のスピードボール持ちの片山の球を打ち慣れているだろう、と考えればオレの球…、ストレートに順応して来るのも時間の問題だろう。

「随分苦戦してますね平吹くん…」

「いや違う。苦戦してるのは寧ろ温海のほうだ。平吹はこの状況でも冷静でいられるが、温海は結構情に出がちなんだ」

「ということは温海くんの悪い癖が出たんですね」

―マネージャーの八間さんに言われるって相当だぞ温海。

―神事監督にしょっちゅう言われてるのに何で直さないの?


カッ!


「ファールボール!」

『ああ、これも粘りました。これで実に10球粘っています打席の小宮山』

―やっと力勝負に来たと思ったらシュートかよ。

―ちゃんとついてってる。その証拠に真っ直ぐ真後ろに飛んでる。

―真っ直ぐだっつのここは。早く投げろや。…ん?

『依然カウント2-2、10球粘られている鶴岡バッテリー。さすがに平吹もロージンバッグで間を取ってから11球目行きます』

―良裕の目付きが変わった…。どうかしたのか?

「あーあ温海苛付き始めたよ」

「力勝負で打ち取れないのが続くとこうですもんね…」

―ふぅ…。仕方ありませんね温海さん。あなたの言う通り、ストレート投げますよ。


―やっと投げた…、


カキ―ン!


「!! バカな、良裕の全力で投げたストレートなのに…!?」

『レフトへ大きい―――っ!!』

「櫛引! あっ…、」


ポー…ン!


「ファールボ―――ル!」

『切れてファール! しかしレフトポール際への大きな当たりでした!』

『良い真っ直ぐを良いスイングで持って行ったので入ればナイスバッティング、と褒めたいところですが…、しかし一発打たれれば同点という場面でこのボールはコースが甘いですから大変危険なボールでしたよ』

―予め打ってもファールになるコースに投げて良かった。()()は想定通りとして…、

―良裕の真っ直ぐがあそこまで行くなんて…。それもレフトポール際の2、3m左って…。

145km/h!? そんなに出てたのにあの小柄な体と短い腕で飛ばすのかよ…。

―こっちも想定通り。やっぱ動揺してる。これでアイツも痛い目に遭ったろう。

『小宮山の体格は公式プログラムによれば身長165cm、体重57kgと小柄。今大会本塁打はありませんがフェンス直撃のヒットを打ったことはあります』

『体格だけで良し悪しを言ってはいけませんよね』

「ナイスバッティング!!」

「涼、涼!」

「ん?」

「今のええからってもう1回狙おうとするな。あくまでいつも通りのバッティングでええからな」

「ん」

―良し…、いつも通りに打って、オレが残った状態で浩介に廻せば…。

―え…、外? あれ、温海さん、散々舐めてたくせに打たれたら弱気リードですか。

―怖い…。正直言ってカーブでも怖い。アウトコースのカーブでも怖いのに他の球種やコースのサイン出せないよ。

―それにしては随分外寄りなんだけどな…。わかった。


バシィ!


「ボール!」

『アウトコースのカーブ見送ってボール』

―やっぱあからさまなボールは見送られるか…。

―いつカモられるかわからない。さっきまでのリードじゃ今度は本当に柵に入れられる可能性が…。力勝負が駄目な理由がわかった。良裕、アンタに従うわ。

―ストレート。さっきより中寄りで。

―ストレート? …ああ従うって決めたっけ。良しストレート。

『カウントはフルカウント…、次が13球目』


『踏み込んで来たっ!』


キィ―ン!


「ファールボール!」

『3塁側アルプススタンド前のフェンスに当たりました』

―あっちゃー、引っ張っちゃった。アウトコースなんだからファーストの横狙わないと。それもライン際。狙っていれば2つ取れたな…。

―次は…、ストレート!?

―アウトローに、クロスファイア効かせる。さっきより角度付けて、空振り取る。

―良し。

『カウントは3ボール2ストライク、フルカウントで次が14球目』


バシィ!


『どうだっ!? アウトロー際どいが!?』


「ボールフォア!」

『球審の腕は上がらず! 外れてフォアボール! この試合初めてのフォアボールでノーアウト1塁、N`Carsは初めて先頭バッターを出しました!』

『この貰ったチャンスは活かしたいですね』

『3番 ライト 永田』

「タイム!」

「タイム!」

『ノーアウト1塁、3番の永田を迎える場面で、キャッチャーの温海がマウンドに行きます』


「今のストレートは良かった。クロスファイア効いていてコントロールも外れたけど良かった。次は10タコだからゲッツーで」

「10タコ? …ふーん」

―…あ、ヤバいこと言った?

「温海、今のがどうしてフォアボールになったかわかるか?」

「え…?」

「お前が舐めてたからだよ。その気の緩みが言動にもリードにも出てた。そんな悪い心構えを持ったヤツに、神は良い結果を与えてくださると思うか?」

「どこがっ…」

「この回始まる前の何だあれ。この回234、正直全力投球は次の回だよ、って…。2番3番4番に対してどういう態度でいんの?」

「うっ…」

「あと小宮山に粘られてる最中に何度か癇癪を起こしてるけど、早く済みそうな物事が進まない時程苛々するお前の性格を考えれば、もうそれは舐めてたという証拠だぞ」

「…」

「世間が100%安パイだと思っても、オレは思わない。大体スターティングメンバーに調子が悪かったり出来が良くないプレーヤーを入れて来ると思うか? オレは思わないよ」

「…」

「ラインアップに載ってる以上、オレは巧いヤツが最高の状態で皆で向かってくる。控えのメンバーも、最高の状態でいつでも臨めるように準備して待ってる。オレはそう思ってるよ」

「やっぱりか?」

「あ、兼人…」

「やっぱり温海?」

「うん。途中から黙ったもん」

―どうも。

―ん。

「どうだってー?」

「やっぱ温海だったっぽい」

「やっぱりな。何考えてんだかアイツ」

―あーあ、斎にまで勘付かれてたよ…。兼人は兎も角斎にまでって…。十分外に知られたってことだから、これは勝っても負けてもミーティング案件だな温海。

「そろそろ戻って」

「はい」


『さあ漸く温海が戻ります。途中ショートの羽黒が声を掛ける場面もありました』

『そんなに動じない投手だとは思うんですが…、前半1点勝負で来ているので、ランナーがいる以上は慎重にということでしょう』

『バッターは 永田』

「4回裏N`Cars、1アウト1塁。プレイ!」

『バントの構…、あっ』


パシ。


「セーフ!」

『1つ牽制を入れて来ました』

『まあやっぱり小宮山選手足が速いのでね…、足技に警戒、ということでしょう』

―戻りが早い。俊足の選手は俊敏性に長けるから、これでわかった。でもいつ仕掛けるかわからないから温海、永田がバットに当てられなかったらお前からも牽制しといて。

―わかった。

『そして打席の永田はこの構え…、兎に角同点を狙おうという姿勢』


バシィ!


「ボール!」

『体に近いところ…、あっ!!』


バシィ!


「セーフ!」

『今度はキャッチャーの温海から牽制。平吹に続き温海からも速い牽制球を入れて、何れもセーフにはなりましたが際どいタイミングでした』

『やっぱりそれだけ警戒しているんでしょうね…、2人掛かりで、相手に仕事をさせないという最大限の措置なのでしょう』

―で?

―サインは変えね。兎に角小宮山を2塁さ進めてけろ。

―はい。

『この貰ったチャンスを生かすには尚更重要な送りバントですからね…、確り決めたいですよ』


―!

ギィン!


『あ―っ、』


バシィ。


「キャーッチ! バッターアウト!」

『送れない! インハイへの速い球でした!』

『確り決めておきたかったところですが…、これは難しい球でしたね』

『永田送れず、キャッチャーへのファールフライで1アウト。依然ランナーを1塁に置いています』

『4番 ファースト 三池』

―うわ…、コイツ真ん中で十分な筈のバッターにインハイ投げてバント封じたよ…。傍から見たら安パイに思えてもオレは思わない、それが今のボールであって全バッターに対する敬意ってか。

「やり辛かった?」

「うん、もう…、だってこの辺だもん」

「そらしゃあないな」

―さて、三池にはスライダー3つで行きますか。

―え? でもさっきの理論だとコイツにはさっきスライダー3つ続けたからスライダーを続ければ順応して打たれるってことになるが?

―いや、1打席目で確信した。昨日兼人と取ったデータは本物だった。その証拠に1打席目のスイングは3球ともスライダー打ちじゃない。チームのパワーヒッターだから合っちゃえば飛ぶかもしれないけど、あのスイングでは飛ばないボールがあるってわかってる以上、そっちで攻めたほうが良い。

―オッケ。じゃあスライダー3つね。

『ここ最近は連続三振が続いていますが今大会2ホーマーとパワーを存分に発揮している三池』

『その連続三振はスライダーに合ってないのが原因なのでね、段々と苦手を悟られている印象があります』


バシィ!


「ストライーク!」

『やっぱりスライダーに合ってませんね』

『スイングがスライダー打ちじゃないですもんね…』


バシィ!


「ストライクツー!」

『あっという間に追い込まれました』

『何の工夫もありませんね…』

「こらアカンわ。浩介、お前が出えや。そしたら涼と浩介、纏めてオレが還したるで」

「頼むで開次」

―2ストライクだがエンドランが…。けど三振ゲッツーのリスクもある。走らせたいところだが1点勝負だがらやり辛いが。だば動かさねで打たせるしかねぇな。

―サイン無し。和義に打たせるしかないか…。


バシィ!


『スライダー、あっと1塁ランナーリードが大きいっ!!』


バシィ!


『際どいが!?』


「セーフ!」

『1塁はセーフ。しかしヒヤッとする牽制でした』

「バッターアウト!」

『バッターの三池はスイングで三振、2アウト。あわや三振ゲッツーかという場面でしたが、何とかランナーを残したまま好調のバッターに廻ります』

『5番 キャッチャー 関川』

『長打で同点、一発で逆転という場面で今大会9打数7安打と大変当たっている関川です』

『1塁ランナーは足の速い小宮山選手、バッターの関川選手も一発長打を秘めていますから同点、逆転する上では良い場面ですよ』

―牽制云々何て言ったけど、2アウトだ。バッター1択。関川で切る。

―真っ直ぐはヒットにされてるけど、どうする?

―真っ直ぐで。

―えーっ!?

―良いバッター、しかも弱点があまり見えないバッターにはウィニングショットで行ってこそだと思うけど。

―まあ、弱点が見えないんじゃしょうがないよね…。ストレートで行きましょ。

『キャッチャーインコースに寄ったっ!』


キィン!


『捉えた…がやや差し込まれたか、あまり伸びません!』

―差し込まれたな。根元やったからちょっと角度付けたほうが飛ぶ思って付けたら付き過ぎた…。

『レフト櫛引、前に出る…、』


パシッ。


「キャーッチ!」

『掴んで3アウト。ランナー1塁に残塁』

『捉えたと思ったんですが…、関川選手にしては珍しく打ち損じたようにも見えます』

『4回の裏終了。この回N`Carsはこの試合初めて先頭打者をフォアボールで出しましたが貰ったチャンスを生かすことはできませんでした。依然1対0、鶴岡クレーンズが1点をリードしています』


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