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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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32/135

草野球カップ3回戦・最上ノーストップズ戦(その16)

 一礼の後、両チームのメンバーはお互いに向かい合っている選手同士で、激励や労いの言葉をかけ、握手を交わす。

「次も勝てよ」

「そのまま全国行けよ」

「ああ」

―全国かー…。

 永田が変なプレッシャーを感じた以外はお互いほのぼのとした雰囲気に終わった…、かに見えたが、N`Carsのメンバーが3塁側ベンチへの戻り際に、誰かが片山を呼ぶ声がした。振り返って確認すると、声の主は瀬見だった。

「片山、向こうのエースさんがお呼び」

―エースさんて…。永田も向こうのエースの名前は知っとるやろ、そっちで言わな。

「どないしたん?」

 兎に角、片山は呼び止めに応じることにした。


「また勝負しよう」


「ああ」


 そう言うと、瀬見は1人遅れて1塁側ベンチに戻って行った。


「片山」

「開次」

「何してんの」

「早よ応援団挨拶行くで」

 永田と関川に呼ばれるまで、片山と瀬見の間には、周りの歓声や物音が何1つ聴こえない無音空間が形成されていた。

 我に返ったように片山は駆け足でチームの元に戻って、応援団挨拶に向かったが、彼の脳裏には先程の瀬見の言葉が残っていた。


―また勝負しよう―…、態々オレを名指しで言ってきたん、今大会アイツが初めてやな―…。


「はい整列。真っ直ぐにー…、良し。気を付け、礼! 応援ありがとうございました!!」

「ありがとうございました!!」

 揃って一礼。初の代表決定戦進出に興奮や祝福する声も多数聞かれる中、彼らはいつも通りのルーティンを…、と言いたかったが、

「あ、やべ」

「おいおい何やってんの」

「帽子飛んでった…」

戻り際、挨拶の為取った帽子を再び被ろうとしたところ、永田の帽子が風で飛ばされてしまった。

 そう言えば潮風強く吹く球場だった―…、駆け足で帽子を拾って戻りながらここ、北前球場の特性や地理的条件を思い出した。

 プチハプニングはあったものの、彼らはどうにかいつも通りのルーティンをいつも通りにこなした。

『試合開始は午後3時半。試合終了は午後4時41分。今日の第4試合、実に早い1時間11分という大変スピーディーなゲームは公式戦初出場のN`Carsが5対1で最上ノーストップズを下して初の代表決定戦進出を決めたゲームでした』

「さあ、皆急いで戻って片付けてー! この後もてきぱきとやるよー!」

 今度は帽子を飛ばされないように確りと被り直したキャプテンの指揮の下、N`Carsのメンバーはダッシュで3塁側ベンチへ戻って、荷物と道具を片付け始めた。

「開次と浩介の分はオレがやるよ」

「ああ、またやってくれるん? すまんな」

「いやいや」

 片山と関川がクールダウンのキャッチボールをしている間、相澤が彼らの荷物も纏めるのと並行して、

「雑巾2枚あるから、早く終わったヤツからベンチ拭いて」

永田が自らの荷物と道具も纏めながら、乾いた雑巾2枚をバッグの中の取り出し易い位置に用意した。


『河瀬さん』

『はい』

『1時間11分という、実にスピーディーな試合時間でした。振り返って如何でしたか?』

『両チームとも、先発ピッチャーがテンポ良く打たせて取っていたのが印象深い試合でした。最上ノーストップズの瀬見投手は1回戦から見せていた通りのピッチングを存分に披露していましたが、逆にN`Carsの片山投手は初戦とは打って変わってのピッチングだっただけに、あれ? と思われた方も多くいらっしゃるかもしれませんが…、それでも両投手コントロール良く投げて試合を作っていたのが好印象です』

『コントロールという話では、両チームともフォアボールやデッドボールが無い、所謂無四死球試合を達成しました。これは今日大会3日目のここ、北前球場第2試合、酒田ブルティモアズ 対 最上オールラインズの試合に続き今大会2度目の記録です』

『その試合では我々は放送席にはいませんでしたが、私はラジオで聴きながらこの試合を楽しんでましてね。酒田ブルティモアズの荒瀬投手は7回完投で、最上オールラインズは左の変則サイドハンドの上郷(かみごう)投手と右のオーバーハンドの火焔(ひのほえ)投手の2人で6イニングをリレーして完成させました。2試合とも先発ピッチャーが右の本格派投手 対 左の軟投派・技巧派投手という構図だったんですが登板した投手延べ5名が皆コントロール良く投げたことで結果として球数が抑えられて、無駄なボール球をあまり出さずに済みました。その甲斐あってか第2試合は3対1と好ゲームでしたし、第4試合もスコアは5対1ですが1時間11分という大変スピーディーなゲームに繋がりました。如何にコントロールが重要か、というものを見せられた2試合だったと思います』


「よし、後はアイシングな」

「うん」

 クールダウンのキャッチボールを終えた片山と関川は3塁側ベンチへ戻って、片山は井手の協力を得つつアイシングを巻き始めた。

「よし、雑巾2枚ともある…、ベンチ拭いてくれたねー?」

「うん」

 雑巾は2枚とも元の場所に返却されていた。それを確認した永田はバッグのチャックを閉めて、整列に加わった。同じタイミングで、アイシングを巻き終えた片山と協力した井手も整列に加わった。

「全員整列したな…。気を付け、礼! ありがとうございました!!」

「ありがとうございました!!」


『では、攻撃面・走塁面については?』

『ランナーを出した後の攻撃で差が出ましたね。まずN`Carsは前2試合で打ち勝って来たように今日も特に中盤以降それが出たんですが、何よりも各打者がバットを一握り短く持つなどしてコンパクトに鋭く、且つ逆方向にスイングしていたのが目立ちました。ホームランは2本出たんですが、2本とも決して大振りというわけでは無く、コンパクトに鋭くセンター方向へ打ち返した結果出たホームランだと思います』

『日本海から潮風が強く吹く中で片山と関川がそれぞれバックスクリーンに放った大会第8号・第9号のソロホームランは2本とも実に爽快でした』

『それだけ力強く鋭い打球だったということですね。あれだけ強く吹いていると向かい風ですから風に押し戻されて中々飛距離が出ないことも多いのですが、その中であそこまで飛ばしたということは同じ弾道が高く上がった打球でも力無く上がったフライでは無く確りとボールを上から叩いてライナーで持って行こうとしていたのが、今回ホームランが出なかったバッターも実践出来ていたと思います』

『次に最上ノーストップズはどうでしたか?』

『持ち前の確実な攻撃を見せようとする場面は何度もあったのですが…、ランナーをあれだけ出して押し気味に進めながら1回以外はその持ち前の確実な攻撃が出来ませんでしたね。相手の3失策や片山くんからしぶとくヒット5本を放つなどチャンスは作りましたが、その後の進める・還すといった本来の彼らの持ち味とも言うべき部分が、片山くんの粘りの投球(ピッチング)の前に封じられてしまった形ですね』

『前の2試合では合計8得点、何れも出たランナーを確実に進めては還す、を繰り返して地味ながらも着実に加点していました』

『中々バントが決まらなかったり、チャンスで併殺打2つも出てしまったり…、ちょっとこの辺りが巧く行かなかった印象ですね』

『では走塁面のほうは?』

『N`Carsが足技を使ってアグレッシブに点を取りに行こうとするのが見えたのに対して、最上ノーストップズは確実に行こうとするあまりかえって足技を使えていなかったのが対照的でした。中でもN`Carsの小宮山くんは相手が左ピッチャーの瀬見くんということで盗塁がし辛い中盗塁を、それも二盗(セカンドスチール)を2つ決めてますからね。逆に最上ノーストップズは走塁ミスは無かった代わりにアグレッシブさがもう少し欲しかったな、という印象です。初回の投球練習の後の関川くんのセカンドへのスローイングで足技は使えないと判断したんでしょうが、試合前の時点で2試合7失策のN`Carsの守備力を考えれば、寧ろ攻めても良かったかと思います』

『さあこれで今日行われた4試合を以て、今大会での北前球場の試合は全て終わりました。明日大会第5日目、代表決定戦の4試合は全て羽前球場で行われます。全国大会への出場が懸かったこの試合に、この試合で勝ったN`Carsを含む計8チームが挑みます。今少し河瀬さんが触れられたように、N`Carsは特に守備力、今日までの3試合合計10失策と決して出来が良いとは言えないこの守備力をどこまで修正できるかが鍵になってきそうです』

『代表決定戦に出るチームとは思えない数字ですね』


 整備員がグラウンドを均している中、N`Carsの選手たちは順々に専用の通路を通り、ロッカールームへ向かう。この後はミーティングをしてから掃除をする予定だ。

―もう1度アイツらと戦う。今度は最初からお互いベストピッチングで。

―快音は残せたけど結果は出なかったからな…。今度は1本。

―キャプテンとして甲斐あることをできれば…。次こそは。

 瀬見、向町、本城がそれぞれ再戦(リベンジ)を望みつつ、最上ノーストップズの選手たちも同じくグラウンドから順々に引き揚げて行った。

『両チームの選手たちが1人ずつグラウンドに一礼をしてからそれぞれの地元に帰って行きます。そのグラウンドでは今大会では最後のグラウンド整備が行われています』

『これが今大会最後と思うと…、何か名残惜しいですね』

『しかしもうここから、次に行われる大会、もしくは試合に備えての準備は始まっています。今日の北前球場第4試合は1時間11分というスピーディーなゲームの末、5対1でN`Carsが勝利したゲームでした。再三申し上げております通り、今大会での北前球場での試合はこの試合が最後となります。明日大会5日目の代表決定戦4試合は全て羽前球場で行われます。既に今大会4球場での試合日程が組まれていましたが、そのうち大会3日目までに置賜球場と北郡球場の2つの球場での試合は全日程の全試合を無事に終えて、そして今日北前球場も予定されていた全日程全試合を終えました。こうしてみると先程河瀬さんが仰ったように何か名残惜しいですね』

『ねえ。各チームはそれぞれ残り1日、あと1試合ですが、それぞれ最後まで気を抜かずに精一杯頑張って貰いたいですね』

『合計4球場で44試合行われる今大会の試合日程のうち、3球場は全日程を終了、試合数としては4球場トータルで40試合を消化しました。残りは羽前球場で行われる代表決定戦4試合のみ。今勝ち残っている8チームのうち、明日の代表決定戦に勝利した4チームは山形県代表として全国大会に出場します』

『中々レベルの高いチームが出揃っているようなので、好ゲームに期待したいですね』

『はい。その4チームは果たしてどこになるのでしょうか。この試合の解説は地元・山形出身で出羽大学では選手、そして監督としても活躍されて一昨年監督としての現役を退くと同時に終身名誉監督に就任されました河瀬 貴行さん、実況は私、三谷中で今日の北前球場第4試合の模様をお送りいたしました。河瀬さん本日はありがとうございました』

『はい、こちらこそありがとうございました』

『それではこの北前球場から失礼します』


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