事の起こりというかプロローグ
誤字脱字の指摘など、おまちしてます
「私の、神様になって下さいっ!」
少女の緊張感溢れる声が、初夏の朝っぱらに響き渡った。
見た目と違い、意外と根性あるのかグランドの野球部連中よりかは声が出ている。ああほら、グランドで朝練してた連中も驚いて動きが止まっているし。
見た目――眼前の少女は今年で中学2年になった私より背が低く、顔つきもまだ幼い。身体つきもほっそりしていて、百人に聞いても百人が小学生だと言うだろう。
それに私の第一印象としては『なんとなくトロそう』だ。我ながら初対面の人にひどい話だとは思うが、こう、小動物的な雰囲気がバリバリして仕方がない。
――が、今しがた彼女から貰った名刺によれば、なんと二歳年上の高校生らしい。人体の神秘というか何食ってたらこうなるんだというか、いや、今はそうではなく。
それよりも、その名刺には更に重要な情報が書かれてあった。
『天津原機関信奉課第伍地区担当巫女(仮)』
最後の(仮)が非常に気になったが、やはり問題はそこではない。
名刺から視線を目の前の少女――と言うのは少々失礼か、視線を彼女に戻す。
で、もう一度名刺に戻す。
また彼女に戻す。
「………………巫女?」
そう、巫女だ。
彼女が着ているのは白と紅、二色の和服。上質な反物を使い、派手にならないよう施された装飾で、素人目でも丁寧に作成されているのが解る。
その巫女服を着こなし、見本のようなお辞儀をしている彼女。絹のような、切り揃えられた黒髪が微風で揺れる。
ああ、幼く見えるのはお人形、それも日本人形みたいに見えるからなのか、ってだから今はそうじゃない。
……うん、そろそろ現実逃避はやめておこう。
今、彼女は何と言ったか。
「ええと、……神様?」
誰が? という疑問が浮かびかけだが、そんな答えは解りきっている。
彼女は“私に向かって”お辞儀をしているのだから。
ベタだが、念のために振り向いて確認をしてみる。隣には、口をO字に開けた幼馴染が。反対側の隣には幼馴染と似たような表情をした友人が。
後ろを見るが、遠くに校舎正面が見えるだけで、人もまばらだ。一人見知らぬ人と目が合ったが、全力で首を振られてしまった。まあ当然ながら違うようだ。
「あー、っと。……つまりどゆこと?」
問うと彼女は、ばっと勢いよく顔をあげた。
表情から察すると――あ、説明を忘れてたのか。案外、いや、言っちゃなんだが見た目通り結構抜けているらしい。
彼女は急ぎ懐から一枚の紙を取り出すと、それを高らかに読み上げる。
「み、御白結刀様!」
「は、はい?」
「貴方はこの度、厳格な審査と鑑定の結果――だ、第十神位の『神』として認定されました!」
「…………………………は?」
思わず言葉を失った私に対し、彼女は深々とお辞儀をし、言う。
「わ、私を貴方様にお仕えさせて下さい!」
これが、私と、私に仕えることになる彼女との出会い。
空を見上げても、この出会いの先は見えそうもない。
……正直、嫌な予感しかしないのは、非常によく理解ができたのだが。