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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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124/136

組み合わせ抽選会

『1、開会宣言』

『これより、全国草野球選手権大会の組み合わせ抽選会を開催いたします』





『2、大会会長挨拶、ならびに大会上の諸注意』


大会会長が壇上に上がり、一度その場で礼をする。その後中央に向かって進み、正面を向いてまた一礼する。




『まずは全国47都道府県から、合計188チームの、各都道府県大会を勝ち上がって全国大会出場を決めたチームの皆様、おめでとうございます。この場を借りて改めて大会会長よりお祝い申し上げます。各都道府県大会ではそれぞれ厳しい戦いもあったと思いますが、これまでに見せて来たそれぞれのチームの持ち味を活かして、全国大会に挑んで頂きたいと思います。また、既にご存じの方も大勢いらっしゃると思いますが、本大会は、例年1年に2回開催して来た大会を、1回に集約した最初の大会でもあります。それを記念して、本大会は各都道府県から4代表、合計188チームという、全国大会としては例を見ない大規模な大会となりましたが、まさにそれに相応しい大会になります様、受付にて配布いたしましたプログラムに掲載されております大会上の諸注意の頁を良くご覧になられた上で、お互い正々堂々と試合に挑んで頂きたいと思います。以上で挨拶の言葉、ならびに大会上の諸注意とさせて頂きます』




挨拶が終わり、大会会長は再びその場で礼をする。そして、そのままゆっくりと壇上を降りる。





『3、組み合わせ抽選。それでは壇上で準備ができ次第開始といたします』




 と、ここでステージ上で人が慌ただしく動く。まず、先程まで大会会長が挨拶で使われていたステージ中央(センター)にあるマイク付きの講壇が、数人の係員によって引き揚げられる。同じ位置には、スタンドマイク1本が置かれる。


 奥にはAの文字とトーナメント表が書かれたホワイトボードが設置された。どうやらAブロックのチームから抽選籤を引いていくらしい。


 そして、スタンドマイクの近くに抽選箱を置く。同時に、ステージの左端には、縦に6列、横に8列で、ステージ側の1番左端を除いて合計47脚のパイプ椅子が並べられた。





『それでは準備が整ったようです。Aブロックのチームの主将は壇上のパイプ椅子に、予備抽選の番号順にこちらの左側の一番前の列からお掛けください』


 やはりAブロックのチームからの抽選だった。Aブロックのチームの主将47人は予備抽選の籤を持って一斉にステージに上がると、続々と係員の案内で席に座る。全48チームで籤を引いた山形県大会の時より1脚少ないとは言え、席の並びが若干異なっている様だ。


 続々とAブロックのチームの主将47人が予備抽選の籤の番号に従って着席する中、


―えーと…、スタンドマイク側から見て横並びの椅子が8脚、端までで6列…、更に客席(こっち)側が1脚無いから…、左側の一番前の列からって言ってたけどその後どっちに行くんだ…? 縦? 横?


1人、席順の続きを時折指で辿りつつ自分がどの椅子に座るか客席から確かめていた永田であった。





『只今より組み合わせ抽選を行います。各チームの主将には事前に予備抽選を引いて戴いております。予備抽選の1番を引いたチームの主将から順次抽選籤を引いてください。ではまず奈良県代表・天理(てんり)Purplesの主将はこちらで籤を引いてください』


 左側の一番前の椅子に座っていた天理Purplesの立花主将(たちばなキャプテン)が立ち上がって、抽選箱へ向かう。如何にも()()()仕草で、実に滑らかな動きで籤を引く。


―ありゃ手慣れてるなぁ…。これがあと186チームで、ビビり1チームだよ…。



『天理Purples、5番です』

『天理Purples、大会第1日目第2試合三塁側』






大阪府O市K区  N`Cars宿舎のホテル






「おー」

「いきなり引き当てた…」


 部屋にあるテレビで、片山と関川が組み合わせ抽選会の生中継を見ていた。


『全チームにとっても、Aブロックのチームにとっても、1番最初に籤を引くこととなった予備抽選1番の奈良県代表・天理Purples。1番にしていきなり開幕日の試合を引き当てました』






再び抽選会場






『続いて予備抽選2番、高知県代表・土佐(とさ)ボニーツの主将はこちらで籤を引いてください』


 次にその右隣に座っていた土佐ボニーツの主将(キャプテン)が立ち上がる。ということは、8番までがスタンドマイク側から見て横1列、則ち客席から見て縦1列に並んで座っているということだった。


 そしてもう1つ。立花が籤を引いている時に永田が思った通り、こちらも手慣れた動きで籤を引く。


 その後も順調に、強豪チームが続々と手慣れた動きで籤を引く。






再び大阪府O市K区  N`Cars宿舎のホテル






『続いて予備抽選6番、大阪府代表・泉州(せんしゅう)ナイツの主将はこちらで籤を引いてください』


「おー」

「地元の1番手や…」


 片山と関川の地元でもある大阪府代表の1番手は全国大会初出場を決めた泉州ナイツ。和泉主将(いずみキャプテン)が籤を引く。



『泉州ナイツ、19番です』

『泉州ナイツ、大会第2日目第4試合一塁側』



『初出場・泉州ナイツは大会第2日目第4試合一塁側に入りました。まだ対戦相手は決まっていません』


「どこ入るかやな」

「どこもあり得るで? あと41チームあるから」




 だが、その1/41が中々決まらない。先に引いた5チーム含めてこれで16チーム連続で引いたが決まらない、或いは変則櫓、つまり2回戦からの登場で、1回戦の対戦結果次第で対戦相手が決まるチームは、その1回戦がどこ対どこの試合かが十分に決まり切っていない、という状態である。






再び抽選会場






 静かな雰囲気で16チーム連続でまず試合日程が決まる中、1人客席で重力に引っ張られまくっている人がいた。永田である。


―…はー…。


 背中が前に斜め45度に傾き、やっとの思いで首を上げ、組み合わせ抽選が継続しているステージを見る。


―重てぇ~…。


と、




「「「お―――っ」」」




―何?


静寂ムードの真っ只中に、大歓声が。目線を上げて良く見ると、17チーム目にして、初めて組み合わせカードが決まっていた。






再び大阪府O市K区  N`Cars宿舎のホテル






『全国草野球選手権大会、Aブロック及び全体を通して初めての初戦組み合わせカードが決まりました。大会第3日目の第4試合、静岡県代表・浜松(はままつ)ビーチパインズと秋田県代表・由利本荘(ゆりほんじょう)マノーズの対戦です』


「これからどんどん決まるんかな」

「今で17やからあと30…、徐々にやな多分」




 事の経緯を説明すると、まず予備抽選12番の由利本荘マノーズの本荘主将(ほんじょうキャプテン)が32番籤を引き、大会第3日目第4試合の三塁側に入る。少し進んで予備抽選17番、今31番籤を引いた浜北主将(はまきたキャプテン)が率いる浜松ビーチパインズがその隣の大会第3日目第4試合の一塁側に入って、今大会最初の組み合わせが決定した。




 片山と関川の組み合わせカードが決まる予想はどんどん決まるか徐々に決まるかで二分していたが、




『『『お―――っ』』』




 何とすぐに次のカードが決まった。




『大会第3日目の第1試合は広島県代表・尾道(おのみち)スローパーズと今23番籤を引きました新潟県代表・新発田(しばた)ニューフィールズに決まりました。尚2回戦、大会第20日目の第1試合三塁側に入りました長野県代表・松本トラディショナルズはこのカードの勝者との対戦も同時に決まりました』




『続いて予備抽選19番、福井県代表・坂井(さかい)スローパーズの主将はこちらで籤を引いてください』


「これ連続で決まっとるけど…」

「でも次も続けて決まるとも限らんやろ。決まるどころかまだ入っても無い櫓もあるで?」


 またも片山と関川の予想が食い違う中、テレビ越しに坂井スローパーズの竹田主将(たけだキャプテン)が籤を引いた結果は…。



『坂井スローパーズ、20番です』

『坂井スローパーズ、大会第2日目第4試合三塁側』




『『『お―――っ』』』


『大会第2日目第4試合は大阪府代表・初出場の泉州ナイツと福井県代表・坂井スローパーズに決まりました』




「…え…、また…?」

「また決まったで…」


 何とまたも組み合わせが決まる。これで3チーム連続で組み合わせが決まるカードを引き当てた。4チーム連続は来るのかと、さすがに4チーム連続は…、という両方の雰囲気が会場内外ともにお互い押し合う中…、




『『『お―――っ』』』

「「「ええええええ」」」

「「えぇ…」」




…、4チーム連続で、組み合わせが決まるカードを引き当てた。大会第4日目の第3試合、宮崎県代表・日南(にちなん)コースツと、岐阜県代表・大垣(おおがき)ビッグフェンサーズの試合である。その籤を引き当てた日南コースツの主将(キャプテン)が思わず籤を持ったまま席に戻りかけたが、係員の催促で籤は返してから席に戻った。




『続いて予備抽選21番、茨城県代表・常総(じょうそう)ウィニングスの主将はこちらで籤を引いてください』


 これだけ連続で決まると次も決まるのか、決まるのかという雰囲気になって来た。だが、



―あの、そういうの止めない? 常総ウィニングスさんに失礼だよ。誰がどの籤引こうが関係無いのに、同調圧力じゃん。嫌だよこれ。



1人、この雰囲気を嫌う人がいた。



常総ウィニングスさんの心情、大丈夫かな…、眼鏡越しに1人その眼差しで見ていた永田。そんな中、常総ウィニングスの水海道主将(みつかいどうキャプテン)が引いた籤は…。



『常総ウィニングス、28番です』

『常総ウィニングス、大会第3日目第3試合一塁側』




「「「あ―――っ」」」


―いやあーって…、あの人悪くないでしょうが。


 ここで、連続組み合わせカード決定は途切れた。常総ウィニングスの隣、三塁側に入る29番籤と、その隣、勝ち上がれば対戦することになる30番籤は、まだどのチームも入っていない。



 会場内の雰囲気は一気に冷めた。いや、それ以前の問題があるのでは無いか、という気持ちで永田は見ていた。




―全国大会って、()()()()()()平気でするんだね…。こうあるべきという同調圧力、集団行動という名の少数意見潰し、ちょっとでもそれがズレようもんなれば全国民があらゆる手段で槍玉に挙げて…。人間性疑うよ?




 何時ぞや「KY」なる略語が流行語になる程流行った時期があるが、あれもそうだったのでは無いか。場の空気を読むことは大切だが、だからといって無理に他の人の意見を自分たちと同じ様に合わせようとしたり、ちょっとズレただけで集団で批判したり…、そういうのと何ら変わらないのでは無いか。


 そう考えると、先程常総ウィニングスの籤が決まった時の集団の溜息も、ある意味批判ともとれるだろう。




―そう考えると常総ウィニングスさんありがとうございますだわ…。もしあのまま決まる籤を引いていたら、同調圧力は一層強くなっていたでしょうに。




 燃えてはいけない雰囲気に氷を入れた冷水を浴びせた役割としても、お互い名前を知らない状況ではあるが永田は遠くから水海道に感謝していた。それともう1つ。




―オレの入った草野球チームがN`Cars(うち)で良かったよ。他だったら…、それこそこういうことを平気でする様なチームだったら、嫌なこと無理矢理やらされていたでしょうに。




 初めてN`Carsを見た時から、何と無くだがそういう雰囲気はあった。相手が嫌なことはしない、と。もししていたら、入っていない、入ったとしてもすぐにやめていたかもしれない。




何なら、まず山形県を選んでいないんじゃないか…?






再び大阪府O市K区  N`Cars宿舎のホテル






「大分進んだな」

「しかしまた静かになったな…。さっきのほとぼり一瞬で冷めたな」


 片山と関川の言う通り、徐々に静かな雰囲気に戻った会場内で、次から次と籤を引いては初戦組み合わせカードが決まっていく全国の強豪たち。




『続いて予備抽選31番、宮城県代表・石巻(いしのまき)スピンストーンズの主将はこちらで籤を引いてください』


―でももうあと石巻スピンストーンズさんを入れて17チームか…。Bブロック…、永田何番籤引いたんやろな?



 Aブロックの組み合わせ抽選も残り約1/3と来て、関川は永田が予備抽選で何番を引いたか気にしていた。そんな中、



『石巻スピンストーンズ、21番です』

『石巻スピンストーンズ、大会第19日目第4試合三塁側』


「えっ」

「待てよ、そこって…!?」


 関川が我に返ったのに続き、片山もトーナメント表を確かめるべくテレビに目を遣った。



 石巻スピンストーンズが引いた籤は、大会第2日目第4試合の勝者、つまり泉州ナイツと坂井スローパーズの何れかを2回戦で迎え撃つ籤だった。




「…じゃあ、泉州ナイツさんは勝てば次は石巻スピンストーンズさんとか…」

「何れにしても、勝てば全国大会初勝利の3チームが揃ってしもたか…」






再び抽選会場






 先程の、永田からすればある種醜態ともとれる全国代表の行動に、永田は呆れ返るあまりステージ上での組み合わせの様子に関心を失っていた。




 予備抽選でも続き番号だった岩手県代表・花巻(はなまき)スウィラルズと鳥取県代表・倉吉(くらよし)ウェアハウスが組み合わせ抽選でもこれまた隣同士の大会第17日目第1試合と、2回戦のトップを切るカードを引き当てても関心が無い。




 福島県代表の白河(しらかわ)ホワイトニングが7番籤、つまり大会第1日目第3試合の一塁側を引いた。今後の組み合わせ次第では白河ホワイトニングが東北勢トップで登場することもあり得るが、それにも関心が無い。






『…弘前(ひろさき)アップルズ、36番です』

『弘前アップルズ、大会第21日目第1試合三塁側』




 気付けばもうあとちょっとだった。もうちょっとか…、という気持ちで永田はステージ左側を見遣る。と、


―えっ!?


ある人物が目に留まる。荒瀬だった。


―荒瀬さんまだ引いてないんか…。あそこは予備抽選46番だから…、殆ど決まった後じゃん…。




『続いて予備抽選46番、酒田ブルティモアズの主将はこちらで籤を引いてください』


 Aブロックの東北勢はこの酒田ブルティモアズが最後。残すは岡山県代表・倉敷(くらしき)リバーサイズで、この2チームでAブロックの抽選が完了する。



 両者に残された籤は2つ、37番と39番。前者は大会第4日目第2試合で大分県代表・別府(べっぷ)スパズと対戦する籤。後者は、大会第21日目第2試合でその両者の何れかが勝ち上がるのを待つ籤である。




 荒瀬はどちらを引き当てるのか…。視線がステージ真ん中に集まる中、荒瀬は抽選箱の中に右手を入れて、ゆっくりと引き上げる。



『酒田ブルティモアズ、37番です』

『酒田ブルティモアズ、大会第4日目第2試合一塁側』



 荒瀬は前者を引いた。これにより、倉敷リバーサイズは籤を引く前に大会第21日目第2試合三塁側、つまり今決まった酒田ブルティモアズと別府スパズの勝者との対戦が確定したが、最後、きっちりと籤を引いて無事、Aブロック47チームの抽選が完了した。


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