受付
『それでは、只今より全国草野球選手権大会 組み合わせ抽選会の受付を始めます。各チームの監督と主将は、ブロック籤をお持ちの上、受付前に集合してください』
既に並んでいる永田と同伴した徳山監督の後ろに、続々と各チームの監督と主将が整列する。永田は抽選会が午前10時開始と思っていたが、実際には受付が午前10時開始で、組み合わせ抽選会自体は午前10時半からだった。
会場のホール前に、扉を挟んで壁に沿う様に荷物と人1人分が入れるスペースを空けた上で台が並べられ、1つ目の扉の両端にはAとB、2つ目の扉の両端にはCとDのブロック毎に受付ができる様に設けられ、各受付ブロックの手前には、A~Dと書かれた看板が立っている。
「N`Carsです」
「N`Cars様。では、ブロック籤をお願いします」
永田は受付担当の方に言われるままにBと書かれたブロック籤を渡すと、チームの人数分のプログラムを受け取った。そして、
「こちらの箱で予備抽選を行います。籤を引いてください」
―…えっ?
この案内と用意された予備抽選の箱を前にして、永田は一瞬立ち止まった。そりゃ組み合わせ抽選をする以上順番を決めなければならないから予備抽選をするのはわかる。でもその順番こそが本抽選へ直結しているのだとしたら…、そう考えるとまた緊張である。
恐る恐る右手を箱に伸ばす。緊張で体ごと重くなった右手を、ゆっくり箱の中へ入れる。箱の中身を見てはいけないのが籤引きの常識的なルールではあるが、永田は右手を箱の中に入れて以降、中身どころか箱自体を見ていなかった。
籤を掴むや、ゆっくり右手を引き上げる。で、これをどうするんだ…、と言わんばかりにゆっくり受付担当の方の前へ籤を掴んだままの右手を持って来たが、
「あ、ではその籤を持って中にお入りください」
「えっ…? ここで見せないんですか?」
「中で使いますので、手元に保管していてください」
ここでは見せずに中で使うということだった。結局永田は頂いた人数分のプログラムと予備抽選の籤を持って、徳山監督とともにホールへ入った。
広いホールに数多くの席。良く見ると、ステージ側から順にA、B、C、Dと書かれた看板が立っている。規則的に等間隔に立っていることから、どうやら席順もこれに従う様だ。
黄色い照明で照らされたホールの中を、取り敢えずBと書かれた看板に向かって進む2人。途中で係員の1人に会った。
「Bブロックのチームですか?」
「はい」
「でしたら予備抽選の籤を見せて頂けますでしょうか?」
―あ、ここで使うのね予備抽選の籤…。何ならオレも籤開けてないもんなぁ…。
係員に言われるがままに、永田は予備抽選の籤を開いて見せる。そこには、36と書かれてある。
「36番ですね。わかりました、では、座席はこちらです」
2人は係員に案内されて、Bブロックの36番に充たる席に座った。予備抽選の籤はまだ使うということで、永田は籤を手元に再び保管した。
その後、続々と入って来る全国の数多の強豪チームの監督と主将。その凄いオーラを持った皆様の前に、永田はまたも引け目を感じていた。緊張でまたも体が重くなる中、重い腕でプログラム1部を手に取って、登録メンバー名の頁を開いて、N`Carsの頁に辿り着いた。
―はー…。こうしてみると何か申し訳無いな…。こんな凄い大会にしょぼい主将が掲載されているって…。
体は緊張で重くなるのに、時は相変わらず一定のペースで進み続ける。組み合わせ抽選会開始時刻の少し前に開始を予告するブザーがホール中に鳴って、それと同時に話し声が段々収まって、照明も徐々に暗くなっていき、やがて真っ暗になった。
少し間を置いて、ステージの照明が白く灯って、ステージ全体を照らす。客席側から見てステージの左端には、マイク付きの講壇に司会進行をすると見られる人物が1人立っている。
午前10時30分。ホール内のアナログ時計の長針が6を指した瞬間、組み合わせ抽選会が始まった。




