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明日はだれにも分からない

いかん、更新スピードを上げないと……

 定番のチャイムが学校全体に鳴り響き、今日の授業は終了した。既に生徒は思い思いの場所に向かい始めている。これからは部活だったり委員会などで賑わうのだろう。

 と、鞄を持って立ち上がると、後ろから声をかけられた。


「あら、結刀はもう帰り?」

「ん? ああ、渚か」


 声をかけてきたのは友人の渚だ。その大人びた容姿と言葉使いでお姉様と呼ばれている秀才。勉強よし、運動よし、容姿よしと、なかなか類を見ない類の人間だ。

 ま、私からすれば意地の悪い、飄々とした女狐だけど。

確かに後輩には優しいというか面倒見はいいのだが――まあ、なんというか敵に容赦がなさすぎる。


 心を削岩機で破砕する勢いで放たれる毒舌、もはや汚物を見るかのごとく冷え切った超上から目線、まるで死神の鎌を幻視する回し蹴り。

 色々と問題しかない気がするが、中には新しい世界の扉をフルオープンしてしまう犠牲者がいるとかいないとか。

 うん、渚のファンの大半の目つきがガチでやばい。こう、蕩けきっているような、粘りつくような、LikeというかLoveで……。


 ……いやまあそれは置いておこう。


「あー、まあ私は帰宅部だからね。特に面白みのあるイベントもないよ」

「笹森君は? 今日は珍しく一緒じゃないのね」


 言葉には若干からかうような色も含まれていたが、いつものことなので会話を続ける。しいて言うならそのネタは飽きた!


「辰は携帯見てすぐ出て行ったから、また喧嘩じゃない?」

「いつもの"易しい"先輩方からのお呼び出しかしら? 飽きないわねえ」

「そーでもないよ。たまにあの先輩達、グランドで人間ドミノとか、側の小池で10人整列『犬神家』とかやってるし」

「……笹森君、意外と楽しんでる?」


 かもしれない。

 私としては、彼らが渚のファンと同じ末路を辿らない事を祈るのみだ。


「んー……。どうせ今回もてっとり早く終わるだろうし、しばらく待てば合流できると思うけど。渚も暇なら一緒に行く?」

「あら、折角のデートに私がーーって冗談だから無視して行かないで〜」

「はあ……」


 わざとらしくすがりついてくる渚に手刀を入れ、2人で教室から出る。

 廊下に出た途端、むあっとした熱気が肌にまとわりついた。人が多い、風がない、湿度が高い、あげく西日が照りつけている、と条件は最悪。

 瞬間的に冷房の効いた教室にターンしかけたが、既に冷房は停止しているのて、どのみち教室も暑くなるだろう。素直に諦め、廊下を歩くことにした。


 渚は私の右腕に手を絡ませ、寄り添うようにして足を進める。毎度のことながら、無駄に器用だ。

 そのまま玄関を目指して歩いていると、なぜか周囲の視線が生温いような痛々しいもののような、微妙な空気をしていた。


「ふふ、理由が明確なのに、わざと解らないふりをするのは悪い癖だと思うわ」

「あまり理解したくないだけなんだがねー。というか、何で渚も辰も私の心読めるかな」

「それは勿論、結刀がわかりやすいからに決まってるじゃない」


 何を今更、と頬を突かれる。

 自分で言うのもアレだか、そんなにわかりやすい性格だろうか?


「そうね、すっごくわかり難いけど、ものすっごくわかり易いわね」

「……なにそれ?」

「そうね……。少しでも遠くにいたり、ちゃんと見ていなかったりすると、貴女は相対性理論並に難しわ。でも、近づいてよく見れば、なんてことはない、ただの捻くれたオンナノコって解るのよ」


 騙し絵みたいなものね、と笑って告げる。

 それが良い意味なのか悪い意味なのかは解らないが、少なくとも言葉に棘はない。


「……一応、褒め言葉として受け取ればいい、のか?」

「さあ、どうかしら?」


 渚が目を細めてくすくすと笑う。

 その顔はまさしく女狐と呼ぶにふさわしく、しかし男女問わず惹きつける笑みの形だ。


「ん~、わからなくてもいいわよ? 結刀じゃあ一生わからないでしょうし――それに、お客さんも来てるからね?」

「お客さん?」


 言われ、横向きだった顔を前に向ける。と、そこには見るからに内気そうな女子生徒が立っていた。


「あ、あの……そ、相談したいことが……」


 ……ああ、またか。


「人気よね、結刀の素敵な人生相談室。ここのところは毎日ねえ」

「はあ……。そんな奇妙な部屋を開いた覚えはないんだがねー……」

「でも聞いてあげるのだから結刀もだと思うわよ。ほら、行ってあげなさい。私は先に正門で待っているわ」


 ぽん、と私の背中を押すと、渚はさっさと先に行ってしまった。

 取り残されたのは私と、おろおろとしている内気少女Aと、後は好奇心に満ちた野次馬の視線。


「まあ……とりあえず屋上にでも行く?」


 結局私が正門についたのは、それから20分後のことだった。




「……で、今日はコンセプトは何? 私の目には土下座型トーテムポールが乱立しているように見えるんだけど」

「コンセプト言うんじゃねえ。単にゴミを積み重ねていった結果だ。まあ最初は人間ピラミッド作ろうとはしたが」

「やっぱり笹森君楽しんでるでしょ」





 ようやく気温も下がり始めた時刻、私達は駅前のコーヒーショップで雑談をしていた。内容は昨日のテレビの芸人がどうだとか、近くにオープンした大型ショッピングモールは少し値段が高いだとか、とりとめのないものだ。


「入ってる店は悪くないのよ。かわいいのとか多いしね? でも、やっぱりバイトができない中学生にはハードル高いわねえ」

「そんなに値段高かったか? 俺が行った店は普通だったが」

「辰が行った店って、古着とかCDショップとかでしょ。女子の服飾類と一緒にしたらダメだと思うよ」

「あー、そりゃ確かにわからねえな。つか、男物の服ばっか着てる手前には言われたかねえ」


 だいたい、いつもこんな感じで放課後を過ごすことが多い。 

 見た目と言動が不良の辰と、反対に優等生の渚。あと一般人の私。街中を歩いていたり、こう一緒に駄弁っていると奇異の目で見られることが多いが、そんなことを気にするメンツではない。

 ……一般人。私一般人だよな?


「毎日毎日、誰かに相談を受けているような娘が一般人と言うには、若干ズレがありそうね」

「あ? なんだまたやってたのか。お前も飽きねえなあ」


 おーい私の心のプライバシー、どこに行ったー。


「そういえば今日のはどんな相談だったの? あのウサギみたいな子。イジメ?」

「……外れ。ただ、好きな人が~ってヤツだよ」


 そう、今日放課後に会った彼女は、『好きになった人に話しかけたいけど、どうしたらいいか』なんて事で相談してきたのだった。

 率直に言うとあれだ。


 し ら ん が な。


「うーあー。なーんで皆々、私に恋愛相談なんてしてくるかねー。こちらと、んな経験すらありませんよー。死ねリア充どもめ……!」


 つぶやく声に怨嗟の色が混ざるが、そこは許してほしい。

 いやもー、まだ相談とかはいいよ? 話聞いて、適当に返すだけだし。でもさ、結果報告とかいらないよな? 

 ……なんで、激甘なカップルを、何度も何度も、目の前で見せつけられなあかんのじゃああああああああああ!


「はは、俺もお前に色恋沙汰の話ができるとは驚きだが……話広まってるってことは悪くはねぇんだろ?」

「当たりよー。少なくとも、結刀に相談して悪い方向に行ったって話は聞かないわ。前はイジメとか勉強のが多かったのだけど」

「なんでだろうなー……。そんなに考えずにアドバイス――になってるかは解らんけど、答えてるだけのはずなんだけど」

「一種の才能ねえ」


 いや、そんな地味に自分には役に立たん才能は欲しくなかったぞ。だって幸せそうにしてるのは周りだけで、私には何の得にもならなさすぎる。

 ちくしょう、次から金とってやろうか。


『次のニュースです』

 

「……ん?」


 ふと視界の端に入った、大型液晶のモニタ。

 そこに映っていたのは、煌びやかな和服に身を包んだ女性だ。映像でもわかるほど、神々しい雰囲気を纏っている。

 ニュースのテロップには『第肆神位"朔ノ宮命" 本殿にて豊穣の儀を執り行う』とあった。


「あら、もうそんな時期なのね」

「毎年毎年、ご苦労なこった」

「私たちが生まれた時からやってるからなあ。朔ノ宮の神様も、見た目まったく変わってないしね」

「女としては羨ましい限りだわ。朔ノ宮様、お顔も綺麗だし」


 高位現人神として、半不老不死の朔ノ宮命。

 太陽光を反射して光り輝く翡翠色の髪に、宝石のようでありながら柔らかな瞳。僅かに紅色に染まる頬と、瑞々しい桜色の唇に妖艶さはなく、むしろ清廉さを際立たせる。

 コレだけでも十分に目立つのだが、彼女には更に注目を集める要素があった。


「まあ神様に美形が多いのは解るけど、胸が無闇に育っているのは、やっぱり豊穣を司っているからなんだと思う?」

「お前わざわざ俺に聞くんじゃねえよ」

「本当、羨ましいわー……。美人で巨乳で不老ってどれだけチートなのよ」

「その分苦労してそうな感はあるけどね。彼女に仕えたくて、神職を目指す人間が多いらしいし」

「で、エンドは僻地の神社の管理人、か。人手は余ってそうだからいいんじゃねえ?」

「人手は余っていても、根性は足りてなさそうよね」


 大体は何かしらの神事がある場合、その諸連絡も含めて朔ノ宮命がテレビなどに出ている。

 彼女より上位の第弍や第参よりも各メディアへの露出が多いのは、ビジュアル的にも絵になるからだろう。


「神様、ねえ……」


 興味がない、と言えば嘘になるが――しかしそれも薄紙一枚程度のものだ。一日中経てば、いや、この店を出たときには忘れているだろう。


 この時は。


 この時は神様なんて、遠い存在だと思っていた。


 明日、どのようにして自分の人生が大きく変わるかも知らずに。


 ……いや、一寸先は闇って言うじゃない?

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