新大阪着
名古屋駅を発車したのぞみ号は、依然として1両だけ変なオーラを纏ったまま、関西地方へ向けて走っていた。次の京都まで34分、N`Carsが降車して乗り換える予定の新大阪には50分後に到着予定である。
だが…、その1両以外の乗客は、それ以上に時間がかかっている様にも思えた。既に乗っていた乗客は勿論、名古屋駅から乗った乗客も早くも異常なプレッシャーを覚え、冷や汗をかいている乗客もいる。通路用の出入口に「避難」していた乗客もこれ以上同じ場所に人が多く来ると色々迷惑と判断して前後の車両の座席に「避難」したが、あまりの物凄いオーラに前の車両に座った人は後ろを向けず、後ろの車両に座った人は座席を回転させて後ろを見ない様にしていた。
名古屋駅を発車して約30分。しかしある種拷問の様に思えた彼らにとっては、それ以上の無限な時間が過ぎていた様だった。
『ご乗車頂きありがとうございます。間も無く京都、京都です。13番線に到着いたします、お出口は左側です。乗り換えのご案内をいたします』
以下は全て在来線
・高山線 特急「ひだ」 高山方面、北陸線 特急「サンダーバード」・「ビジネスサンダーバード」 福井・金沢方面→0番のりばへ
・琵琶湖線(東海道線) 大津・草津・米原方面→0、2または3番のりばへ
・湖西線 堅田・近江今津方面→2または3番のりばへ
・京都線(東海道線) 高槻・大阪・三ノ宮方面→4または5番のりばへ
新大阪・大阪方面→6または7番のりばへ
・きのくに線(紀勢本線) 特急「くろしお」 和歌山・白浜・新宮方面、智頭急行線経由山陰線特急「スーパーはくと」 鳥取・倉吉方面→6または7番のりばへ
・関西空港線 特急「はるか」 天王寺・関西空港方面→野洲・草津方面からは6または7番線へ
京都始発の車両は30番のりばへ
・奈良線 東福寺・宇治・奈良方面→8、9または10番のりばへ
・嵯峨野線 特急「きのさき」「はしだて」「まいづる」 福知山・城崎温泉・天橋立・東舞鶴方面→31番のりばへ
二条・嵯峨嵐山・亀岡・園部方面→32または33番のりばへ
近鉄京都線は駅内の2階中央改札口へ
京都線 近鉄奈良・橿原神宮前・吉野・伊勢志摩方面→1、2、3または4番線へ
地下鉄は南改札を通って地下ホームへ
烏丸線(下り) 竹田・奈良方面→1番線へ
(上り) 国際会館方面→2番線へ
―早ければアイツら次で降りるぞ…。そうすれば皆心の中で諸手を挙げて喜べる…。
疲れ切った者の中には、このような思考をする者もいた。それだけ一刻も早くこの状況から解放されたかった。
京都駅で降りる人は先程の名古屋駅と同様、自分たちだけ降りるか、或いは同じく降りられたとしても速やかに離れれば良い。対策はじっくり、ばっちり打ってある。
日本の古都に入っても尚凄まじいオーラを放ったまま、のぞみ号は京都駅の13番線ホームにスローダウン、停車した。そしてまたしても…。
「え、あの車両何か憑依してはるんかな…?」
「確かに。雰囲気おかしいで?」
「乗ったらあきまへんことになりますな。やり過ごしますか?」
「いや、乗る。けどできるだけ遠い席でな。そこやったら多分一番安全や」
この言われよう。しかも車両が完全停止する前からこのオーラを察したのか、京都駅で待機していた人は皆早くからその車両が停まる部分を避けて並び直した。
離れておけば安心や―京都駅から乗車予定の客にもそういう空気が伝わった。名古屋駅に続き這う這うの体で逃げ降りた乗客と入れ替えに、一斉に開いたホームドアを越えてのぞみ号に乗る乗客。乗ると降りると、行動が逆とは言えメンタルの差は歴然だった。
停車時間2分が経過。ホームドアと自動ドアが一斉に閉まって、のぞみ号は定刻通り発車した。
次は新大阪。朝から長く続いた新幹線の旅も、次で最後である。この後は在来線を乗り継いで、桜島駅近くのホテルに向かう。
「皆次やからな、準備しときや」
「おー」
いつもなら徳山監督や永田が指揮を執りそうなこの場面だが、副主将とは言え地元出身の関川が指揮を執る。
「開次、ここからはオレらで引っ張るで」
「監督はええの?」
「さっき訊いたら、引っ張れるんやったら引っ張りやー言うてはったわ」
「…あそ。言うてそんな遠ないけど、ホームも路線も複雑やからな、ちゃんとついて来れるか」
車内で徐々に乗り換えの準備を進めるN`Cars。だがその車両には、他に誰も乗っていない。というのも…。
「あっ、アイツら立ち上がった」
「ヤバいこっち来るぞ!」
「皆端っこいけ端―!!」
恐ろしいオーラを放ったまま準備を始めたので、抑々他の乗客は近寄れず、更に準備の為に動いたことでオーラも微妙に変化して、目を合わせずともより乗客に近付いたと思った乗客が大多数を占めてしまい、結果乗客の殆どが先頭車両と最後尾の車両に「避難」する事態となってしまったので、元々オーラの所為で近寄れずにガラガラの車両が、両端の2両を除いて殆ど誰も居ないという状態になってしまったのだ…。
「忘れ物が無ぇがだけ確かめろよ」
「はい!」
忘れ物が無いかの総仕上げは主将の永田が行うが、セルフチェックも大事。徳山監督の指示もあって既に準備を終えた者も忘れ物が無いかだけは念入りにチェックしていた。
『ご乗車頂きありがとうございます。間も無く新大阪、新大阪です。22番線に到着いたします、お出口は左側です。乗り換えのご案内をいたします』
・東海道・山陽新幹線 名古屋・東京方面→23、24、25または26番のりばへ
・東海道新幹線 名古屋・東京方面→27番のりばへ
以下は全て在来線
・おおさか東線 放出・久宝寺方面→1または2番のりばへ
大阪方面→2または3番のりばへ
・特急「はるか」 京都方面→1番のりばへ
関西空港方面→3番のりばへ
・特急「くろしお」 白浜・新宮方面→2番のりばへ
・特急「サンダーバード」 福井・金沢・富山方面→4番のりばへ
・京都線 高槻・京都方面→4、5または6番のりばへ
・宝塚線 宝塚方面→7番のりばへ
・神戸線 大阪・三ノ宮方面→7、8または9番のりばへ
・特急「スーパーはくと」 鳥取方面→9番のりばへ
・特急「こうのとり」 福知山・城崎方面→10番のりばへ
Osaka Metroは改札を通ってホームへ
・御堂筋線 梅田・なんば・なかもず方面→1番線へ
江坂・千里中央方面→2番線へ
「この後どうすんの?」
「神戸線で大阪まで乗ってそっからまた乗り換え。新大阪広いから皆離れん様にな」
都筑と関川の会話を筆頭に、準備を終えた者は続々と整列しては会話を始める者もちらほら。その傍ら、永田が最終チェックを進めていたが、終わったらしく戻って来た。
「どうだ? 忘れ物とか無がったが?」
「誰も乗ってなかった席にちょっとあったけど、拾ったんで大丈夫です」
N`Carsが利用した席に忘れ物やゴミは無く、誰も座らなかった席にプラスチックの袋の端切れが1つあったのみで、既に拾って自分のポケットに閉まってある。
東京駅を発車した時のオーラを保ったまま、のぞみ号は新大阪駅の22番線ホームへスローダウン、停車。ここでも恐れを為した客が、N`Carsが乗っている車両の前だけキッチリ空けて並び直した。
ホームドアと左側の自動ドアが一斉に開く。恐れを為した客が距離を取って並び直したことで大きく開いたホームに、N`Carsは続々と降り立つ。この後はJR神戸線で大阪駅まで向かう。




