新メンバー加入!!
作中に出てくる、本作の舞台でもある山形県N市は、特に細かく記載されてない限りは実在する山形県長井市がモデルです。
―野球を離れて、何年になるだろうか。あのグラウンドで白球を追いかけ、バットで飛ばし、ダイヤモンドを駆け抜けたあの日々。久々に野球したいな。勿論ブランク覚悟だけど。
山形県N市。ここに昔は現役の野球部員だった青年がいた。
彼の名は永田。岩手県出身の彼は自らの進路の理由で現在は地元を離れて山形で一人暮らし。身長180㎝、体重57㎏の長身で細身の体格で、現役時代は外野手、主にライトを守っていた。
「うあー、何してもつまんねぇ、何か楽しくてオレがハマりそうで周りと趣味が合ってて、つか合いまくりで充実感ありまくりの、そんな何かないかなぁー…?」
そう叫んでも、物事はやって来ない。自ら動かなければ物事は何も起きないし、進展すらしないのだ。
すると、どこかで聞き覚えのある金属音がこちらまで響いてきた。
―何今の、カキーンっつったよな? どっかで野球か何かやってるのか?
永田は金属音がした方向に車を走らせた。
―オレの勘じゃ、この近くに間違いなく野球場か野球の練習用グラウンドがある筈だ。これだけ近い場所で金属音聞こえたら絶対そうでしょ。
少し走ると、やはり永田の読み通り野球のグラウンドがあった。しかも有難いことに、駐車場がある。しかし、こう言えば失礼だが球場の造りが何かと質素で、土手側のこちらからは球場内の様子が丸見えだ。
土手側の道路から駐車場に車を進め、空いているスペースに車を停めた。が、車を停めるや否や、永田はグラウンドではなく何故か車のほうに目線を向けた。
―おい何だこりゃ、皆国産のスポーツカーじゃん。オレと同じように車好きの野球好きなヤツらがここに集ってるのか!? …にしても、金かかってそうなの多いな。…あっ、いかんいかん、グラウンドに行かねば…。
その頃、グラウンド
「そらっ」
ギィン。
「ショー…、おーい、何しとんねん、アンタそれでも昔現役の遊撃手やったんかい」
グラウンドではシートバッティングをしていた。その打球処理を誤ったショートに、ピッチャーが苛立ちを隠せずにいた。
「何言ってんだ、そうだよ」
「おんどりゃ、今日何個目のエラーや、数えてみい」
「片山、ちょっと」
「ん、何や浩介? …ん?」
「ベンチに誰か居ない?」
「あ、確かにおるな。ちょっと相手してくるで」
キャッチャー、ピッチャー、ショートが一塁ベンチに永田が入っていることに気づいた。するとキャッチャーがこちらに向かって走ってきた。
「ちょっと何の用ですか?」
「楽しそうだな、って」
「楽しそうって、アンタ、野球したいん?」
「単刀直入に言っちゃえばね。ただすんなりチームに加入できるかどうか…」
「ほな、その格好で構わんから一先ず打ってみ。オレはキャッチャーの関川や。オレらは野球を楽しんでやっとるからそんなに合否は問わんで」
「そうか…、じゃ、打たせてもらおう」
関川は永田にバットを渡すと、自らもキャッチャーズボックスに戻った。
「開次、コイツ野球やりたい言うてるから投げてやれ。あぁ、えーと…?」
「永田だけど?」
「コイツ永田や。永田、アイツはエースの片山 開次や。オレと同じ関西人やからそこんとこよろしく」
「よろしく」
―ほう、あれが永田かいな、左打者か。面白い。たとえ相手が新入りのヤツでも手加減せぇへんで、浩介、初球ストレートや。
永田は左のバッターボックスのホームプレート寄りに立った。バッテリー間では片山と関川の投球サインのやりとりがされていた。
―開次、ホンマにストレートな。よっしゃ来い。
関川がグイとミットを前に伸ばす。片山が振りかぶる。第1球、サイン通りのストレートが来た、が、
キン。
真後ろのバックネットに打球が突き刺さった。
―初球のストレートはファール。ただ真後ろちうことはタイミング合っとるんやな。とりあえずホンマにタイミング合ってたかの確認で、もういっちょストレートや。
サインに頷いた片山は、もう一度ストレートを放る。
―ストライクボール!!
永田、またも手を出す。
キン。
―またファール。ただ真後ろじゃなく左方向やった。振り遅れやな。
2球ファールにされてはいるがカウントはツーナッシング。明らかにバッテリー有利なカウントである。
―開次、次はこれや。
―よっしゃ、エース舐めるなちう気持ちであれな。
第3球。
―これで三振や、コイツは…、
カキィーン。
―え?
―カ、カキィーンやて?
―そんな、自信あった縦の大きいカーブやぞ。それを捕らえて何で深いライトフライにしとんね…!?
コーン。
ライトのファールポールに打球が当たった。
「えっ!?」
「な…」
「ホームランや!!」
―アイツの縦の大きいカーブをあそこまで持ってかれた…。どうやらこの永田ちうヤツ、ストライクボールにはちゃんと手ぇ出すヤツやけど、落差の大きいアイツの縦のカーブをホームランにしたちうことは…、コイツ、ただもんやないな…。
永田は打球が飛んだ方向に目を向けながらダイヤモンドを1周しているが、震えていた。なぜなら人生で初のホームランだからである。
―はっきり言ってあれ紛れ当たりなんだよね。ストレートより遅かったから確りタメ張れたけど、当たっても精々内野ゴロだろうな、って思ってたのにあんなとこまで行っちゃったからねー。
永田、今ホームイン。それをただ見ることしかできなかった片山・関川のバッテリーは永田から何かを感じとっていた。
―えらいこっちゃな。永田は何れチームの主軸担うヤツに進化するで。
「菅沢ぁ、手ぇ伸ばせへんかったんか」
「無理だよあの高さじゃー。オレだって身長170ちょいだからさー」
ライトを守っている菅沢に声を掛けたが、それでも届かない位置にボールは当たっていたのだ。
「それより永田、どないするん?」
「何が?」
「オレらと野球やるかやらんかや。アンタ最初に野球やりたい言うてこのグラウンドに入ってきたやないけ」
「バッティングはともかく、守備がさ。オレ外野しかやったことないのに外野にはもう人いるもん」
「あぁ、なら外野ノックやるか? 一応オレらもちょっと守備は…」
―どうやら守備は分が悪いらしいな。これならオレでもいけそうだ。
「右利きだから、右のグローブある?」
「ちょっと待っとれ」
すると関川は一塁ベンチ裏に下がり、右の予備のグローブをとりに行った。
―バッティングは間違いなく中軸やろ。問題は守備やな、外野しかやったことない言うてたけど、実力はどんなもんかな?
「永田、これで外野守ってみ」
「言っとくけどオレ正確にはライトしかまともにやったことないよ」
「でもでも。さぁノックするで」
「あぁ…」
カキーン。
「定位置の外野フライや、その場で構わんよー」
が、
「あら…」
何でもない凡打を落としてしまう。
「ドンマイドンマイ、次行くでぇ」
キーン。
―おろ、ちょっと深いかな。けど定位置からそんなに遠くない分、大丈夫やろな。
「とっ」
やや危ないが、この打球は確り捕った。
「ほな、もういっちょー」
キィーン。
「前前、浅いでぇ」
永田は果敢に前に走る。必死に左腕を伸ばし、何とか打球を前で止めた。
「ナイストナイストー、よっしゃ、ノックはこの辺にしとこう。永田は守備ライトやな」
「ちょ、何でもう決めちゃってんの」
「だってライトしかまともにやってないならそこしかやれるとこないやろ? 他にやりたいとこあれば…」
「ピッチャーだけど」
「ピッチャー!?」
片山は唖然とした。ああも自分のポジションをあっさりと希望されるとは全く思っていなかったからだ。
「コントロール悪いけど」
―なんや、安心したわ。これでオレよかコントロールええなんて言われたら下手すりゃコンバートされてたとこやわ。
「まぁええ、投げてみ」
「わかった。けど思いっきり行くから捕れないかもしんないよ?」
「そんなの気にすることとちゃうやろ。さぁ来い」
関川はミットを構えた。永田はワインドアップからの投球をすることにした。
―右のワインドアップ…で、オーバースローってとこかいな。片山と同じか。
「うぉりゃあ」
マウンドでの第1球は…、関川がミットに引っ掛けるのが精一杯の大ボール。投手をやりたいと言ったものの、永田は投手経験がないのだ。これは明らかに無謀な行動である。
―うーん、投手としては素人か。せやけどまだ1球やし…、?
第2球、今度は関川の手前でワンバウンドするこれもボール球。
―こらああかんな。今はまだマウンドに上げんほうがええやろ。けどコイツはあれだけの身長があるからオーバースロー投手としては確かに向いとるわな。今後の努力次第やな。
「永田、ミットに向かって思い切り投げてみ、そうすりゃストライク入るで」
「よーし、そうすっから捕れよ」
永田の第3球は、関川のミット目掛けて思い切り投げたストレートだった。
パァン。
「入った?」
「…あぁ、ちゃんと入っとる。ピーやるからにはスタミナとコントロールが必需品やな。アンタ随分細身やけど、体重いくらあるん?」
「え…、60いってない…」
「じゃやっぱその2つが必需品や。永田、これからはオレらの野球仲間や。これからよろしくな」
「あぁ、こっちこそ。野球は中学以来なんだよね」
「なんやて、シニアでやっとんたんか」
「いや、軟式」
―軟式かい。まぁええわ。
しかし永田は1つ気になることがあった。それはこのチームに監督とマネージャーが居ないのだ。
「18人揃って改めてチームが始動したのはいいんだけど…」
「何かまだあるんか」
片山が問い質すと、
「いや、監督とマネージャー居ないけどいいのかな、って」
「…あぁ、そっかぁ…。やっぱ居たほうがええやろ。誰監督やるん?」
関川がみんなに尋ねた時、
「私がやろう」
すぐ後ろに、見知らぬ男性が立っていた。すかさず片山が問い質す。
「アンタ誰や、監督はアンタが…」
「だからその監督を私が引き受けるって言ったんだ。一応野球経験者だから私でも大丈夫だべな」
「アンタ経験者やったんですか。名前何と?」
「徳山 勝一。若い君達から見れば大分年配の60…あっ、言っちゃった」
―ふーん、この人が監督希望者か。
―この爺さん60代なんか。せやけど経験は豊富で確かなんやろな。
片山と徳山のやりとりを見て、永田と関川がそれぞれこう感じていた。
徳山は一旦咳払いをして、再び話し始めた。
「えーとだな、君達を指導したくてやってきたんだ。ついこの間まで学校の教師してたけど定年退職で今無職なんだ。教師してた頃は野球部の顧問をずっとやってきたし、野球には自信あるよ。何かこの様子見ると監督が今のところ居ないみたいだけど、いいかな?」
「監督は今日来たばかりの永田が希望してたことやし、ここはオレでなく永田に」
「監督大賛成」
―あらぁ、意外とあっさりした返事やな。
徳山が関川に質問して、その答えを永田に委ねるや、永田は即答した。確かにあっさりしている。
「皆集合やー」
「はい」
関川が皆に声を掛け、サークル状に一塁ベンチ前に集まる。
「今日から新しく入ったチームメイトと監督や。これからよろしくお願いします。詳しいことは…せやな、戸川、アンタの店今日空いとるか?」
「空いてるよ。何、今晩入団祝いでもやるの?」
「よっしゃ、ほな、詳しいことは今晩の入団祝いで話してもらいますが、今からオレらのチームメイトさかい、皆よろしく」
「よろしくお願いします」
「よーし、今日の練習はこれでお開きにしてグランド整備とクールダウンやー」
「はい」
これまでのメンバーは各自でグランド整備用のトンボを用意し、グランド整備に向かった。関川ただ1人が一塁ベンチ前に残っていた。
「永田」
「何?」
「アンタと監督が入団してくれてオレらはホンマに感謝しとる。今までオレらは野球チームって言ってたけど正直なところ、これはただの野球ごっこやって前から思ってた。アンタ入るまでオレ含め17人しかおらんかったし、監督もマネージャーも…あーっ、せやったぁー」
何かを思い出したようなリアクションを見て、永田が関川に質問した。
「ん? 何かあったの?」
「そや…、マネージャーや…」
「…あぁ、マネージャーまだだな」
そこに徳山監督も加わった。
「チームのマネージャーか?」
「はい、マネージャーまだおらんのです」
「マネージャーとは無縁だが、さっきあそこの土手で車1台が故障か何かで停まってたぞ」
「土手って監督、ここからどんくらい…」
「駆け上がってすぐ。…あぁ、まだ停まってたな。誰か助けさ行っで来い」
「オレが」
「ホンマに?」
「んじゃちょっとだけ行ってきまーす」
徳山監督から詳しい情報を得た永田は、トンボをベンチの側に立て掛けると、土手に走っていった。
「どうしました?」
「私の車が動かなくなって、どうしたらいいかわからなくて…」
その女性ドライバーは、車のトラブルに困惑して、疲れきった様子だった。
「故障ですか、わかりました」
すると永田は故障している車のボンネットを開け、エンジンを見た。
―あーあ、こりゃ配線イカれてるな。予備のないかな。
「予備の配線ありますか?」
「緊急時の箱の中にあると思います」
永田は車のトランクから彼女に言われた箱を見つけ、中から予備の配線を取り出した。
―これがありゃ何とかなりそうだな。
暫くして車の修理が終わり、彼女にエンジンをかけるように言った。
「あっ、かかりました。ありがとうございます」
「こ、こちらこそ」
「あと1つ聞いていいですか?」
「はい?」
「この近くに野球チームってあります?」
―野球チーム? この人野球に関心あんのかな?
「ありますけど…?」
「マネージャーやりたくて来たんですけど、今ぼ…」
募集していますか、と聞こうとしたが永田は颯爽とグラウンドに駆け出していた。
「大ニュースだぁ、マネージャー来るぞぉ!!」
「マネージャー!?」
「マジか!?」
メンバーがマネージャーの新加入に喜ぶ中、片山がまたも問い質した。
「おい永田、何でその手の話をアンタが仕切っとんねん」
「まぁいいじゃない。折角マネージャー来るんだから」
―そらぁ嬉しいけど、何もああ颯爽と駆けて来んでもええのに。
「私、井手 真奈美です。マネージャーの話は」
「無条件でOK。今マネージャー欲しかったとこだからさ。因みにオレは今日入ったばかりの永田」
「永田さんですね。先程はありがとうございました。駐車場は…」
「すぐそこだよ」
「重ね重ねすみません」
「いやいや、気にすることないよ。車置いたらすぐにグランドに来て」
永田は再びグラウンドに駆け出し、真奈美は車を駐車場に置きに行った。
―真奈美さんかぁ。何だろ、オレらに何かかぶる部分あんなぁ…。
「永田、さっきのマネージャーの話ちゃんとOKしたん?」
「だって欲しかったんだし。それなのに断るなんてできやしねぇよ」
関川が永田にOKの確認をとって、再び場を仕切った。
「よーし、これで完璧やな。皆、これから新しい雰囲気でチームが活動するけど、心理は今まで以上に引き締めなアカンで」
「はい」
「ほな、クールダウンといこうか」
「はい」
クールダウンを終えた後は戸川の店で入団祝いを行うことが決まっている。新たに気持ちもリフレッシュして、草野球の新チームが始動開始する。
夜、戸川の店
戸川の自宅は飲食店で、こういう団体客も50人までなら収容できる。そこの一室で入団祝いが行われていた。
「さて、皆揃ったところでこれから入団祝いを始めます。皆さんよろしくお願いします」
関川が司会を務め、周りの雰囲気は常に良い。
「我々のチーム『N'Cars』は今日新たに入団した選手、監督、そしてマネージャーの各1人を含め合計20人で新チームが始動しますけど、その前にお互いようわかっておらんでしょうからこの場で自己紹介しましょう。名前、ポジション、利き手、打席位置を言ってください。投打は例えば右投右打なら右投右打って言ってください。まずは新入団の選手、監督、マネージャーは前にどうぞ」
永田と徳山、そして真奈美の三人が前に出た。
「まずは選手から。次に監督、マネージャーの順でお願いします」
―選手って、新入の選手オレだけじゃん。
「えー、今日新たに入団しました、永田です。ポジションはライト、右投左打です。皆さんよろしくお願いします」
「監督に就任した徳山です。現役時代は右投右打、ポジションは現役時代全て通せばほぼ全てです。よろしくお願いします」
―アンタ全てやったんかい。
「私は井手です。皆さんは名前の真奈美と呼んで構いませんよ。中学からマネージャーをやってきました。皆さんよろしくです」
「新入団の皆さんありがとうございました。次にバッテリーは前に出てください」
3人が元の位置に戻り、入れ替わるように片山を含むピッチャー3人と関川を含むキャッチャー2人が前に出た。
「関西出身の片山です。ピッチャーをずっと小学生の頃からやっていまして、右投両打もその頃から定着しました。よろしく」
「同じく関西出身の関川です。キャッチャーやってます。右投右打です。よろしくお願いします。言っとくけどオレらだけ関西出身なんはホンマやで」
「チームで唯一のサウスポーピッチャーの高峰です。打撃も左です。よろしくお願いいたします」
「サードも務めます、右ピッチャーで右打の黒谷です。よろしくお願いいたします」
「キャッチャーの相澤です。黒谷と同じく右投右打で、よろしくお願いします」
「バッテリーの皆さんありがとうございました。次に内野手お願いします。黒谷はさっき自己紹介したからええよ」
「はい」
バッテリーと入れ替わるように、今度は内野手七人が前に出た。
「ショートの小宮山です。右投右打です。よろしくお願いします」
「ファーストで左投右打の三池です。よろしくです」
「セカンドの梶原です。右投右打なんでよろしくです」
「サードの都筑です。都筑ですが神奈川出身じゃありません。右投左打です。皆さんよろしくお願いします」
「沢中です。ポジションはセカンド、右投左打です。よろしくお願いします」
「ファーストで投打共に左の戸川です。よろしくです」
「ショートで投打共に右の松浪です。よろしくお願いします」
「これで内野手は全員かな。次は外野手、お願いします」
「やっと外野手の出番かよ」
「アンタそんなに自己紹介したかったんかいな」
「いや、そうじゃなくて待ち草臥れたの。あまりにも出番遅いから」
「んなこと言うたってメンバーは監督とマネージャー入れて20人やで。ま、今まで17人やったから無理ないけどな」
最後に外野手四人が前に出た。一部は待ち草臥れた様子だった。
「右投げスイッチヒッターでセンターを守っています、萩原です。よろしくお願いします」
「左投左打でレフトの桜場です。よろしくお願いします」
「左利きでスイッチヒッターのセンター、中津です。よろしくお願いします」
「中津と同じく左利きでレフトを守っています、峰村です。バッティングは右です。皆さんよろしくです」
「永田とポジションも投打も同じ、菅沢です。よろしくお願いします」
「じゃ、皆さん一通り自己紹介が終わったということで・・・、これからわが店自慢の料理を」
外野手が元の位置に戻ったところで、戸川が部屋を出て厨房に向かおうとした。
「皆、これから料理を楽しもうや」
「つったってオレら皆車だし…」
「そこはちゃんと配慮してくれるよ。てか今の法律じゃ配慮すべきことなんだけどね」
「さぁ、来たぞぉー」
まるでこのN'Carsの入団祝いは何かのオフ会のような雰囲気だな。こうして楽しむのもまた経験になる。勿論経験するからには失敗は付き物なんだが。