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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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16/135

試合直前

―アウトカウント2、5回裏のスコアボードにまだ得点が入っていない、プレー続行…。

「大丈夫です、まだ試合は続行しています」

 マネージャーの井手が、ロッカールームから三塁側ベンチ裏に繋がる通路に付いている窓から第3試合の展開を確認して、N`Carsのメンバー全員に伝えた。

―良かった、まだ続行か…。

 取り敢えずコールドゲームになっていなかったので、無事間に合った模様。その窓に、試合展開を確認すべく高峰と相澤が来た。

「まだ5回裏だったんだ…」

「ピッチャーは3番手の子みたいね」

「今大会初登板かな?」


カキ―ン!


「あっ…」

「うわっ…」


 強烈な当たりがライト後方へ飛ぶ。三川インタグレーツのライトが背走して追うが…、


ポーン!


頭の上を大飛球が越えて、大きく弾む。

「ライトオーバー…、やばい長打コースだ!」

「内野陣早く中継に入れー!」

「ちょ、ちょっと、お前ら興奮し過ぎ。ここ廊下やで?」

「あ…、すまん血が騒いじまった」

 今の光景を見て、野球人の本能が目覚めたであろう2人を関川が落ち着かせる。


ザッ!


 バッターランナーは3塁へ。

「あーあ…、3塁打になっちゃった」

「またランナー背負ったか…。良いように攻められてるな」

 スリーベースヒットでサードベースへスライディングで辿り着いたバッターランナーが足を着けたまま起き上がり、スライディングの時にユニフォームの主にズボンに付いた土埃を手で払えるだけ払う。足元には、スライディングの時にできたであろう砂煙が舞っている。

「これでホームラン喰らったら終わるぞ…」

「かもしれないよ…。今調べたんだけど、今投げてる三川の3番手の子、1回戦で1イニングだけ投げてるんだけど、2点取られてるの」

「え、大丈夫?」

「最終回で点差もあった分リスクは低い場面での登板だったからそこまで影響は無かったみたいだけどね…。少ないイニングで少ない失点とはいえちょっと心配」

 自分の手持ちのスマートフォンで情報を調べた井手が、高峰と相澤にその情報を提供する。今の発言を聞いた2人が不安そうに彼を見つめるが…、


「あ、良かった」

「抑えた」

どうやら抑えたようだ。


 結局、三川インタグレーツはこの3番手投手の奮闘で、5回と6回、則ちグラウンド整備を跨いだ2イニングを無失点で抑えて、コールドゲームは免れた。だが試合は8対0、米沢ローリングスのエースピッチャー・情野の好投が続いたまま最終回、7回表の三川インタグレーツの攻撃を迎える。

「取り敢えず流れは止めたけど…、今度は自分たちが流れ作れるかだね」

「今のところそんな雰囲気が更々無いんだが」

「情野くんだもんね…」

 米沢ローリングスのピッチャーがエースで好投手の情野だから、という理由の井手に対して、

―いや、情野がどうのこうのじゃないでしょ。今日の様子じゃ情野以外のピッチャー出しても米沢有利で来てるよこれ。

高峰は情野以外でも同じことだと逆の理由でこう結論付けた。


バシィ!


「ストライクスリー! バッターアウト! ゲームセット!」

 三川インタグレーツの最後のバッターが空振り三振に抑えられて、ゲームセット。球審のコールを聞いた情野を筆頭にフェアグラウンドと1塁側ベンチから米沢ローリングスのメンバーが、3塁側ベンチから三川インタグレーツのメンバーがホームプレートに向かって、整列する。

「終わった」

「終わった?」

「じゃ、すぐ入れるようにしといて」

 第3試合が終わったとの報告を受けて、N`Carsのメンバーはすぐにベンチに入れるよう準備を始めた。全員が道具と荷物を持った時、試合終了のサイレンが鳴った。

 北前球場の第3試合は8対0、米沢ローリングスが投打がガッチリ噛み合って大勝。代表決定戦進出を果たした。結局は相澤の読み通り、たとえ流れは止められても作れる雰囲気がない、と言うより作らせる雰囲気すら与えずに勝利した。

―まーたやったよアイツ…。ホンット何事もなかったかのように投げて打って活躍して勝つんだもんなあ…。

 高峰が呆れて羨ましがるのも無理なかった。それもその筈、情野はあの後6回に2個、そして最後のアウトを奪った7回の1個で毎回の合計12奪三振、散発3安打で3塁も踏ませず完封勝利した上、打ってもタイムリーヒットが出て…と、置賜地方の好投手の名に恥じない活躍を続けているからだ。チームは違えど同じ置賜地方にあるチーム、況して同じピッチャーとあっては、闘志が燃えないわけがなかったのである。

 三川インタグレーツのメンバーがベンチ裏に引き揚げていくのと同時に、N`Carsのメンバーがベンチ入りを始める。一昨日と同じように直前の試合で敗れたチームのメンバーと擦れ違う格好になったが、N`Carsのメンバーはあくまでいつも通りの行動に気持ちを集中させていた。

「お願いします」

「お願いします」

永田を先頭にいつも通り元気良く挨拶をしてベンチに入る。

「今日は先攻だからシートノック後だけど、相手の守備の動きとか良ーく見といて」

 準備を進めるN`Carsのメンバーに、永田が声を掛ける。永田が言うように今日はN`Carsは先攻を取ったので、実際の試合では先に攻撃をして、後から守備を行う。シートノックは先に守備を行うチームから始めるので、後からシートノックをするチームにとってはその7分間が自分たちがシートノックをする前に相手の守備の動きから良いところを学んだり、グラウンドの状況を確かめることができる。グラウンドが整備されたての状態なので尚更だ。

 一通りの準備が終わって、片山と相澤が三塁側のブルペンへ向かおうとしたタイミングで、グラウンド整備が終わった。

「皆ベンチ前に整列して!」

 永田の号令で、N`Carsのメンバーが一斉に速やかに三塁側ベンチ前に整列する。全員が整列したのを見て、

「グラウンド整備、ありがとうございました!!」

「ありがとうございました!!」

 整備員さんにきちんと挨拶した後、片山と相澤以外のN`Carsのメンバーはベンチに座って待機する。まずは最上ノーストップズのシートノックだ。


『最上ノーストップズ、シートノックの準備をしてください』

「っしゃあいくぜ!!」

「おー!!」

最上ノーストップズのメンバーが全力疾走で最初に各々のポジションにつく。

『時間は7分間です。それではシートノックを始めてください』

このアナウンスと同時に、シートノック開始のサイレンが鳴る。

「…どう…?」

「基本に忠実、って感じ」

「確かに。そこまで派手さは無いけど、丁寧に進めてる」

 序盤何本かノックが飛んだのを見て、N`Carsのメンバーがその印象を口にする。これを聞きながら、永田は何かを頭の中で繰り返し思い出していた。


 


それは三塁側のロッカールームに戻る途中、手に持った最上ノーストップズのメンバー表を一瞬見遣った後のことである。

「あのチームは…、今おめが言ったように一見地味で大人しい雰囲気かもしれねぇけど、やるべきことは確りとやってくる堅実なチームだ。飛び抜けて強い部分が無ぇ代わりに、基礎が確りと固まっているから、注目は行きにくいけど実は強かなチームだ。さっきも大人しい雰囲気は感じてたようだけんど、結局じゃんけん負けたべ?」

「はい」

「勝ち負けには多少ナーバスでも、じゃんけんの勝ち方の基本的な部分は多分押さえていると思うんだ。もしこれがチーム特徴(カラー)だとしたら…、知らないうちに彼らの試合運びさやられるぞ」

 至って落ち着いた口調で、でもどこか緊張感のあるような雰囲気を保ったまま徳山監督は話した。この話し方と内容が、暫く永田の頭の中に確りと留まっていたのだ。




―…もしかしたら…、今見ているこの光景こそが…、まさにそれなんじゃ…。そしてもう既に…、始まっているんじゃ…。

 考え込むこと7分。最上ノーストップズのシートノックが終わって、それを告げるサイレンが鳴る。

『最上ノーストップズ、シートノックの時間終了です』

「行くで…、行くで永田」

「えっ…、ああ」

 三塁側ベンチの前に設置されているフェンスの一番上の部分に両手を組むようにして置き、その上に顎を置いて考えごとをするあまりボーッとしていた永田を、関川が呼び起こして我に返らせる。

「整列して」

「皆もう整列始めとるがな」

 整列にやや遅れ気味に、永田もグローブを持って加わる。

「ありがとうございました!!」

「ありがとうございました!!」

 先にノックを終えた最上ノーストップズのメンバーが、キャプテンの本城を先頭に整列して一礼する。


『続いてN'Cars、シートノックの準備をしてください』

「っしゃあいくぜ!!」

「おー!!」

NCナインが最初に各々のポジションにつく。整列したところから、全力疾走。

『時間は7分間です。それではシートノックを始めてください』

このアナウンスと同時に、シートノック開始のサイレンが鳴る。

「最初内野ボールファーストや!」

 サイレンが鳴ったと同時に、関川の指示、そして、徳山監督のノックがまずサードへゴロで飛ぶ。


「さあて今日は幾つやらかしますかね」

「アイツらなんてエラーがパフォーマンスみたいなもんだろ?」

「シートノックも入れたらアイツら1試合で10個以上はエラーしてるよね」


 観客席のどこからかはわからないが、どこからかそのような声が聴こえて来た。その頃三塁側ブルペンでは、片山が相澤を座らせて一見黙々と投球練習していた、ように見えるが…。

―エラーとか人のミスを見たさに来とるヤツ居んねんな。どこの誰か知らんけど、いっくら遠~~くでコソコソ小さい声で喋ったかてこっちには聞こえてんで。

恐らく今彼を怒らせたら、とんでもない事態に発展するであろう感情が、片山の中には既に湧きつつあった。

 シートノックの時間はその経過がわかり易いように、ボールカウントのランプ5つとアウトカウントのランプ2つの計7つを開始時に全て点灯させて、1分経過する毎に1つずつ消灯していく。それが半分程経過した頃、1塁側ベンチでは。


「どう思う?」

「言う程酷くは無い…ね」

「エラーは出てるけど、全体的に硬さが取れてる感じだな」

 先にシートノックを終えた最上ノーストップズのメンバーの会話に、上横川監督も加わって、シートノックを受けているN`Carsの守備の印象について、それぞれ意見を述べていた。

「外野のほうが巧い気がする」

「この球場は海に近いこともあって風が強いから煽られた打球に振り回され易いのに…」

「一番巧く無さそうなライトですら危なっかしいけどちゃんと風を読んだ上で捕ってるから…」

 先にシートノックを終えた最上ノーストップズのメンバー、特に外野陣でさえも、この風の強さとその影響は感じていた。上横川監督もシートノックの時、風の強さと外野陣の動きから、一定の影響はあると見込んでいた。

『N`Cars、ノック時間あと1分です』

 シートノックの時間があと1分となって、N`Carsのメンバーはシートノックの打球を捕ってバックホームした後、続々とファールグラウンドに引き揚げて整列を始める。その様子までずっと見ていた本城は、

―多分周りが思ってる程このチーム守備弱くないよ? エラーは出てもそこそこ締まった展開にはなりそう。

と、相手のシートノックの様子から守備力を予測して、その上で試合展開を予想していた。そのタイミングで、最後まで灯っていたランプが消灯して、サイレンが鳴った。

『N`Cars、シートノックの時間終了です』

シートノックの制限時間、7分間が終わった。

「気をつけ、礼! ありがとうございました!!」

「ありがとうございました!!」

挨拶の後すぐにグラウンド整備が始まり、そのままNCナインは主将の永田を先頭に三塁側アルプス席に向かって整列した。

「気をつけ、礼! 応援よろしくお願いします!!」

「お願いします!!」


『中1日を挟んで迎える大会第4日目、3回戦。陽が徐々に傾きつつありますが、依然時々雲が見えている位の清々しい青空が広がっています、ここ山形県は酒田にあります北前球場。これからその第4試合を迎えようというところです。これから対戦します一塁側最上ノーストップズ、三塁側N`Cars、ともに一昨日までに1、2回戦を勝ち上がっての登場です。現在グラウンドでは両チームのシートノックが終わって、係員によるグラウンド整備が行われています。この試合の解説は地元・山形出身で出羽大学では選手、そして監督としても活躍されて一昨年監督としての現役を退くと同時に終身名誉監督に就任されました河瀬 貴行さん、実況は私、三谷中(みやなか)でお伝えしてまいります。河瀬さんよろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『それではグラウンド整備の間、両チームの1回戦・2回戦の試合結果と今日の試合のスターティングメンバーを字幕でご紹介します』

 グラウンド整備が進む中、両チームの1回戦・2回戦の試合結果と今日の試合のスターティングメンバーが字幕に映し出される。紹介を終えて、話題は見所に移る。

『河瀬さん、この試合の見所はどこでしょうか?』

『地味ながら攻守とも堅実な試合運びで2試合を勝ち上がった最上ノーストップズと、初出場ながら2試合続けて逆転で勝ち上がって来たN`Carsという、どちらも粘り強く戦っているという印象のあるチーム同士の対戦ですね。特に2回戦は最上ノーストップズは延長10回まで行って接戦を制して、N`Carsは一時6点差あった試合を打ち合いに持ち込んで逆転サヨナラでそれぞれ勝っていますので、どちらがより粘り強く戦えるか、というところにスポットが定まってきそうです』

『そしてもう1つは今日の北前球場の試合は前の3試合は何れも全国大会出場経験のある強豪チームと未だそうで無いチームの対戦でしたが、この試合だけは唯一、全国大会出場経験の無いチーム同士の対戦ということになりましたが、その辺りはどうでしょうか?』

『そこを含めてもですね…。ただ最上ノーストップズは2回戦から2試合続けてですがN`Carsはこの大会初めて北前球場で試合をしますので、環境の変化に対応できるかというのもあるんですが、環境に慣れないうちはまずその環境を楽しむことですね。私は…、特にビジターのゲームなんかではまずその場の環境を楽しむことから始めてましたので、野球より環境を楽しみ過ぎてた、なんてこともありましたけどね』

『ある意味凄い話を頂くことができましたね。粘り強く戦えるかと、環境の変化に対応できるかというお話を頂いたところで、4氏審判がグラウンドに出て来ました。それに合わせて両チームの選手たちも各ベンチ前に整列します。一塁側は後攻の最上ノーストップズ、三塁側は先攻のN`Carsです』

「いきましょう」

「っしゃあいくぜ!!」

「おぅ!!」

「こっちもいくぞ!!」

「おー!!」

今日の第4試合を担当する球審の号令で、両チームのキャプテンが音頭をとってお互いのナインが一斉にホームプレートの前までダッシュする。

『両チームの選手たちと4氏審判がホームプレートを囲むように各横1列に整列しました』

「これから3回戦の第4試合を始めます…、礼!」

「お願いします!!」

同じく球審の挨拶の号令で、両チームの選手たちがお互いに対戦相手と4氏審判に脱帽の上、挨拶する。そして最上ノーストップズはキャプテン・本城の音頭で、

「よし、がっちりいこうぜ!!」

「おー!!」

『先に守備に就きます最上ノーストップズ。ではその守備陣を紹介していきます』

『お待たせいたしました。第4試合、最上ノーストップズ 対 N`Carsの試合、間もなく開始でございます。まず守ります、最上ノーストップズのピッチャーは瀬見。キャッチャー、満沢。ファースト、若宮。セカンド、志茂。サード、本城。ショート、大堀。レフト、向町。センター、東法田。ライト、法田』

『キャプテンの本城はサード、今日の先発ピッチャーは左のオーバーハンド、瀬見です』

『審判は、球審、重松。塁審、一塁、野澤。二塁、白川。三塁、兼村。以上4氏でございます』


「よし、まずはピッチャー見でみろ」

『今日こちら、先発の左オーバーハンド、瀬見投手。今大会は2試合合計17イニングを1人で投げ抜いて失点は2。奪った三振は2と少ないですが与えた四死球も少なく、持ち前の変化球を駆使したコントロールの良い投手であると言えます』

『所謂軟投派の投手というタイプですね』

『中1日置いて今日3連投目ということですが、その持ち前のピッチングが今日もできるか、注目したいところです』

「ということだが、何か見て気づがねが?」

「いや、コントロール良いな~、って…」

「いや、それだけでねぐてよ」

「ん?」

「誰かさ似てねぇが?」

「あ~…、でも京太っぽい感じはする」

「うん。午前の練習で高峰さバッティングピッチャーやらせだのそれなんだけど、はっきり言って今マウンドさいる瀬見はそれ以上だと思え。この瀬見こそタイプは違えど良いピッチャーだ。こういう時こそ、さっきミーティングで言ったことを守りつつ、練習でやってきたことを存分に見せで、常に勝つ、攻める気持ちを捨てねで思いっきりプレーしてこい。良いな!?」

「はい!」

 徳山監督が檄を飛ばした後、N`Carsのメンバーは今度は永田を中心に円陣を組み直す。

「じゃーまずは」

―先取点。

―オッケ。

「先取点取るぞ!」

「おー!!」


『1回の表、N`Carsの攻撃は―1番 センター 萩原。センター 萩原』

「瞬、逆方向に1本!」

「先頭出ろよー!」

「先取点大事だよー!」

『スイッチヒッターの萩原、今大会初めて右打席に立ちます』


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