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天敵と書いてヒロインと読む。

初投稿です。

気楽に読んでいただけると幸いです。


-モブという単語を御存知だろうか。

 漫画、小説、アニメ等で出てくる名前の無いキャラクター。

 教室、駅前、商店街…そう言った人が集まる場所で、ただザワザワしているだけのキャラクター。

 それがモブだ。

 

 俺はそう言った物を目指している。


 物語の主役に抜擢されるには特徴がない。

 しかし、孤立するほど悪い点があるわけでもない。

 有能、無能、孤立は「特徴」になってしまう。

 

 

 だからこそ俺、「榎原綺麗えのはらきれい」は常に世の中の平均・・でいようと志した。

 

 

 その理由は至って単純。

 尊敬する育ての親・・・・が幼い頃の俺にこう言ったからだ。

 今でも鮮明に思い出せる。

……

 

 (いいかい、キレイ。今の世の中は、すごく生きづらいモノになっている。生きているだけで楽しいなんて思えるのは、ほんの僅かな間だけだ。すぐに、人間と言うモノは競争する割合が多すぎるということに気づくだろう。)

…それはいけないことなのですか?


 (いいや。他人と互いに競い合い、自己を高めていくことはとても素晴らしいことだ。だがね。昨今の現状は、競い合いが蹴落とし合いになってしまっている。出る杭は打たれ、弱者は淘汰されるだろう。)

…イミがわかりません。


 (つまりだ。人生を楽しみたいなら、常に真ん中にいろということさ。普通、並、平均・・。それらを常に意識しなさい。)

…もっとワカリヤスクおねがいします。


 (ふふ、そうだなぁ…おっ、見なさい。このアニメーションに写っている人物だ。)

…この真ん中にいるオトコノコですか?


 (違う違う。もっと奥の…そうこの背景と言っても良い…)

……


-東城高等学校。

 全校生徒数700人程の、至って普通の高校。

 そこに進学した俺は、人脈を構成することに己が青春の一年をかけた。

 当然だ。

 モブとは「群衆」という意味だ。

 ならば、俺が志す平均に一番必要な要素は「友人」であるのは言うまでもない。

 

 困っている奴がいれば力になり、面倒事は率先して引き受ける。

 有り体に言えば、都合の良い「使いっぱしり」だ。

 だが卑屈にはならず。

 俺は彼ら・・とあくまで対等に渡り合った。

 

 その甲斐あってか、俺の交友関係は一先ず同学年の凡そ半数にまで広がった。

 まずまずの成果…いや、戦果と言えるだろう。

 元々、コミュニティ能力は高くはないのだ。

 おかげで部活動、アルバイトなどの青春は送れなかったが、何、問題あるまい。

 俺が目指すのは「平均」であり、「平均的青春」ではないのだから。 

 俺はスマートフォンの電話帳に記された150あまりの名前達を誇りに思った。


 

 名前と言えば。

 学年が一つ上がり2年生となった俺に、放課後、隣の席の女生徒がこんなことを言ってきた。



 「榎原くんの名前って珍しいよね」

 「……」

 

 気にしていることをバッサリと言ってのける女である。


 確かに男に「綺麗」というのは変わった名だろう。

 というか、女性でもこんな名前の人物には出会ったことがない。

 だが、こういう名が付いてしまったことを嘆いていても仕方がない。

 本来なら名付け親に文句の一つも言いたいものだが、そんなことはもう不可能(・・・)なので甘んじて受け入れるしかないのだ。


 「人の特徴にケチをつけるのは感心しないな。もし本人がそのことを気にしていて

  -あ、やっぱ俺の名前変わってるんだ!自殺しよう!-

  …ってなことになったらどうする気だ?」


 「大丈夫。アタシ、榎原君がそんなんで死ぬような繊細人じゃないこと知ってるから。」


…繊細人とはまた変わった人種である。


 「で?その非繊細人である俺の名前に何かあるのか?返答次第では、おっぱいだな。」

 見たり、揉んだり。


 「…アレだよね。そう言うストレートに変態な物言い、アタシどうかと思う。榎原君が大好きな平均には程遠いんじゃないかなぁ?」

 

 そんなことはない。

 高校生男子と性欲は切っても切り離せない関係なのだ。

 参考文献は少々アレなライトノベルだったりするので、信憑性は知らんが。


 「コホン。つまりアタシが言いたいのは、榎原君って「平均」とか無個性とかには程遠いと思うの。

テストの点数にしたってそう。全教科75点って。満点取るより難しいんじゃないの?」

 

 それは仕方がないことである。

 

 俺のポリシーに従うのなら、全教科平均点というのが理想なのだが如何せん俺は神ではない。

 前もって試験の平均点など知りようがないのだから、こうなったらもう過去のデータに頼るしかないのである。

 

 我が校の赤点というものは予め決まっていて、ずばり30/100点である。

 そして30を下の上とするならば、65点辺りが中の上と言うことになる。

 なら60点で良いじゃないかと思うかもしれないが、この東城高校はそこそこの進学校である。

 赤点を取る生徒はさほどいないし、軒並み平均点も高めである。

 なので、テストの点で順位を争ったりしない小学校時代に絆を確かめ合った75という、崇められもしないが蔑まされたりもしないこの数字に中学からの4年間を捧げたのである。


…まぁ実際は点数配分の関係で「全教科」というのは大抵無理なのだが。


 「嫉妬はいけないな。だがまぁ平均を愛し愛されている俺を妬む気持ちはわかる。

  ちなみに好きな競技は平均台だ。」


 「…ホンキで言ってるっぽいから怖いよね。二重の意味で。」

 冗談だったのだが。

 

 さて、本来ならここでこの女生徒の紹介をする所なのだろうが、省かせていただく。

-まさしく「女生徒A」みたいな扱いになっていて一抹の羨望を覚えるのだが-

それどころではなくなったのだ。


 

 この日の21:00頃、事件は起った。

 事件…----そう事件である。

 何事にも平均を志し、モブであれと誓ったこの俺のアイデンティティーを揺るがしかねない事件。


 女生徒Aと別れ、帰り際に駅前の漫画喫茶に寄った俺は、そこで4時間程読書をしていた。

 当初は2時間程で切り上げる予定だったが、この日に取った本がライトノベルだったのがいけなかった。

 なまじ名作だったため、止め所が掴めなかったのである。

 会計を済ませ、若干痛む腰と、僅かな高揚感を従えながら帰路に就こうとした俺の目にその光景が飛び込んできた。

 

 一人の女が複数の男にからまれている。


 正直に言おう。

 思いっきり動揺した。

 品行方正に暮らしていた恩恵なのか、生まれてこの方こんな状況に遭遇したことなど無かったからである。

 

 よく見ると、女はウチの高校の制服を着ていた。

 なので女生徒と呼ぼう。

 女生徒は男に囲まれ不安そうに俯き、鞄を両手で握りしめていた。

 その様子に興が乗ったのか、男の一人が女生徒の肩に手をかけた。

 ビクッと肩が跳ね上がり、助けを求めるように辺りを見回している。


 だが、その傍を通り過ぎる通行人は無視を決め込んでいるようだ。

 それも当然だろう。

 女生徒を囲む男達は4人。

 いずれも強面で如何にも暴力慣れしていそうであった。

 中には身長が180cm近くありそうな奴もおり、関われば確実にただでは済まないだろう。



---さて。

 先程も言ったが、俺はこの状況に思いっきり動揺していた。

 こんな状況、遭遇したことなど無かった。

 こんな…


 

 こんな如何にも主人公ヒーローが活躍しそうな場面なんて!!!!


 

 不謹慎にも心が踊ってしまった。

 無理もないだろう?

 先程まで俺が読んでいたライトノベルに、ほぼ全く同じ状況のシチュエーションがあったのだから。

 きっともうすぐ正義の味方的な奴が颯爽と現れ不良達を叩きのめし、この女生徒とのフラグが建つのだ。

 そしてそれを遠目に眺め、賞賛する俺。


---素晴らしい。

 

 そんな空想に耽っていた時、。

 

 「あ…」


 俺は気づいてしまった。


 女生徒の目から、涙が溢れそうなことに。

 

 

 その瞬間、俺の足はまっすぐに女生徒の方へと向かっていた。

 自分でも驚く程の力強さだ。

 

 ポリシーに従うなら無視すべきだったのだろう。

 ここにいる、その他大勢モブを目指してきた俺にとっては、まさに理想の状況である。

 可哀想にと同情し、主人公的な役割と能力を持った人物が登場するまで見守るだけで良い。

 それができなかった。

 何故なら、気づいてしまったからだ。


 -あれ?もしかして、主人公来るまで、あの娘、怖い思いしなくちゃ、イケナイのか?-


 「君タヒ!!やめんか!!」

 

 思いっきり噛んだね。

 こう、舌を物理的に。

 テンパッていたのである。


 「あ?」

 「なにオマエ?」


 物凄い顔で睨んでくる不良達。

 邪魔された怒り半分、虐める対象が増えた悦び半分と言った所か。

 前後左右を立ちふさがり、逃げ道を潰された。

 もう、後には引けん。


 ちなみに女生徒の様子は見なかった。

 上述したようにテンパっていたし、俺の敵は彼女じゃない。

 この状況である。


 「そのホ(子)、お、怯えてるじゃないきゃ!今すぐ開放しろ!!」

 

 最早、勢いのみで捲し立てる俺。

 その必死さは伝わらず、むしろ嘲弄を浮かべる不良達。

 そして正面にいる180cm野郎(仮)が笑いながら拳を振り上げた。


 瞬間、俺の左手が宙を走った。

 拳は作らず、180cm野郎の鼻面に甲をスナップさせる。

 衝撃にタタラを踏んだ180cm野郎の軸足を刈り取り、転倒させる。


 そして俺の両脇を囲んでいた二人が動く前に、そいつらの襟首を掴み取り、引き寄せ、思いっきり頭部を激突させる。

 昏倒し、崩れ落ちる二人。


 そして背後の気配を頼りに、後ろで殴りかかろうとしている男の首を右手で鷲掴みにした。

 軽く掴んだだけなのだが、気道を勢い良く塞がれたため、それ以上の抵抗ができず、もがく不良。

 そいつをそのまま引きづり、すっ転んだ180cm野郎の前に立つ。

 そしてニッコリと微笑み・・・ながら…


 右手に力を込めた。

 

 「キュエッ!!…」

 

 奇妙な断末魔を上げながら、がっくりと落ちる不良。


 震え上がる180cm野郎。


 …友人に言われたことがある。

 俺が人を小馬鹿にする時の笑顔にとてつもない邪悪を感じると。

 

 (お前はなんだ?人を見下すことに悦びを感じるの?って言うか愉悦?)


 甚だ不本意な意見なのだが、周囲にいた友人全員が首を縦に振った所を見ると、どうやら事実らしい。

 こんな平均的好青年を捕まえて何を失礼なと、その時は憤慨したものだが、今この現状では役に立ったようだ。

 

 捕まえていた男の首を離し開放する。

 

 そして、頭部を打ち付けられて目を回している二人にビンタを一発づつお見舞いし、正気に戻しながら、(仮)野郎に声をかけた。無論微笑みながら。


 「イキナリですまないね。殴られるのが怖かったから、無我夢中になってしまった。まだやるつもりなら、こちらも今度は冷静に対処・・するが?」


 左手首をスナップさせる。

 すると、(仮)野郎は気絶した仲間を担ぎ上げ、その他二人を連れて退散していった。

 …もう少し何かアルと思っていただけに、その逃げ足っぷりが逆に不安になった。

 主に俺のルックスに対して。


 深くため息をつく俺。

 それにしても、よく体が動いたものだ。

 「平均的護身術」として、ちょっとした格闘技を習ったことがある程度だったのだが。

 何事も経験はしておくものである。


 「あの…」


 背後から、か細い声がかかる。

 …そういえば忘れていた。

 この状況にはまだ登場人物がいたのだった。


 「だ、大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」


 恐怖の余韻が残っているのだろう。

 不安そうに訪ねてくる。


 「ああ、大丈夫。そちらこそ怪我とか…」

 

 そう言いながら、彼女の顔を見た瞬間。

 俺は勢い良く、顔ごと視線を逸した。

 

 (な、なんだこいつ…!)

 

 「え?あ、あの…」

 「よし、お互いに色々大丈夫だ!何も問題無し!では今日のことはお互い忘れよう!うん!では!」

 「え!?ま、待って!!まだ御礼も!!」


 言い残し、駆け出す。

 冗談ではない。

 アレの顔を見て、今の状況を思い出した。

 俺の存在意義。

 それが今まさに吹き飛ぼうとしていたのだ。

 

 自宅のアパートに帰宅し、シャワーを浴びてすぐにベッドに飛び込んだ。

 そして後悔に沈んだ体を怯えるように丸め、目を閉じ、呟く。

 「…モブであれ。」

 その言葉は常に俺を励まし、支えてくれた、魔法の呪文である。

 声に出すだけで安らかになり、直ぐ様眠りに落ちるのだが…

 今日に限っては、その効果は現れなかった。

 ある疑念が頭から離れなかったためである。


 そう。

 先程の俺とあの女。

 アレではまるで…



-翌朝。

 スマホのアラームによって目を覚ました俺は、いつものように身支度を整えた。

 十分な睡眠を取ったとは言い難いが、それでも地球は回るのだ。

 平均的男子としては、母たる惑星に文句など付けられる筈も無し。

 いつもの様に施錠をし、いつもの様に登校した。


 実の所。

 今の心境に、昨日までの後悔は驚く程無い。

 何故か。

 それは、「もうあの女生徒とは、金輪際関わることは無いだろう」と、開き直ることにしたのである。

 無論、多少なりとも遭遇する可能性はあるだろう。

 同じ学校の制服を着ていたし、胸元のリボンから同じ学年だと推測できる。

 だが、それだけだ。

 普通ならあんな出来事は早く忘れたいだろうし、ましてやあの気弱さだ。

 防衛のタメとは言え、暴力を振るえる男など普通敬遠する。

 故に、接点は最早無いという答えに帰結したのだ。

 うむ。

 何の問題もない。

 

-そう思っていたのだ。

 そして俺は忘れていた。

 あの女から感じた、疑念を。


 は当然の様に校門の前で待ち構えていた。

 そしてそれを確認し、呆然と突っ立っている俺の前まで小走りに接近し…


 「良かった。もう教室に行ってしまったかと思いました。」


 長く、絹のような髪。

 透き通るような声。

 端正な、それでいて見るもの全てを魅了してしまいそうな、柔らかい笑顔。

 

 俺は改めて戦慄することになった。

 この、溢れ出るようなポテンシャル…

 

 認めよう。

 コイツは超絶な美少女なのだと。

 そして。


 「昨夜はありがとうございました。…って御礼を言いたかったのに、走ってどこかに行ってしまうん

だもの。おかげで、いつもより30分も早起きしたんですよ?」


 

 やはり…やはりだ。

 最早ここにきて疑念は確信へと変わっていた。

 このルックスといい、性格といい、この状況といい…


 こいつは…


 (こいつは…ヒロイン(天敵)だ!!) 


 俺にとって最も忌避すべき存在。

 それは<ヒロイン>である。

 当然だ。

 ヒロインとは主人公と結ばれるべき存在なのであって、断じてモブ等と親しくしてはイケナイのだ。

 いや、これは極論だが。

 例えば、生徒全員に分け隔てなく接するヒロインなら良い。

 だが、こうもたかが生徒その1に関わってくるヒロインではダメだ。

 ただでさえ俺とこの女は昨日の一件で妙な繋がりができてしまっている。

 このままではこいつの経歴プロフィールに傷ができてしまう。


 「…あ、ああ。ソイツは悪かった。俺もあの時はイッパイイッパイだったんだ。喧嘩なんか初めてしたし。それと、礼はイイ。俺はもう昨日のことは忘れたから。」


 「……そうですか。」


 少し、寂しげに笑う。

 だが天敵の心情など知ったことではない。

 何よりコイツのためだ。

 俺は逃げるようにその場を去ろうとした。


 「では、これで。君もさっさと忘れた方が良…」

 「いいえ。」


 予想外な力強い声に、内心驚愕した。

 食い気味に俺のセリフを否定した声は、昨日の彼女とは別人のようだった。


 「私は忘れません。あなたが私を助けてくれたことを。」

 「え?」

 

 「忘れているようですから教えてあげます。

  私の名前は姫希優乃ひめきゆうの

  あなたに助けられたのはこれで二度目なんですよ。…榎原・・)さん」

 「お、俺の名前…」


 

 そして、畳み掛けるように…

 姫希と名乗る女は、俺に呪いを告げた。


 「男女交際を前提に、友達になって下さい。」

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