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The Baseball Novel  作者: N'Cars
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草野球カップに向けて

この大会(草野球カップの山形県大会)で使用される羽前球場、置賜球場、北前球場、北郡球場は、それぞれ以下の球場がモデルとなっています。


羽前球場→山形県野球場

置賜球場→米沢市営野球場

北前球場→酒田市光が丘野球場

北郡球場→新庄市民球場


※全て実在します。

翌日


昨日入団したばかりの永田も今日は野球のユニフォームを着て練習に臨んだ。同じく昨日監督に就任したばかりの徳山の練習は熱のある指導が主体で、やる気満々の指導が見られる。マネージャーに井手も加入し、新たなチームが今日から始動する。

だがそれに伴う措置なのか、関川が練習前にとんでもないことを言い出す。


「皆に提案があるんやけど、主将を永田に代えたい」


「お、おい浩介、何言い出すんだよ? お前はチームの大黒柱なんだぞ、それを突然放棄するってどういうことなんだ?」

真っ先に萩原が今の発言の理由を尋ねる。彼だけでない、これにはいきなり指名された永田は勿論、他のメンバーも動揺していた。

「オレは今まで通り関川がキャプテンやっても、いや、寧ろ関川にやってもらいたい」

「浩介、永田がああ言うてるで、やっぱりアンタが」

「いや開次、オレが主将とクリーンナップとグランドの要の捕手の3役は昔はともかく今は無理なんや。責任が凄く押しつけられてるのがここ最近気に入らんようなってきたわ。責任逃れとは言わへんけど、仕事は皆で協力して分担して効率良く進めるもんやろ? それと同じで、こういう役割も分担したいんよ」

関川からこの理由を聞いた永田は、少し間を置いてから、

「そうなのか…、オレは昨日入ったばっかなんだけどまぁいい。やろう」

主将を引き受けることに決定した。

「よーし決まり。新主将は永田やぁ。んでオレは副主将や」

しかし段取りがわからない永田は、とりあえず関川にルーティンを尋ねる。

「…つっても、何やったらいいの?」

「そうやろう思って、暫くはオレがサポートしたる。安心せぇ」

「なら良かった。最初はランニングだよな?」

「そや」

「よーし、ランニング」

「はい」

って、いきなり仕切るのかよ。周りが動揺してたのにお構い無し、ってか。


「いつものランニングコースで行くで、永田はついて来れるか?」

「…ま、長距離はね…」

「ほな、スタートや」

関川の一声で皆は一斉にスタートする。永田はついて来れるのが精一杯と見た片山・関川の関西出身の主力バッテリーはいつものように快調に飛ばしていく。

―まぁ無理やろ。バッテリーはいつもの練習に加えてバッテリーだけの練習でかなりの距離走っとるからスタミナには自信あるで。ましてや昨日入ったばかりの外野手なんざに抜かれはせ…えぇ!?

ところがどうだろうか。先頭集団の後ろに永田がいるではないか。かっ飛ばしているのだろうか。いくら中学で軟式をやってきた身とはいえ少なからずのブランクはある筈だが、なぜ恰かもブランクがないかのような走りができるのか。


―おいおい、何でアンタがついてきとんねん。いきなり飛ばし過ぎとると違うか?

―とりあえず一番速い人の後ろにつけばスピード乗るからこのままついていこう。

このままでは抜かれてしまうと判断した片山は、永田に近々開催される大会の概要説明で永田の集中力を奪おうとした。

「なぁ永田、近々開催される大会があるんやけど、それについて話さんか?」

「どんな大会?」

「全国草野球選手権大会、通称草野球カップや。この大会のメイン会場がオレらの故郷の大阪でな、ちょいと思い入れがあるんよ。ま、全国行ってからの話やけど」

「大阪かぁ…。でもさ、遠くね?」

「そりゃ遠いけど、各都道府県の代表チームは1つの都道府県に4枠あるんや、つまりはベスト4に入りゃ全国大会の切符が得られるんやで」

「そそ。優勝できんかったとしても4強に入っとれば全国行きや」

「あれ、ベスト4までやなかった? 確か代表決定戦までやった筈」

「あ、そっか」

関川が片山に確認を取ったが、この大会はこれで正しい。代表が四枠なので、その四チームが決まればそれ以上戦う必要はないからである。

「4強ったって、山形も予選やるんでしょ? だったら県予選のことも」

「そらやるわな。ベスト4が絶対条件やから」

「そうなんだ」 

「ルールは7イニングの延長18回までで再試合あり、再試合は14回終えて引き分けやったらピッチングマシン使ってホームラン競争やるけど、オレは正直言って野球で決着つけさせて欲しいわ…」

「何で? 面白味ないから?」

「そや。高校野球みたく9イニングにして欲しいし、それで引き分けやったら延長戦やってもええのにな。まともな勝負がたった7イニングしかできない言うのが好きになれん理由や」

「おまけに地方大会は得点差のコールドゲームもあるんやろ?」

「あぁ…、確か5回10点コールドやったな。何かつまらんなぁ…」

大会の制度に半ば不満をこぼす片山と関川に、永田が一声かける。

「でもさ片山、関川、それなら勝ち進めばいいじゃん。そうすりゃ1試合あたりはつまらなくても複数の試合やれば楽しいベ?」

「ん…あっ、確かにそう…やね」

「うん、4X47=188チームやもんな。これだけ出場チームがあれば、後は勝ち進むだけで構わんな。一気に優勝するかぁ」

「んだな、それが一番だ。一番試合数多いし」

「よっしゃ、今度の大会の目標は優勝やぁ!!」

「オレも賛成だぜ」

「オレもやぁ」

「てなわけで」

―えっ、ちょっと、いきなりスピード変えるのかよ。何だよあの2人、オレを巧妙な話に乗せといてある程度乗ったところで仕掛けるのかよ…。

「だぁ~…」

―話の途中でポンと離されるとかねぇわ…。


さて先程片山が持ち掛けた大会だが、全国各地の注目チームを紹介しよう。


山形の東隣の宮城では宮城ドルトムントと仙台アパレルの2大勢力が注目を浴びている。まず宮城ドルトムントは1番・中堅で俊足巧打の伊達がチームの主軸で、二盗、三盗を一気に決める程の俊足は他チームからも恐れられている。投げては8番に座っているアンダースローでエースの早坂と幼馴染みの9番・捕手の大友のバッテリーが光る。次いで仙台アパレルは3番・三塁の青葉、4番・左翼の泉、5番・一塁の太白を主軸とする強力打線と1・2番を担うバッテリーの左投手・宮城野と強肩捕手の若林といった「勝利のための5大要素」がチームを牽引している。


同じ強力打線で言えば東海地方の静岡marineも目を引く存在。守備が不安視される反面、3番・捕手の葵、4番・中堅の清水、5番・遊撃の駿河が軸の強力打線は、この3人が勢いづけば他のメンバーも凄まじい打棒を見せる。同じ東海地方で言えば愛知の安城デンジャラスか。選手はそうでもないが監督が勝利に貪欲な性格で、あらゆる作戦を敷いてゲームプランを立てていく。

関西以西のうち、中国地方の広島では東洋デリケートが投打ともにバランス良く、レベルも高い。また、同じ中国地方の岡山では岡山サニーズの1番・二塁と3番・右翼の三宅兄弟が走攻守にわたりチームを牽引している。


四国地方でも目を引くチームは多いが、注目すべきは徳島では鋭い感覚を武器にする投打の主軸・阿麻橘が以前それほど強くなかった吉野川リバースのレベルを向上させている。香川では華奢なサイドスローのサウスポー・大西をはじめ地元のみの選手だけで構成したグリーン高松が注目されている。愛媛では四国の中でも名門の新居浜ワインダーズが、高知は土佐ボニーツの好投手・長宗我部が最大の鍵を握る。


九州地方でも長崎の島原スカイズは全国でも通用する強力打線だし、沖縄では那覇オプティミスティックの楽しさ且つ充実さ溢れるプレーが際立つ。


北陸のうち富山では特に新湊レアズのメンバーが全員珍しい名字を持つ者たちだが、彼らは投打は平均的でも駆け引きでは群を抜いて圧倒的な強さを見せる。石川では小松ビッグスターズの王生がその優れた理論でチームに勝機をもたらす。自らは参謀に徹するためか8番・左翼に座っているが、いざという時は他のポジションも担い、左利きにも拘らず理論を活かして右利きとして捕手を担ったり、サウスポーとしてマウンドに上がることもある。


北の大地・北海道では特に打撃に重きを置いているチームが目立つ。札幌スノーマンズや小樽ウェスタンズといった本州寄りの草野球の名門チームやオホーツク海寄りのチームである稚内アイスバーンは特にその筆頭格。だが3チームとも守備に課題がある。


山形でも全国大会へ向けての予選が行われる予定で、、今後はそれに向けた練習が主体となるわけだが、全国には数々の猛者たちがいるように、この山形県全体にこそ猛者は多くいる。その猛者たちを相手に真っ向から勝ち上がっていくには厳しい練習に耐える必要があるんだ、と徳山監督は言った。

さすがに元野球部の顧問だっただけにそのあたりを確りと心得ている。更に有言実行の如く打撃・守備の両面で熱のこもった厳しい指導がそれまでのNCを改革させる結果になった。

「そうだ、1球1球を大事にしろ、そうすれば疎かなプレーが出ないんだ」

徳山監督の熱いノックは続く。実戦そのもののノックは各選手のレベル向上に繋がっている。勿論ノックバットを使っているが、その打球は実戦ばりに強い。

―内野すげぇな。外野もだけど、この人のノックヤバいもん。

「次、外野行くぞ」

「お願いしまーす」

キーン。金属のノックバットから高々と外野フライが飛ぶ。

―オレだな。

「オーライ」

「頼むぞ」

右中間の飛球を永田が確りとキャッチ。直ぐ様バックホームで捕手に目掛けて返球する。

「よし、次」

「お願いしまーす」

キーン。今度は左中間に舞う。同じように捕れる野手が捕れる意志をアピールし、他の野手はバックアップに廻る。

「よし、連携プレーってのは確りと繋いで1つのプレーを成立させるもので、1つでも乱れちゃ駄目なのさ。中継プレーも連携プレーの1つで、ボールを確りと繋いで目的の塁に転送するんだ。そのために冷静に素早い送球が要るわけよ」

「はい」

「今の2球はミスこそなかったけどそういうことを意識して臨め」

「はい」

「よし、次だ」

カキーン。センター前ヒットをバックホーム、という想定だ。バックホームと関川がセンターの萩原に指示する。萩原は関川目掛けてダイレクトに返球する。関川はノーカットの指示を出し、ワンバウンドで返ってきた球を確りとキャッチし、タッチプレー。

「外野は今の通りの返球でいい。捕手に目掛けて返球するならワンバウンドで返すつもりでないと悪送球に繋がるぞ」

「はい」


守備練習が終わると打撃練習に移ったが、ここでも練習の厳しさが窺える。

「下半身意識してバット振らねぇと打球飛ばねぇぞ。腰からスイングして」

―腰からスイングか。ま、確かに下半身って重要な役割を担うからな。

近くで聞いていた永田も腰を意識したスイングで打球を思いきり飛ばす。

「永田と三池は確り腰を意識している。あと主力バッテリーの片山と関川もいいスイングだ。この基本ができていればどんな時でも打てるぞ」

「ありがとうございます。で、」

「ん? 何だ永田?」

「峰村どうですか? アイツもバットに当たれば飛ぶバッターですが…」

「アイツもだけど、アイツはバットに当ててからパワーを発揮するけど、お前らは当てる前からパワーを発揮しているんだ。確りと腰からスイングすることを意識すれば当たる前から飛ばせるわけよ。つっても野球は何があるかわからないだけにそうもいかないけどな」

「峰村、腰意識しろ。でねぇとボール飛ばねぇぞ」

―どうやらこのチームは打撃が得意なようだな。だったら打ちまくるチームづくりをするか。あ、…でもそしたら守備が怪しぐなるな。得意なことで苦手な部分をカバーするようなチームづくりにするか。となると、下半身強化と打撃練習を3分の2に充てるか。スポーツは下半身が鍵を握るからな。

徳山監督の厳しい練習はどんな下手な素人でもレギュラーの実力を持たせる程のレベルに上げることができるので、弱小と侮られていたチームを一気に強くすることも可能なのだ。つまりは永田が加入する前は野球ごっこのような状態にあったNCも彼の手で強くすることができるのだ。

そんな彼の好きな言葉は「下剋上」。弱小チームを一気に強くすることが好きな彼は、進んで弱小チームの監督を担うようになった。実際に彼の厳しい教えを受けたチームは一気に強豪チームと化し、彼が居なくなった後でも強さを維持している。


その日の練習が終わった後も選手たちは各自で自主練習をしている。永田は外野手と投手、更に3番に主将といくつもの役割を担っているため、どこの役割でも足引っ張るような主将なんざ大恥だと中学時代から一転して努力をしている。


―山形は48チームで勝ち上がれば全国大会に行けるけど、地区と全国じゃレベルが違う。監督も言ってたように、気なんざ抜かねぇ。一生ベンチウォーマーなんて、もう飽き飽きなんだよ!!

「永田、投げ込みしとったんか」

「片山?」

「オレが指導するから」

「いや、しかし」

「何言うてんねん、オレはNCのエースやで。エース直伝の指導受けりゃお前も投手として使えるで」

態々夜中に片山が永田のピッチングに付き合うと言ってきた。永田は最初は1人で練習する気持ちでいたが片山の説得で気持ちを切り替えた。全国でもレベルが高い関西は大阪出身の片山の指導は徳山監督に負けず劣らずの厳しさを見せる。

「コントロールはだいぶ纏まってきたようやな。ただフォームがまだバラついてるし、投球数に比例してコントロールもおかしくなっとる。まだスタミナが要るわな」

「まだまだか…」

「ここで悄気るような主将は居らん筈や。よっしゃ、これからオレと秘密の特訓するでぇ」

「秘密の特訓?」

「そや。一先ずオレに投げてみい」


永田は片山に言われるがままに投げることにした。しかし片山は捕手でもないのになぜ投げてみろと言ってきたのか。すると片山はキャッチャーミットを左手にはめ、プロテクターとレガース、更にはマスクにヘルメットを装着し、捕手の格好をして出てきた。

「片山、キャッチャーやったことあんの?」

「いや、あらへんけどずっと浩介見とったさかい、できなくもないで」

「ふーん…」

「ささ、はよ投げぇ」

―ま、いっか。ずっとバッテリー組んできたっていうし、精々ストライクボール捕るぐらいならできるでしょ。



正規なポジションは右翼手の永田から速球が投げ込まれる。これを片山は関川を彷彿させるような構えで確りとキャッチ。しかしなぜか片山の表情が渋かった。



「ん? どうした、早くボール返せよ」

「永田…球質軽すぎるわ。このままやとアンタ相手打者のサンドバッグになってまうで」

「ちょいちょい、どういうことだよ? スピードは出てんだろ?」

「確かに100㎞/hは出とるな」

―これでも全然遅いほうやねんけど…。

「でもオレが言ってるのはアンタの球質や。軽いんよ。序盤はスピードだけでイニング稼げても後半で打者の目が慣れてきよったら十中八九間違いなくサンドバッグやな。今ある球速に重い球質を足せば後半なっても打たれはせんけど、現状のままじゃ後半が怖いで…」

―球質が軽い? スピードがある分重くなってると思ったんだが違ったか…。

「やっぱり体重増やさないとならんな。同時にスタミナを足せば連投なった時に体力的にも大丈夫やろ。線が細いとこういうところがネックになってくるんよ」

―線が細いねぇ。そりゃ長らくオレの悩みともなっていたことなんだけどさ、ここにきてズバッと言ってくれたよな。威圧感があるってことはオレみてぇなヤツと違うんだろうな。

「筋力アップと食事量アップ。こうすりゃ間違いなく体重増加できるで」

「んで、球質を重くするというわけか」

「ようわかっとるやん。下半身も今まで通り強化すりゃ後半フラつかんな」

「この辺車と一緒だな。いくらパワー出しても足腰が安定してないともたない、って」

「それと同じように考えていきゃあええから、球質重くすることは力強い立ち上がりができるようにすることや。これを大会前までにこなしとけば十分投手としても使ってもらえるやろ、たぶん」

「ちょちょ、たぶん、ってそりゃ」

「最終的に決めるのは監督やから、試合では監督の判断でどうするかやな。誰がどの位置で試合するのかは監督の指示に任せよう」

「…そうか…」

片山は秘かに永田のバッグにある本らしき物を入れていた。


翌日


「おはようございます」

「おお永田か、今日車?」

「いや、チャリ」

「チャリ? 何で?」

「トレーニング始めたから。車じゃ楽しそうだし」

―お、早速始めたんやな。



カキーン、キィーン


少し経って、NCは打撃練習をしていた。

「永田、長く持ってばっかで全ての球に対応できるわけないやろ、一握り余してみろ」

永田は片山のアドバイスを受けてバットを一握り余して打ってみた。

「そや、コンパクトにスイングすれば大振りせんでも球は飛ぶんやで。それとオレが教えたあの…」

「あぁ、ちゃんとやってるよ。結構あれタメになってるな」

「そりゃ良かった。タメなってなかったらどないしよ、って思ったわ」

永田は最後の球を打ち終え、次の人と交代した。そしてティーバッティングに移ろうとした途端監督に呼ばれた。


「何ですか?」

「お前、外野手って言ってたろ? 何かピッチング練習もしてるって聞いたけど…」

「ええ、してますけど?」

「永田がまだ昼間の練習で投球練してるの見たことないんだよね。影で秘かにやってるのか?」

―まさか叱るんじゃねぇだろうな?

「…はい」

「そうか…。わかった、ちょっと気になったことだったからな、気にしねぇでやってくれ」

―永田のヤツ実は投手もしたいんでねが? 昼間中々プルペンで投げねぇし、寧ろ打撃と外野守備しかやってなかったからよ。いいや、後で見てやっか。

―何だったんだ今の? 何かオレが投球練がどうこうって内容だったけど、何言いだかったんだ?

永田が夜中まで投球練習をしているということは彼以外では片山と関川ぐらいしか知らない筈である。それがどこかから噂となって流れてきて今のような話になったというのだろうか。でもこのままのほうが他のメンバーに秘密にできるのだ。


夕方


「よし、じゃあグランド整備してクールダウンやって」

「はい」

「グランド整備ぃ」

「はい」

―しっかし何だぁ、監督さんわかってたのかね? オレの投球練さ。あれからずっと気になってたんだけど、どうして目を向けてきたんだろ?

永田は監督に言われてからずっとそのことが気になっていた。監督にも自らの思惑があるだろうが、それがわからなかった。

―こうやってグランドをトンボで均してもわかるわけねぇな。ま、いいや。今夜になりゃわかるだろ。

敢えて気にせずに夜間の投球練をしていたほうが身のためになるだろうと判断し、今はやるべきことにだけ集中することにした。


クールダウンも終わり、今日はこれで練習は終わった。皆は自宅に帰って自主練習をするが、永田だけは残っていつもの投球練習を始めた。

「やはりやってたか、永田」

「か、監督、なぜ?」

「ちょっと投球練習に付き合っていいかな? 片山と一緒に指導したいんでね」

「…はぁ…。んで、片山は?」

「居るよ。おーい、片山…あれ?」

「居ないじゃないですか」

「いや…、あっ、居た居た」

「暗闇やったから見えなかったのも無理ないな。ブルペンのライト点けて始めましょうか」

「だね」

「んだな、早く投げちまうベ」

こうして、永田と監督と片山は投球練習を始めた。永田はブルペンでひたすら投げ続け、片山は昨日と同じくキャッチャーの格好をして投球を受け、監督は片山とともに永田の投球時の指導にあたる。

「やっぱり1日そこらじゃそんなに球質変わらんなぁ。でもコントロールは纏まってきよるから残りは球質を重くすることだけやな。この調子でどんどんいきぃや」

「あぁ」

「ストレート主体で投げてるようだけど、ストレートは大事な球種だから確りとコントロールを定めないと後々まずくなるぞ。身長がこれだけあるんだから片山の言う通り横を広くすりゃ球質が重くなるぞ」

「はい」

「あと体全体を使って思いきり腕を振れ。投手だけでなく野手も腕を振ることは大事だからな」

「そのあたりを普段のキャッチボールでも意識すりゃ益々コントロールは定まるで。これからや、永田。アンタは努力次第でどんどん伸びるタイプの人間や、アンタが一人前の投手になるまではオレも監督も付き合うで」

「えっ、監と…」

永田は監督に向かったが、ほぼ同時に監督も頷いた。

「ありがとうございます」



それからというもの、永田は片山と監督の指導を受けながら投球練習を繰り返し行っていた。

「うん、球速もいいしキレもある。これなら野手兼投手の立場はやれるな」

「ありがとうございます」

「参ったなぁ、永田に1本取られてまったわ」

「そういう片山だってキャッチャーの練習できてたじゃん」

「いや…、あれは浩介を見よう見まねでやってみただけやし、背番号2としての正規なキャッチャーはアイツやろ。あとキャッチャーは祐希だけでこの2人だけでも十分そうっぽいけどな…」

「それは違うぞ」

「監督、それやったら十分やない言うんですか?」

「そうだ。なぜなら片山は見よう見まねとはいえ永田の投球練習に捕手として付き合った。その結果関川に及ばなくともキャッチャーとしてはもう十分様になってんだ。今までおめそんなことに気づかなかったべ? 自分じゃわからなくても他から見れば上達してたりするもんだ。これからはおめもキャッチャーの練習やんねばなんねな」

「え…」

「良かったな片山、サブポジションできたじゃんか」

「…ありがとうございます」

片山は長らく投手だけの地位しか築いていなかったが、永田の投球練習に捕手として付き合った結果捕手としての地位も築けるようになった。今までサブポジションはあったとしても精々外野ぐらいなもので、他のポジションにはならないと思っていたが、次第に体が捕手の動きを覚えていたのだ。

―オレとしたことがずっと気づかんかった。今まで捕手は浩介と祐希だけやろ、オレがキャッチャーなんてあり得へん、って思うとったけどな…、監督があの鶴の一声掛けよったからやってみるか。

「但し、今度の草野球カップでは片山をエース登録しておくつもりだから、永田の投手と片山の捕手は何れもサブポジションだってことにするぞ。そんでいいが? オレは一番場数踏んでるポジションで登録したいんだよ」

「わかりました、オレもそのつもりでした」

「オレもでっせ、やっぱ背番号2は浩介やろ」

「そうか。なら明日皆に正式にそのことを話しておく。勿論永田にも背番号渡すつもりだぞ」

「え、いくつですか?」

「いくつがは言わね、秘密だ」

「あーっ、ずるーい。片山にはエース登録するって言った癖に他には教えないのかよー」

いやいや永田よ、今教えたら背番号の楽しみってものが無くなってしまうでしょうが。


その頃、某空き地


「よし、キャッチングはそんでええねん。これならアンタにキャッチャーやらせても大丈夫やろ」

「ありがとう。で、浩介も勿論キャッチャーだよね?」

「そや。今までオレが開次の真似してピッチャーやっとったけど、ピッチャーやる気は今はないな。打者の後ろで座ってボール捕ってたほうがオレにはしっくりくるんや。ま、何もなけりゃ暫くはキャッチャーやな」

「やっぱりか。でもサブポジションはあったほうが良さそうな気がするんだけど…」

「せやかてピッチャーは…ちょっとなぁ…。牽制とかセットポジションとか」

「セットポジションで投げてたでしょ」

「でもそんな奥深くないし、場合によっちゃランナー進めてまうし、ボークとられるから今はそれ避けたいのよ」

「開次に聞けば? オレが浩介に聞いたみたく浩介も開次に聞きゃいいんでね?」

「まぁ…祐希の言うことも尤もやな。開次だけやなくて京太とか秀一とかに聞くのも1つの手だしな。投手のことは投手に聞け、ってか」

「アイツらは一番場数踏んでるから聞き易いと思うけど」

「駄目元で明日聞いてみる。今日の特訓はここまでや…」

―ピッチャーか。オレにしてみりゃ今まで投手はアイツらだけで十分やったからそのままでも出場したいんやけど、監督がどんな形で登録するかわからんなぁ…。

関川は車のエンジンを始動させた。既に相澤は車で自宅に帰っている。

―登録メンバーの発表いつやろ。監督は初任やし、たぶん現状のポジションで登録するんやろうけど、18人おるからな…。登録メンバーの人数に制限はないけど元の人数が少なければどのチームも18人前後に揃えてくるやろ。誰が何番背負うかはその時のお楽しみやな。

少し長考した後、関川はシフトレバーを1速に入れて自宅に走らせた。


翌々日


―今日が抽選会、…んで正午から…。

ということを一昨日監督から伝えられた。

抽選会には、各チームの主将と監督が出席することとなっている。それにしても永田、かなり緊張しっぱなしではないか。

「永田、おめガッチガチだぞ」

「関川にもリラックスして籤引いてこいって言われてきたんですけどね…、だって」

「どこさ当たったって、皆猛者だって思えばいいべ」

―ご、ごもっとも。

重圧をかなり感じているようで…。しかし、確かに抽選会にはそのような心理も働く。


抽選会会場


NC含む山形の全48チームが4チームの全国大会枠を目指してお互いに挑み合う。その第一歩として、これから抽選会が開かれる。

「ここか…」

プレッシャー覚えまくりの永田、動きがすごく硬い。いかに予選とはいえ、初戦は皆緊張するものである。自分の感覚ではたぶん周りで一番というくらい緊張している…、そう感じていた永田だった。

会場は開いたばかりのようで、何チームかは既に入っていた。永田と徳山監督も、会場入りした。

「こ、こんにちは、え、N'Carsです」

随分かんでいる。おそらく係の人は少なくともこう思ったであろう…。この人かなり緊張している、と…。

予備抽選の箱に右手を入れ、籤を引くという一連の過程ですらぎこちない。

「ん?」

永田が引いた籤には10と記されていた。

「10、って…」

「予備抽選は10番ですね」

「え、あ、はい」

「ではこちらからプログラムの冊子を登録メンバーと同数分お持ち戴いて、会場内でお待ちください」

「はい…」

それにしても、まだ緊張している。予備抽選でこれでは、本番で相当なプレッシャーを感じそうである。

「永田」

「はい?」

「関川でねぇけど、リラックスして籤引いでこい。この際だ、思いきって主将らしく堂々と引き当てろ」

監督からのアドバイスはそれだけだった。元野球部顧問の彼だからこそ、このようなアドバイスを送ったのだ。


そして、愈々組み合わせ抽選会が始まった。

『1、開会宣言』

『これより、全国草野球選手権大会 山形県大会の組み合わせ抽選会を開催いたします』


その頃、NCの練習グラウンド


そこでは、関川が携帯ラジオをベンチの上に置き、抽選会の様子を聴いていた。

「始まったで」

「おおっ」

「オレらも聴くか」

「しっ」

始まったことを聞いて一瞬ざわつきかけたメンバーを素早く黙らせる。関川にとっても、いや、NCにとっての大事な事柄を副主将として聴かないわけにはいかない。態々イヤホンを繋いで聴いているのだから尚更である。


『2、大会会長挨拶、ならびに大会上の諸注意』

大会会長が壇上に上がり、一度その場で礼をする。その後中央に向かって進み、正面を向いてまた一礼する。

『えー、本大会には山形県からは48チームが予選大会に参加するということで、これだけのチームが参加して戴いたことを誠に嬉しく思います。選手の皆さんには正々堂々、全力で各試合を戦っていただきたいところでございます。尚、大会上の諸注意につきましては、入り口の受付にて各チームに配布いたしましたプログラムの諸注意のページに記載されている通りでございます。これから抽選会となりますが、各チームには先程も述べましたように、お互いに正々堂々と試合に挑んでいただきたい次第です。以上で私の挨拶とさせていただきます』

挨拶が終わり、大会会長は再びその場で礼をする。そして、そのままゆっくりと壇上を降りる。


『3、組み合わせ抽選。それでは壇上で準備ができ次第開始といたします』

と、ここで係の人が数人出てきて、壇上で作業を始めた。そのうちの1人が持っている箱、あれがどうやら抽選箱になりそうだ。

奥にはトーナメント表が書かれたホワイトボードが設置され、先程まで中央に講壇があった位置にはスタンドマイクが置かれた。

―待って、まさか引いた籤の番号をあそこで言うの…。

どうやらそうらしい。

―うっわ勘弁してよ、もう目に見えてるよそこにマイクある時点でさ…。

そしてその近くには抽選箱が置かれた。さらに壇上の左側には客席側から見て縦に6列、横に8列の計48脚のパイプ椅子が並べられた。

―えーっ…と…、

しかし考える間もなく、

『それでは準備が整ったようです。各チームの主将は壇上のパイプ椅子に、予備抽選の番号順に左側の一番前の列からお掛けください』

永田を含む各チームの主将は壇上のパイプ椅子に向かった。近くまで来たところで、改めて係の人の指示があるようだ。

「予備抽選の番号は?」

「10番です」

「では2列目の左から3番目の椅子にお掛けください」

永田は壇上に上がる最中に…、


「ぐえっ」


ドシャッ。


梯子段で足を踏み外し転倒してしまった。

緊張し過ぎたのか、足が上がらなかったようだ。

改めて壇上に上がった永田は、先程係の人に指示された席に座った。

―はー…。


再びNCの練習グラウンド


「さっき誰かコケたような音したけどコケた人大丈夫だったのかな」

「あれ、いつの間にラジオ持ってきてたん?」

「こっちでも聴こうかと…。それによーく確認したいからさ」

―確認ねぇ…。でも各々の対策にはええかもな。


再び抽選会場


『只今より組み合わせ抽選を行います。各チームの主将には事前に予備抽選を引いて戴いております。予備抽選の1番を引いたチームの主将から順次抽選籤を引いてください。ではまず板谷パスィーズの主将はこちらで籤を引いてください』

―始まったな…。


再びNCの練習グラウンド


―始まったで…。

『板谷パスィーズ、大会第3日目羽前球場第1試合三塁側』

この山形県大会では、羽前、置賜、北前、そして北郡の4つの球場を使用して、かつ休養日を除く5日間の日程で48チームで4枠を目指して試合をしていく。大会は第1日と第2日で1回戦を行い、第3日で2回戦を行う。第3日の各球場の第2試合で参加48チームが全て出揃う。内訳は1回戦から登場するチームが32、2回戦から登場するチームが16。だが1つアドバンテージが与えられる16枠に早くも1チーム入ったのだ。

―いや、寧ろ1回戦からのほうがええ。2回戦からの登場で浮かれるよりずっとマシや。

関川の考えている通りかもしれない。1回戦から登場する確率が同様に確からしくて4分の3だからという消極的な考えではなく、寧ろ1試合1試合を着実に積み重ねていくことが大事と考えていた。

―来た相手に自分たちの野球で勝つんは1でも2でも一緒や。でも1回戦からのほうが気持ちが逃げとうないし大歓迎やで。

片山も同じことを考えていた。だが片山はエースとして逃げたくないということが最前提にある。

『酒田ブルティモアズ、大会第3日目北郡球場第3試合一塁側。続いて予備抽選10番、N'Carsの主将はこちらで籤を引いてください』

「来た」

「どこだ」

―早過ぎやろ。まだ呼ばれてすぐやで。


再び抽選会場


愈々永田の番である。しかしここにきてまだガチガチに硬くなっている。

―悪いとこだけは引きたくない…。ん…?

箱の少し手前で立ち止まる。そしてすぐさま深呼吸をして気持ちをほぐし、落ち着けた。

―そうだリラックス、リラックス…。落ち着いて、落ち着いて…。

気持ちほぐしたところで、改めて箱に近づく。そして右腕を抽選箱の中に入れた…。


―これか…?


右手で籤を掴むと、そのまま上に引き上げた…。


そしてすぐに籤を見る…。


―31番…?


『N'Cars、31番です』

『N'Cars、大会第2日目北郡球場第3試合一塁側』



再びNCの練習グラウンド


「え、大会2日目って…」

「ギリギリ1回戦からの登場」

「…、早く試合できるからいいか。今から練習練習」

「あれ、開次と浩介はやんないの?」

「対戦相手まだ決まってへんもん」

「どこか決まってから気持ちを維持するもんや思うけど」

「ん…、あ、そっか。確かにまだだ」

NCナインは再びラジオに耳を傾けた。日程は決まったが、相手はまだ決まっていない。

―1回戦からか…。するとベスト4まで4試合…。

―1試合1試合…、着実にやれるかどうか…。

―1つずつものにしていくだけとはいえ、初戦の相手がどこになるか…。

―何よりまずこれだ。

ところが…、いくら待っても対戦相手が決まらない。

『鶴岡クレーンズ、大会第2日目』

「おっ…、」

『羽前球場』

「あー」

『第2試合一塁側』

―鶴岡でもないか。

『中山センターマウンテンズ、大会第2日目』

「おっ」

『北郡球場』

「お!?」

「愈々か!?」

『第2試合三塁側』

「あ――っ」

「うわ…」

「一番近かった…」

「中山でもないんか…」

「これって一番遅く決まるパターンじゃね?」

「なんとなく」

暫くラジオを聴いても、入っていくのは他のカードばかり。

―いいなぁ他のチーム…。

―すぐ決まって対策練れるからさ…。

―勿論永田に責めるところはないけど、ギリギリまで我慢ってパターンすかね?

野球の試合でもそのようなことはよくある。しかしそのようなケースをいかにこなすかで、試合の展開が決まることもある。

『続いて予備抽選43番、中山越ナローズの主将はこちらで籤を引いてください』

―もう後ろのほうまできちゃったぞ…。まさかこのまま、

と思っていた時だった。

『中山越ナローズ、大会第2日目』

―空振りやろ。

『北郡球場第3試合三塁側』

「えっ」

「何やて」

「中山越ナローズ…」

「あぁ、尾花沢の…」

「漸く決まった…」

「長かった…」

「強いっけそこ?」

「強い…、とは聞いてねぇぞ」

「でも皆油断はアカンで。監督が仰有ってたように、どんなチームも猛者やって気持ちで入らな」

「よし…、相手が決まったことやし、監督と永田が戻るまで練習や」

「よっしゃ、やりますか」

漸く相手が決まり、NCナインは初戦に向けて各々で練習を始めた。


再び抽選会場


「中山越ナローズ…、って…?」

「そういえばおめ岩手の出だったな。尾花沢さあるチームだ」

「尾花沢ですか」

永田は尾花沢と聞かれて、すぐに連想したが、どうにもピンとこない。それでも監督は気を引き締めて試合に挑め、と言った。


抽選会が終わり、永田と監督は会場を後にした。同じように会場を出たばかりのチームの監督と主将が数多くいた。だが永田はそれよりも目に飛び込んだものがある。

―しまった…。肝心なことを忘れてた…。

永田の目に飛び込んだものは取材を心待ちにしているメディアだ。

―どうもメディアだけはなぁ…。

この草野球カップは全国から予選を勝ち抜いた188チームが各都道府県の代表として登場する。そのためかマスメディアからも注目されており、予選の時点で取材しようとするメディアも数多くいる。やはり何チームかは取材を受けていた。しかし永田は、

「監督すぐグラウンドに帰りましょう、オレらまだ練習があるんですから」

「あ、そうだな。よし、グラウンドさ戻るか」

すぐに練習グラウンドに戻ることで合意した。


再びNCの練習グラウンド


「腰からスイングする気持ちで…、」

カキーン!

「そ。そういうスイング。そして上からボールを思いきり叩く」

ガッ。

「あ…」

「アカン、ヘッド下げたらそら飛ばんて。フライになるだけや」

「ヘッドを下げずにって、つまり…」

「ボールよりバットのヘッドが下がったらアカンちぅことや。低めに来てもヘッドが下がらへんかったら飛ぶ」

グラウンドでは、NCナインが永田と監督が戻ってくるまでの間、ネットに向かってティーバッティングをしていた。監督が不在の時は、こうして片山と関川が他のメンバーに指導する。永田と監督、それにマネージャーの井手が入る前は関川が主将で、片山が副主将を各々担っていた。そのこともあり、選手同士で練習する時は彼らが中心になることが多い。


その頃、徳山監督の車の中


徳山監督が運転する車で、永田ら2人はNCの練習グラウンドに向かっていた。帰り際に永田はペットボトルのお茶を、監督は缶入りのミルクティーを各々近くの自動販売機で買った。永田はさっきまでとうってかわって落ち着いた表情を見せている。

「どうだ、緊張したが?」

「ええ、オレ人前に弱いんすよ…」

「だがらが、あんな派手にすっこけたの」

「派手に、って…」

あーあ。

そして2人は到着。


翌日、練習後


「さて、今度の全国草野球選手権大会の登録の背番号を発表する。呼ばれたら前に来て背番号を受け取ってくれ」

―愈々やな。誰がどの背番号貰うんやろ。

「1番、片山」

「はい」

「おっ、エース」

「あざっす」

「次は2番、関川」

「はい」

「ようやったな、バッテリー崩れるとこやったわ」

―狙ってたのか。

「あざっす」

「3番、三池」

「あざっす」

「お、大柄なファースト」

「るっせぇ」

「4番、梶原」

「あざっす」

―セカンドは他の誰にも譲りゃしないもんねぇ。

「5番、都筑」

―助かった…。

「あざっす」

「次は…、6番、小宮山」

―ショートの貫禄守ったぜ。

「あざっす」

「7番、桜場」

「あざっす」

…と、このあたりから徐々に何かを期待するような雰囲気になってきた。

「8番、萩原」

「あざっす」

―次の9番やな。今までなら充やろけど、永田が入りよったさかい、どうなっかわからんわ。

「次、9番…、」

―誰なんねん。

―ライトならこのチームで一番場数踏んでるオレ…か?

「永田。ま、主将だし2つのポジション担ってる以上はベンチに退かなくても大丈夫そうだからな。関川と一緒に皆を纏めてくれよ」

「あ、あざっす」

「永田」

「ん?」

「何や充、この背番号に何か不満がある言うんかい」

「違う。こうなった以上、オレは潔くライトのレギュラーを譲るよ。でもオレはお前からライトを奪い返すからな、必ずだぞ」

「ああ」

―何や、あのまま喧嘩するかと思った。

「続けるぞ。10番、高峰」

「あざっす」

「11番、黒谷」

「あざっす」

「12番、沢中」

「あざっす」

「13番、相澤」

「あざっす」

「14番、戸川」

「あざっす」

「15番、松浪」

「あざっす」

「16番、中津」

「あざっす」

「17番、峰村」

「あざっす」

「そして18番、菅沢」

―不本意だけど仕方ない。

「あざっす」

「そして監督は私、記録員はマネの真奈美さんだ」


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