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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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帰りの道中 ~夕暮れとともに~

「あれ? 来ないな…」

「どうしたんだろう…」

「こっちから入って来たんでしょ? だば、こっちから出てくんでねーの?」

 N`Carsが来た時に利用しかけた駐車場では、少数のマスメディアがカメラやマイクを構えたまま待機していた。いや、それだけではない。駐車場に停めてある多数の車の近くで多くの一般人が、これまたスマートフォンやカメラを構えたまま待機していた。

「どうしたんだろうね…?」

「さっぱり来ないな…」

 試合終了のサイレンが鳴るなり準備して構えたまま待機していた彼らだったが、待機したまま只々時間だけが過ぎて行った…。




山形県S市 松浪家




 N`Carsのメンバーを乗せたマイクロバスは、松浪の実家の駐車場の手前にハザードランプを点灯させて停車していた。マイクロバスの運転手が北前球場を出発する前に見ていたメモには松浪の実家への道筋が書かれており、出発する前に松浪が自ら運転手にお願いして、それを運転手がメモに取ったものである。

 昨日の休養日を利用して酒田への前乗りを兼ねて実家に帰省していた松浪と、彼と共に釣りと自主練習に行っていた萩原と都筑は、ここでマイクロバスを降りて、松浪の実家の駐車場に停めさせて頂いていたそれぞれの愛車に乗り換える。

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 既にバスの中で寝始めたメンバーもいた為、気を遣いつつ3人は挨拶。

「道具はこっちで持ってくから…、グラウンド着いたら荷降ろしと片付け手伝って」

 永田の計らいで、道具はそのままマイクロバスに積んだままグラウンドまで運ぶことになった。3人がそれぞれ自分の荷物を持ってマイクロバスを降りると、運転手は開閉ボタンを押して乗降ドアを閉めて、3人の車が出易いように少しだけ半クラッチで前進させた。

「そんじゃ、2日間ありがとさん」

「どうもありがとうございました」

「大変お世話になりました」

 3人は玄関先で、松浪の両親にそれぞれ挨拶をしていた。

「3人とも気を付けてね。またおいで」

「今度は料金所でエラー起こすんじゃねえぞ」

「誰がエラー起こすかよ。てか明日父さん漁に出んでしょ?」

「出るけど? それがどうした」

「ん…? 父さんこそ気を付けてねって話」

―何だよ…。冗談で返してくんのかと思った。

「響行くよ」

「あ、うん」

 都筑に呼ばれて、松浪は素早く車に乗り込んだ。

―やべー。この子ターボだからウォームアップ要るんだよな…。

 待たせるのもまずいので急いでクラッチペダルを踏んでシフトレバーをニュートラルに戻してから、エンジンをかける。かけるなり松浪は運転席側の窓を開けた。

「誰連れて来るかはわかんねぇけど、また誰か連れてきたらよろしく、父さん母さん」

「ああ」

「誰でも良いから、是非連れて来て頂戴。いつでも待ってるから」

 …と、松浪親子3人の会話に、萩原が自分の車の窓を開けて入る。

「まだー? 健もう暖まったってよ」

「ああ、もうちょっと…」

 車種は違うが松浪と同じターボ車に乗っている都筑は車のウォームアップをすでに終えている。後は松浪だけだった。

 少し時間はかかったが、松浪も車のウォームアップが終わって、行けるという合図を2人に送った。

「準備できたみたいなので、お願いします」

 マイクロバスも3人の準備ができるのを待機していた。左ウインカーが付いたのを見た永田が、運転手にGOサインの意でこう伝えた。

 マイクロバスはハザードランプから右ウインカーに点け変えて再び一般道の路肩から本線に入った。これに続くように、萩原・都筑・松浪の3人も、駐車場から一般道に左折して4台揃って酒田から長井へと向かった。




山形自動車道 上り 山形蔵王パーキングエリア




 だいぶ陽は西に傾き、陽が沈むかどうかのギリギリの空模様が西側に広がっており、東側に至っては、すっかり暗くなっていた。

 走り出して比較的すぐにヘッドライトを点灯させた4台は、連なるように山形県内を東進、休憩の為ここ、山形蔵王パーキングエリアに一斉に立ち寄っていた。

 と言っても勿論4台は駐車場のそれぞれ決められた場所に停めており、萩原・都筑・松浪の3人はそれぞれ小型車のスペースに、マイクロバスは大型車のスペースにそれぞれ停めている。

 起き抜けにマイクロバスを降りた永田は、用足しを済ませた後、建屋の壁に掲げられている掲示物やらその建屋の近くにある観光案内の看板やらをじっくり見ていた。こんな風にボーッと見ているだけでもどこか興味をそそられるものがあるという。だが、本当にボーッとしているだけかもしれない。一応マイクロバスの中で寝てはいたのだが。

「目の喰い付き方が観光客っぽいぞ」

「んえ?」

 松浪だった。眠気覚ましにであろう買った缶コーヒーを片手に飲みながら永田に声を掛けた…、と思ったら、良く良く見たら松浪の車の缶ホルダーに別の未開封の缶コーヒーが立てて入れてある。缶コーヒーを2本買った…? いや、違う。多分今飲んでいるのはここじゃなくて別のところで買った缶コーヒーで、ストック用にあの未開封の買ったんだ…、等と考えながら、建屋に繋がる道から駐車スペースへ段差を降りた。駐車スペースの空いているところから真っ直ぐマイクロバスへ向かおうとした時、

「大丈夫?」

「凄い眠そうだけど」

今度は萩原と都筑が声を掛けて来た。萩原は缶入りのフルーツジュースを片手に、都筑は眠気覚まし用のガムを噛んでいた。

「ん…、寝起きでボーッとしてるだけ。こうやって背伸びしてれば目ぇ覚めるよ多分」

と言って永田は両手を組み、そのまま両腕ごと真上に上げて背伸びをした。

「んん…っ、くっ、くっ…」

 背伸びする時に永田は思わず声が出たが、それがどうも萩原と都筑の耳に入ったらしかった。

「背伸びすんのも苦しいのか?」

「そりゃあんだけ上に引っ張ってたらね…。それにアイツ細身だから上半身の筋肉よりも先に上半身の骨のほうが伸びて痛がってそう」

 左右確認をしてから、上り線のパーキングエリアに入るランプウェイから小型車の駐車スペースに向かう道を小走りに渡って、永田は再びマイクロバスに向かった。松浪は既に車のエンジンをかけてウォーミングアップを始めている。萩原も缶を缶ホルダーに置いてから、都筑も持っていたガムの包み紙を改めて握るように持ってからそれぞれ車に乗った。

 この山形蔵王パーキングエリアは、上下線ともトイレと自動販売機、それにEV、則ち電気自動車用の給電スタンドがあるのみで、駐車場も小型・大型・身障者用合わせて上り線は20台足らず、下り線も30台ちょっとと、決して大きな施設ではない。だが、上下線とも山形蔵王インターチェンジと併設しているので、パーキングエリアに寄った後、インターチェンジを利用することもできる。

 準備ができた4台は順次ヘッドライトを点灯させて、マイクロバスを先頭に順々にパーキングエリアからインターチェンジの出口に向かうランプウェイに入って行った。先程まで寝起きだったキャプテン、力は抜けているが眠気はある程度取れたようで、音楽を聴きながら左手で窓枠に頬杖はしているが再び寝るには至らなかった。

―もっ回寝たら家で寝れないし頭痛くなるもん…。どうせもう30分40分位ならボーッとしてられる。

 その姿勢のまま、再び考えごとを始めた。この上り線のパーキングエリア、入り口のランプウェイから途中でパーキングエリアへ入れる構造なのに何でガードレールで塞いじゃっているんだろうとか、頭の中にハイウェイラジオの音声が入って来た筈なのに寝てたせいか内容が頭に入って来てないとか、そういったことだった。

 本線車道上り線の出口ランプウェイと合流すると、そのままその本線車道の下を潜って、その先で下り線出口のランプウェイと合流してから、山形蔵王インターチェンジの料金所へ向かった。4台はこれから車間距離を取りつつ連なるようにETCレーンを時速20km/h以下で通過して、一般道で長井へと帰って行く。




 さて、北前球場の駐車場で待機していたマスメディアや一般客のパパラッチ共ですが、対戦相手の最上ノーストップズが帰っても尚待ち続けた挙げ句、北前球場及び駐車場の閉鎖時間を過ぎても居続けた為、大会関係者と球場関係者、交通誘導員から全員きついお叱りを受けたそうです。マスメディアは全国大会が終わるまで取材禁止、一般客のパパラッチ共は同じ期間、全国の内部にある施設を含めた全球場立ち入り禁止処分がそれぞれ下されましたとさ。


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