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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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132/136

狭小グラウンド

「…何だこれ…」

 そのグラウンドを見て驚愕の後、唖然とした。グラウンドが全体的に狭いのである。いや、狭いというアバウトな表現では済まされない。外野が無いのである。


「…これ、大丈夫なんか…?」

「外野が無いって…、外野手(オレら)どうしたら良いのよ…」

「グラウンド云々言われてたけど、これ程の狭小グラウンドとは思わなかった…」




 いつものグラウンドの広さに慣れている彼らからすれば、信じられないという思いだろう。何しろこのグラウンド、1辺の端から端までで約30m程、現実の野球のグラウンドに置き換えれば、外野に芝生があれば内野の土とその芝生の境目位までしか無い様な正方形のグラウンドである。




 その道路側の端には、下部にコンクリート、その上に当時使われていた学校の校舎と同じ高さの金網が組まれて、防球ネットとして設置されている。敷地外の安全は確保されてはいるが、それ以前に、ここが廃校だという事実を踏まえると、こんなに狭いグラウンドを校庭として使っていたのか…、このグラウンドでどうやって練習するんだ…、という考えしか彼らには浮かばなかった。






「兎に角やるぞ。練習メニューっていつも通りで良いのか?」

「ああ、それならさっき監督と浩介と話し合ってん。キャッチボール込みのウォーミングアップ15分、バッティング15分、外野ノック15分、グラウンドのダイヤモンドにベース全部入れてから内野ノック15分で行くで」

「あと皆グラウンドの大きさに驚いとったけど、ここな、今は統廃合で廃校なってもうてる小学校やけど、当時ここにあった軟式の少年野球チームが、大阪府大会で1度だけ準優勝してんねん」

「「「え―――――!?」」」






 関川の衝撃発言に、このグラウンドについて何も知らなかった皆はまたも驚かされた。このグラウンドに来てから何かと驚かされることばかりである。






「大分昔の話やけどな。けどグラウンドは創立からずっと変わってへんで」

「つまり、こういうグラウンドでも好成績を挙げられるちうこっちゃ。そうと決まったら、オレらも負けてられへんで」


 関川と片山の発言に、何か発破を掛けられた様な気がした。そして永田の音頭で…、


「良し行くぞ!!」

「おー!!」

「1時間限定やからな、皆てきぱき行くで!!」

「おー!!」

メンバー全員気合を入れて、関川のプッシュでスピーディーにグラウンドへと駆けた。






 それから彼らは、軟式の少年野球用に造られた1辺23mのダイヤモンドを左回りに何十週も走って、体操・ストレッチの後、ダッシュ等のランメニューをウォーミングアップで熟して、キャッチボールで体を完全に慣らしておいた。元々グラウンドが狭く、更に軟式の少年野球用ということで内野だけ見ても、ダイヤモンドの1辺だけを見てもいつもより狭いが、20~30mの距離であればウォームアップで行ったランメニューもキャッチボールもいつものグラウンドで行っている距離とほぼ変わらない。






 こうしてまず最初の15分が経過した。

「良し、バック! 次バッティング!!」

「はい!!」


 スピーディーにキャッチボールから上がると、次はバッティング練習の準備をした。


「2箇所さ分げで、フリーバッティング形式でやるがら! 準備できだらどんどんやれ!」

「はーい、やりまーす!」


と、高峰は意気揚々にバット…、いや、グローブとボールケースを持ってグラウンドへと走った。




「はーい、やりまーすって…、打撃投手(バッティングピッチャー)のほうか」

「でもバッピいないとバッティングできませんから…」


 徳山監督の横で、既にバットケースからバットを1本抜き取ってしれっとヘルメットを被っている萩原が話しかける。


「ねー、どの辺?」

「プレートと同じ位置でええやろ」

―って言ってる開次、最初から埋まっているプレートにもう足乗せてるけど…、良いのか?




「監督ー、どの辺からですかー?」

「プレートと同じ位置がら投げろ」

「はい」

―って、本当に良いのか。にしては妙にバッターとの距離が近い様な…。




 片山と高峰は、徳山監督に言われた通りグラウンドに既に埋め込まれてあるピッチャーズプレートと同じ位置から投げることにした。だが、自分で徳山監督に聞いたとはいえ高峰はバッターとの距離に妙な違和感を覚えていた。






 やはり1時間限定、バッティング練習は15分だけということもあって、準備は早い。あっという間に、バッティング練習が始まった。




―そりゃ軟式の少年野球用のグラウンドそのまま借りて使わせて戴いでるがらな…、プレートとホームベースの距離もそのまま変わらねえ、16mだ。ただ、やるごどは変わらねぇぞ。いつものように、投げるほうは捕手(キャッチャー)の構えたとこさコントロール良く、打つほうはセンターがら逆方向さ低ぐ強い打球を打つ。グラウンドの大きさも使わせて貰える時間も制約されでいるが、いつも通りにできる部分はいつも通りやる。




 厳密に言うと、片山の足元にはピッチャーズプレートが埋め込まれているが、高峰の足元には、ダイヤモンドの中に置くべきプレートが1箇所、1枚だけという事情もあって埋め込まれていない。そこで高峰は、プレートを横に伸ばした延長線上に足を置いて投げている。


 いつもより2.44m距離が近いこともあって最初は違和感を覚えていたが、徳山監督の内心通りいつも通りの投球(ピッチング)を続けていたら、その距離感にも慣れて来た。












のだが…。


「どりゃあ!」

キィ―ン!!


カキ―ン!!


…約2名、低く強いどころか、防球ネットを越えそうな打球を本気で打っている。




「ねー、和義も英気もネット越すつもりなのー?」

「それ現実の試合でやったらフライアウトが乙だぞー」

「えー? ちゃんとネットに向かって()()()()に打ってるけどー?」

―いやまあ確かに2人ともそりゃそうなんですけどね…。


 三池と峰村が、他の選手や徳山監督にあれこれ言われながら防球ネットを越えそうな打球を真っ直ぐ打っている。確かに彼らの主張や永田が思っている通り打球自体は防球ネットに()()()()飛んでいるのだが…。






―今の角度の打球を試合で打ったら皆さんが仰る通りフライアウトやで。現実の外野フェンスはもっと遠~~~くにあるから、どうせライナーでフェンス越すつもりやったらこのフェンスは越せへんともそっちを越さな。


「ちょっと」

 関川がキャッチャーズマスクを上に上げてから、打撃投手(バッティングピッチャー)を務めている片山にタイムのジェスチャーを取って、一旦待って貰う様要求する。




「今位の打球を、もうちょっと低く飛ばそか。打球は十分強いから、如何に低く飛ばすかに重点置きや。英気もな、如何に低く飛ばすかに重点置きやー」

―パワーはチームで1、2を争う位あんねんけどな2人とも…。技術(テク)やな…。




 1つ、三池と峰村にアドバイスを送ってから、関川は再びキャッチャーズマスクを被る。


―次どうする?

―ど真ん中の100km/hでええやろ…。これを低く強く打てへんかったら問題いうボール。投手(ピッチャー)からしたら高い()()しか打たんヤツは逆にやり易いで…。

―それで行くか。


 三池と峰村へのアドバイスがガッツリ聴こえた片山に呆れられながらサインを送られ、それを関川は受け入れる。




キィ―ン!!




 本当にど真ん中の100km/hを真っ直ぐ投げた片山だが、それを三池は強く低く打ち返した。打球は三塁線すぐ脇のフェア地域を鋭く抜けた後、防球ネット下のコンクリートに勢い良く当たって大きく跳ね返って来た。




「そうそうそれ。欲を言えば、それをセンターから逆方向に」

―注文多くてなんやけど、打撃(バッティング)の基本やからな。基礎はホンマに徹底せなアカンねん。


 マスク越しに申し訳無さそうに更にもう1つ注文を送った関川だが、そこは神経が太い三池。次に片山が投げた同じ100km/hの真っ直ぐど真ん中を、本当に防球ネットの右側にライナーで直接ぶつけた。






 一通りの選手がバッティング練習を終えて、あとは4人、高峰と相澤、そして片山と関川のみとなった。


「じゃあまず、京太と開次からか」

ということで、先程まで打撃投手(バッティングピッチャー)を務めていた高峰と片山がそれぞれバッティング練習の準備をする。

 打撃投手(バッティングピッチャー)には、黒谷と永田がそれぞれ入る。




 投手(ピッチャー)であってもバットを持つ以上は同じだ、センターから逆方向へ低く強い打球を打て―ということで、高峰も片山もそれぞれ低く強い打球を打つ。黒谷と永田の投げる球をそれぞれマスク越しに取り続けている相澤と関川。


―秀一は真っ直ぐ中心だから比較的配球がやり易い。

―永田は相変わらずボールは遅いけど前よか落ち着いてストライク入っとるな。


 しかし2人がそう評する球を、高峰と片山は意にも介さず打ち返していく。2人のバッティング練習が終わって、次は捕手(キャッチャー)陣。




「誰か捕手(キャッチャー)やってくれるー?」

「はーい、オレ行きまーす。祐希、道具全部貸してー」

と言って、都筑が相澤の下へ走る。


「え、でも良いの…?」

「良いの良いの。こういうのやりたかったんだよ」

―それなら良いけど。


 キョトン顔の相澤を横目に、彼から借りた道具を意気揚々と順々に着けていく都筑。全てを付け終えて一旦しゃがんだが…。


―あ、そうだ、サインサイン。


黒谷とのサインの打ち合わせをしようと、再び立ち上がる。


「どこ行くの?」

「いや、ちょっと秀一と…」

「サイン? 別に良いと思うけど。アイツ基本ストレート中心で、変化球それ程投げないから」

「あ、そう」




 相澤の情報を聴いて、都筑は再びしゃがむ。同時に、相澤が打席に立つ。時を同じくして、もう一方では片山がマスクを被っていた。




『そんな悪ない。落ち着いてストライクは入れられとるから。それに永田の球速やったら見様見真似でしかマスク被ったこと無い開次でも捕れるで』

―浩介はああ言うてたけど、言うてオレも永田の投球練習に捕手(キャッチャー)役で付き合うたことあんねんけどな…。




 こうして、捕手(キャッチャー)陣のバッティング練習が始まった。

―ストレートだけ来ると思って構えてれば良いのかな?

 そのつもりで、都筑はしゃがんだ姿勢から左手に嵌めたキャッチャーミットを思い切り伸ばす。1球目、黒谷が投げた球は…。




「え!?」

「え!?」


相澤も都筑も驚愕した。低く真っ直ぐ来た…、と思いきや、斜め下に鋭く曲がったではないか。


「うわっち」


 慌ててキャッチャーミットを下に構えて、ボールの曲がった方向へ両膝を着いて体ごと取ろうとしたが間に合わず、ボールは防球兼集球用ネットに当たって止まった。




―…スライダー…?


 思わずスイングしかかったバットを止めて、見送った相澤。彼の推測通り黒谷が投げた球は確かにスライダーなのだが…。


「あの、秀一、捕手(キャッチャー)経験は素人の相手に、いきなりワンバウンドする様なスライダーは難易度高過ぎやしないか?」

「誰がストレート()()投げないって?」

「…え…!?」

「健にリークしたのおめぇだべ祐希。オレがストレートしか投げない投手(ピッチャー)とは心外だな」

「「すみませんでしたー」」




 どうやら相澤が都筑に送った情報が黒谷にも聞こえ、彼の逆鱗に触れた模様。相澤と都筑は2人立って並んで黒谷に謝罪してから、元の位置に戻った。




―球種ぐらい全部教えとけや。確かにストレート中心だけどオレだってストレート狙いのバッターを躱す程度のスライダーとかカーブは持ってますよ。




 一連の直後は内心モヤモヤがあった黒谷だが、その後徐々に落ち着いた。淡々と打撃投手(バッティングピッチャー)を熟し続け、途中ボール球を何球か投げたが、都筑はそれを全部捕った。




 その傍ら、片山も時を同じくして永田の球をマスク越しに捕っていたが…。


―うーん、でも確かに浩介の言う通りやな。緊張でガチガチやったやり初めに比べたら大分落ち着いてストライク入れられとる。それに球速もちょっとだけ速くなったんちゃうかな…。けど、


キィ―ン!!


カキ―ン!!


―バッティング練習とは言え、相手が浩介とは言え、これ程自由に打ち込まれる言うことは…、1試合、東根チェリーズ戦を先発完投しただけでは、経験値はそこで若干上がってもまだまだやっちぅことやな…。




 永田のボール自体は関川が片山に送った情報通りだった。しかし今片山が思ったことは、自分にも当てはまるのではないかとも思い始めていた。これから戦う相手は、山形県大会で戦ったどの強敵よりも強い猛者たちかもしれない。それなら自分ももっと練習を熟して、その猛者たちを皆々倒せるだけの実力は投打とも付けなければならない、と。




 片山が練習への向き合い方を見直したところで、15分間のバッティング練習及び全体練習のうちの30分が経過した。


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