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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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133/136

守備練習

「次、外野ノック!」

「はい!」


 ここからの30分間は、15分毎に区切って外野手と内野手がそれぞれ守備練習でノックを受ける。1辺が30mのグラウンドだけに、いつものノックよりも距離も感覚も大分違う筈だが…。




「外野陣、いつもより距離は近いけんど、今日は捕った後のほう、つまりバックホームのほうを重点的に意識しろ。低ぐ強ぐだ。何回もバウンドさせでも良いがら、そういうボールをホームさ投げろ。良いな皆!?」

「はい!」


 外野レギュラー6人のほかに、投げない時はライトを守る片山も外野ノックを受ける。


 こうして、まず前半の15分間、外野ノックが始まった。各自、徳山監督がノック前に仰った通り打球を取った後、低く強くを意識してバックホームする。


そんな中…。




「お願いします!」


 片山のもとへ、打球が来た。これを捕ると、すかさずバックホームの動作へ入る。実に素早く無駄の無い動きで右腕から放たれたボールは…、




ドン!




低く鋭く伸びて、結果ノーバウンドで関川のキャッチャーミットに収まった。全員一瞬呆気に取られたが…、




「凄ぇ…」

「相変わらずだな…」

「ナイスバックホーム!」


 と、一瞬の静寂の後、ノックを待機していた内野陣から声が飛んだ。


「いつも通りだな」

「この距離じゃキャッチボールと同じ位なんじゃないのー?」

「アホ、キャッチボールとちゃうわ! ノックじゃノック! いつもの外野ノックと同じテイでバックホームしたんじゃい!」


「お願いしまーす!」

キィン!

 今度は同じライトの永田へ打球が飛ぶ。片山と比べると些かぎこちない動きだが、それでもボールを捕った後、低く強くを意識してバックホームする。


「永田は動きは滅茶苦茶やけどお前らと違うて上手かろうが下手やろうが決して他の選手(プレーヤー)を茶化さんわ! その点お前らなぁ…」

「はーい、そこまでそこまで! ストップストップ! これ以上はよそう」




 いつもの外野ノックと同じ要領でバックホームしたのを、距離が近いという理由だけでキャッチボールと同じと茶化された様に聞こえて猛反発した片山だったが、永田に身を挺して止められて一旦は収束した。しかし片山はすぐに怒りが収まりきらなかった。




―いつも通りのことをいつも通りに熟したまでやっちぅのに何でそれがアカンねん…。




 ノックがレギュラー全員に一回りして、2巡目に入った。

「お願いします!」

―良う見とれや。これのどこがキャッチボールや言うんか…、その目良う見開いて確り見ときや。


キィン!


―これがキャッチボールやったらな…、態々落下点から1、2歩下がって構える筈無い。落下点丁度、つまりボールより斜め下の位置で構える筈や。それにな…、


タッ。


―そこから前方へ態々助走を付けて捕る筈無い。捕るだけやったら兎も角その後送球(スローイング)があるからな。そして…、


ドン!


―バックホーム程ベースマンが居る位置のベースを狙う位の低く強くを意識した送球(スローイング)をする筈無い…。




 先程に続き、またも低く鋭く伸びるボールを今度は送球に合わせてホームベースのすぐ前に被せる様に構えた関川のキャッチャーミットに投げる。






―これがキャッチボールや言うんか…?


 片山は先程自分を茶化した様な言動をした人全員を鋭く睨み付けた。強烈なバックホームと鋭い眼光の前に、またもグラウンド全体が一瞬静まり返った。


「…すみませんでした」

「ごめんなさーい」


―何でそれもっと早う言わへんねん…。






 途中、ちょっとしたいざこざはあったが、外野ノックも無事に終盤を迎えた。


「良し、次で外野全員ラスト! 返球(バックホーム)したら全員上がれよ!」

「はい!」

 徳山監督がノックバットで外野手全員を指しながら指示する。ラストということで全員再び士気が上がる。


「次ラスト―!」

「皆大事に行くよ―!」

「1球1球丁寧に―!」




キィン!




 徳山監督のノックバットから、打球が次々と外野手に向かって放たれる。外野手は全員、打球を捕ったらバックホームして引き揚げる。


「ノック終わったらベース準備して!」


 練習時間は全体で1時間、後半の主にノックを中心とした守備練習で30分、それを前後半各15分で外野、内野の順に行う。少しでも時間を効率良く使ってスムーズに動くべく、ノックを終えたメンバーはベースを3つ準備して待機した。




「良しバック!」

 外野手のラストのノックはテンポ良く進み、全員無事に終わった。


「気を付け、礼! ありがとうございました!!」

「ありがとうございました!!」


 外野手が全員永田の音頭でグラウンドに一礼した後、内野手が素早く定位置に就く。うち3人はノックを早々に受け終えた外野手が予め用意していたベースをそれぞれ受け取って、ベースを埋められる金属製の四角い穴の蓋を外して、そこに各ベース裏の四角い突起が嵌る様に埋め込む。






「内野陣、外野陣さも言ったけんど低く強く送球しろ。いつも通りのルーティンだけんどそこは意識しろ。良いな!?」

「はい!」


 内野ノックは、内野4箇所と、投手・捕手の合計6箇所、13人がノックを受ける。先程ライトで外野ノックを受けた永田と片山はピッチャーで、ピッチャーとサードを掛け持ちしている黒谷は両方でそれぞれノックを受ける。


 こうして、今日の1時間練習の大詰めでもある内野ノックが始まった。




「まずサードから。ボールファーストや!」

「皆ボールファースト―!」

「丁寧に行くよ―!」

「お願いします!」


キィン!


 内野ノックの最初はサードから。まず()()の都筑から受ける。


「テンポ良く行くよ―!」


 都筑がファーストの三池にスローイングした瞬間にすかさず次の黒谷へノックの打球が飛ぶ。

 この様にテンポ良くスローイングの瞬間に次の選手へのノック、を繰り返してまず内野手が全員一巡。




「次、ピッチャー!」

 ピッチャーは全員、投げるモーションを取ってからノックを受ける。まずは片山から。

「お願いします!」


カッ!


 実に緩いピッチャーゴロを丁寧に捌いて、ゆっくりと1塁へ。


「ピッチャーゴロでボールファーストだがら、捕った後落ち着いて投げろ! 特に次」

―特にとか言わないでくださいよ…。

「…はい、お願いします!」


 次は永田。同じく投げるモーションを取ってから…、


カッ!


飛んで来たピッチャーゴロを正面で捌いて、丁寧に1塁へ。


「良しそれだ! 次!」

 続く高峰、黒谷も、それぞれ投げるモーションを取ってから、ピッチャーゴロを捕って、丁寧にゆっくりと1塁へ投げる。




「次はキャッチャー」

「お願いします」

 まずは関川から。付けている防具はフル着用している状態からスタートする。


コツッ!


 フルスイングした上で本当に弱く当てた打球が、ホームプレートの前へ飛ぶ。関川はキャッチャーズマスクを取った後、右バッター役も兼ねていたノッカーの徳山監督を先に1塁方向へ行かせてから、前へ飛んだ弱い打球を両手で挟んで捕って、鋭く1塁へ投げる。


「次」

「お願いします」

 続いて相澤。


コツッ!


 同じ様に振って弱く当てた打球を、ホームプレート前で両手で挟んで捕って1塁へ。関川は先程強烈なバックホームを見せた片山と同じ位の強肩だが、相澤も…。


ドン!


…片山や関川程とまではいかないが、それでも中々の強肩である。


 これ、キャッチャーゴロなら素手とかバントでボールを緩く前へ転がす、という方法も良いのではと思うかもしれないが、実際の試合では振った上でのキャッチャーゴロもある、というので敢えてそうしている。




 この様に、内野ノックはサード→ショート→セカンド→ファースト→ピッチャー→キャッチャーの順で熟す。バントの時は、


「次、ランナー1塁の送りバント!」

「次バント―!」

「ファーストとサードはピッチャーが投げるモーション取ったら前方にチャージして!」


と、バントの構えを取った上でノックを行う。こうして途中バントやゲッツーも挟みつつ、ボールセカンド、ボールサードまでを順調に熟した。






 そして、内野ノックも愈々大詰めである。


「良し、次で内野全員ラスト、内野バックホーム!」

「はい!」

 外野ノックに続き、内野ノックでも徳山監督がノックバットで内野手全員を指しながら指示する。


「内野バックホーム!」

「皆1個1個大事に―!」

「ラスト確り締まっていくよ―!」




キィン!




 先程の順番で、徳山監督が振るノックバットから放たれた打球を、内野陣は次々に確実に捕ってはバックホームする。キャッチャーの関川と相澤は1球ずつ交互に、バックホームされた球を捕ったらホームベースすぐ手前でランナーにタッチするモーションを取る。


「すぐグラウンド整備できる様にしといて!」


 この後速やかにこのグラウンドを引き上げるので、一番最初にノックを終えて指示を送った都筑含む何人かはグラウンド整備用のトンボやブラシを取りに行った。






 内野手正職7人がノックを受け終えて、次は投手(ピッチャー)

「ホームへはグラブトスね!」

 ノックの直前に関川が投手全員に指示を送る。ヒッティングの時よりも特にホーム前でのフィールディングが試されるバントの構えから…、


コッ。


スクイズを想定して、徳山監督が緩く前へ転がす。


「ホーム!」

「タッチ!」


 1番最初にノックを受ける片山は前へダッシュした後すぐにグローブに打球を入れるなりすぐにホーム前で待ち構えている関川にトス、関川はトスを捕ってすぐにタッチのモーションを取る。


「バック!」

「ありがとうございました!」


 片山がそのままフェアグラウンドから引き揚げる。次は永田。

「お願いします!」


コッ。


 緩い打球を捕るべくまずダッシュ、そのあと片手で行けば良いのだが永田はボールを零すまいと敢えて両手で捕って、そのまま今度はホーム前で待ち構えている相澤にトス、相澤は関川と同じく捕ってからタッチのモーションを取る。


―グラブトスだからグローブに入れてトスすれば良いんだけど、両手で捕って両手でトスしたか…。ま、確実に捕り易い上にトスもちゃんと捕れるコースに来たから良いか…。




と相澤は思った。先の片山の言葉を借りれば滅茶苦茶な動きで、決して綺麗なフォームとは言い難いが、きちんとボールはストライクゾーンに来ていたのだ。


「バック!」

「ありがとうございました!」


 片山に続き永田も引き揚げる。次は高峰、他の3人と違って投手陣で唯一の左投手(サウスポー)だが…、


コッ。


聞き手がどちらだろうが関係無いと言わんばかりに、軽快なフィールディングからグラブトス。


「タッチ!」


 関川がこれを捕ってタッチのモーションを取る。


「バック!」

「ありがとうございました!」


 片山、永田に続き高峰も引き揚げる。続いて黒谷。


コッ。


 内野手を兼任しているだけにフィールディングも良い黒谷、素早い動きで相澤にトス。


「タッチ!」


 相澤も捕ってから素早くタッチ。


「バック!」

「ありがとうございました!」






 投手陣全員が引き上げて、愈々この1時間限定の練習の大詰め、キャッチャーフライである。


「次、キャッチャーフライ」

「お願いします」

 まずは関川から。




キィン!




 敢えてボールの下を強く擦る様にノックバットを振って当たった打球が、強力なスピンを描きながら高々と真上へ打ち上がる。関川はキャッチャーズマスクを投げ捨て、確りと目で追いながら体勢を真後ろへ向けて…、


バシッ。


自分の目線と同じ高さでキャッチ。


「バック!」

「ありがとうございました!」


 捕った位置である左打席の1m後方から挨拶をした後、キャッチャーズマスクを拾って引き揚げる。次は相澤。


「お願いします」




キィン!




 こちらも関川と同じく、強力なスピンを描いた打球が高々と上がって、相澤はキャッチャーズマスクを投げ捨てて打球を追う。先程よりも後方への飛距離が伸びたのか関川がとった位置よりも後方へ追って…、


バシッ。


キャッチャーミットの捕球面を真上に向けてキャッチ。


「バック!」

「ありがとうございました!」


 相澤も挨拶をした後、キャッチャーズマスクを拾って引き揚げる。これで全員のノック及び1時間限定の全体練習が終わった。




「全員揃ってるな…。気を付け、礼! ありがとうございました!!」

「ありがとうございました!!」


 何時もの様に、全員が整列していることを確認したうえで、永田の音頭で一斉に脱帽の上挨拶する。


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