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それは普通の日常だった

「ふあ……」


 くあ、と開けた口から欠伸が漏れた。

 遠くからセミの声が響いている。

 雲ひとつない空からの日差しは、直接浴びれば暑いだろうが、ここは日陰になっている上に風通しも良いぐらいで気にならない。コンクリートの床も程良い冷たさで、総じて言うなら眠気を誘う。

 時刻は昼を過ぎ、太陽が下に傾き始めたあたり。

 眼下のグランドでは、どこかのクラスが汗だくになりながらサッカーをしているのが見える。恐らく床下の教室では、教師が数学なり英語なりを教えているのだろう。


 Q.私は今何をしているのでしょう?


 A.はい、絶賛ボイコット中です。授業の。


「あー……今日の英語は小テストだったっけ」


 やっちゃったなー、と思いはするものの、今から授業に参加しようという気はさらさらない。今更という感じはするし、どうせ英語の教師も諦めの境地に達しているだろう。


「ねむ……」


 手にしていた文庫本の活字を追おうとするが、眠気が勝って全く頭に入ってこない。


「んー……寝るか」


 文庫本を閉じ、また空を見上げる。この場所は午前中は日当たり抜群のスポットだが、昼からは夕方含めて陰になっている。要はこのままここで寝てしまっても、暑さで起きたり、知らぬ間に日焼けしたりする心配がないのだ。

 欠点らしい欠点といえば、夏以外は涼しすぎて使えないことと、屋上ゆえに雨の影響をモロに受けることか。


「おやすみー、と。さらば私の内申点」


 もはやあるかどうか解らないものに別れを告げ、瞼を閉じていく。


「すー……」


 ゆっくりと、心地よい睡魔に身を委ね、意識が落ちていく。周囲の音や匂いも小さく、または薄くなり、掠れて消える。

 あと一息。

 あと一息で意識が落ちる、といったところで、私の耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。


「――い。おいコラ。何を優雅に昼寝と洒落こもうとしているんだお前は」

「……んにゃ?」


 重い瞼を開ければ、目の前には背の高いシルエットが。

 逆光で姿が見えにくいが、しかし声で――その長年聞いてきた声で、誰かは解っていた。


「なのでおやすみ」

「話し繋がってねえよモノローグで自己解決すんな!」

「……うるさいな。私は眠い。だから寝る。以上。わかった?」

「わかるか!」

「これだからハッタリ不良は……」

「とりあえず腹立ったんで殴っていいか?」


 相手が一歩前に来たことで陰に入ったのか、その姿が鮮明に映った。

 ハッタリ不良。

 私が普段から彼をそう評するのには、無論理由がある。

 まず彼を見て、最初に目が行くのがその金髪だろう。男子にしては長めの癖っ毛を、くすんだ金色で染めている。


「ある日突然染めて来たから、なにごとかと思ったっけ」

「だからモノローグから話すなよ会話になってねえんだよ」


 次に気がつくのが、その体格と風貌。中学生にしては既に180近くあり、一見細く見える体もよく見れば鍛えられていることがわかる。

 が、着ている制服は見るからに改造されて、裾が長かったり妙なアクセサリーが付属していた。個人的にはむしろ動き難くない? つか ぼっちなのに何一人で自己主張してるの? とは思うのだけど。


「誰がぼっちだ!」

「そっちも私のモノローグに突っ込まないでよ」


 兎に角、そんな見るからに『不良』というポーズをとっている、彼。しかしそんな事を簡単に覆す事実が彼にはあった。


「……ねえだろ、んなもの」

「黙りなさい全国模試上位者。それに今も、先生に言われて私を連れ戻しに来たのでしょーが。この優等生め」

「お前がサボりすぎなんだよ馬鹿。半泣きで頼まれたら、断わるに断われねえだろ」

「そこで断らない辺りがハッタリ言われる原因なんだと思うけど?」

「そもそも言い出したのはお前だろうが!」


 うん、まあ見た目と言動はアレだが、根が良い子ちゃんすぎる。

 授業はきっちり受けて成績もよく、頼まれたらなかなか断れない。典型的なまでのお人好し。何度も言うが、見た目と言動がアレなので凄まじいギャップだが、まさか新手のツンデレかと勘ぐってしまう。

 ……閑話休題。


「どうでもいいから、さっさと教室に戻りやがれ。引きずって連れていかれてぇのか」

「……喧嘩じゃ私に勝てないのはわかってるだろうに」

「あ?」

「はいはい、了解しましたよっと。もう、せっかく気持ちよく寝れそうだったのに」


 文句を口にしつつも、反動をつけて一息で起き上がる。うだうだしていると、本気で首根っこ掴んでくるから困る。猫か私は。

 シャツとスカート、あと腰まで伸ばした髪に付いたホコリをはたいて落とす。文庫本も忘れずにポケットに突っ込んだ。


「ま、昼寝はクーラーの効いた教室するとしますか」

「……………」

「? まだ何かあるの?」

「ったく、なんでもねえよ。……気づいてねえとでも思ってんのか、馬鹿が」

「え、何?」

「ほら、グダグダ言ってる暇あるならさっさと歩け、結刀」

「いたっ! 辰も何も叩くことないじゃない……」


 そうして私は幼馴染に引きずられ、そのまま教室に連行されたのだった。

 

 残りの授業は全部寝ましたけどね!


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