学校のお月見会に秘められた真相
九月も下旬。中秋の名月、十五夜は、お月見の時期。
和菓子屋を営む善部屋も、団子の特売で大賑わい。
善部家の娘で高校生の善部田辺子も、
商品のお団子づくりから、当日は看板娘として店先に立たされて大忙し。
しかし、田辺子にとっての十五夜は、これだけではない。
田辺子の通っている学校には、
十五夜の月を学校の屋上から鑑賞する行事があった。
その名をお月見会という、そのままの名前だった。
田辺子の家は和菓子屋を営んでいるということで、
クラスで食べる月見団子を用意する役目を頼まれていた。
十五夜とその前後は、和菓子屋にとってはかきいれ時だ。
だから、学校の行事の分まで団子を用意するのは大変。
店主である田辺子の父親と母親が作ったお団子は、
全て和菓子屋の善部屋の売り物にされてしまう。
だからいつも田辺子は、学校の行事の分のお団子づくりを、
自分とおばあちゃんに手伝ってもらって作っていた。
十五夜の善部家は、お団子づくりと店の営業で朝から大忙し。
お団子は全て店の売り物にされてしまうので、
善部家では十五夜には団子の代わりに、
里芋の煮っころがしを食べる風習があった。
その煮っころがしはおばあちゃんが作るので、
店ではなく住居部分の台所では、
家で食べる里芋の煮っころがしと、お月見会の団子の両方を作っていた。
「あー、忙しい、忙しい。
田辺子、ちょっと手伝ってくれない?」
「おかあさん、わたしも学校のお団子作るので手一杯だよ。」
台所では、田辺子とおばあちゃんが大忙し。
だから、それより大きい店の台所を切り盛りする両親には、
とても学校の行事の手伝いなど頼める状態ではなかった。
そこに、母親が団子の材料を取りにやってきた。
「田辺子、学校のお団子と、店のお団子を、混ぜないようにね。
あなたとおばあちゃんが作ったお団子をお客に出したら大変だから。」
当然のことだが、こうもきっぱり言われると、
田辺子の腹の虫の居所も悪くなるというもの。
「そんなのわかってるよ!
わたしが作ったお団子が、プロが作ったお団子にかなうわけないでしょ。」
「あら、あたしと田辺子ちゃんで作ったお団子も、立派ですよう。」
腹を立てる田辺子をなだめるように、おばあちゃんはのんびり。
田辺子がのんびりしてられないのは理由がある。
田辺子は学校のお団子作りだけでなく、会場設営などもせねばならない。
今日は学校と家を何度も往復しなければならないのだ。
「おばあちゃん、わたしちょっと学校に行ってくるから、
お団子作りは頼んで良い?」
「はいはい、行ってらっしゃい。気を付けてね。」
田辺子はエプロンを外すと、制服に着替えて学校へ向かった。
これが後に、大騒ぎになる原因になるとも知らずに。
田辺子の通う学校は、自転車で15分ほどのところにある。
坂が多く、急げば汗をかく程度には険しい道のりだ。
田辺子は今日もう何度目かの学校に着くと、
自転車を乗り捨てるように降りて、屋上へ向かった。
食べ子が通う学校は、屋上のフリースペースが広く取られている。
最初から屋上で行事を行うことを前提とした作りだ。
その広い屋上のあちこちで、各学年、各クラスが、
お月見会の準備をしていた。
「おい、はみ出してるぞ。こっちはうちのクラスの場所だ。」
「ちょっとくらい大目に見てくれよ。シートが大きいんだよ。」
屋上の床にシートを敷き、座布団を並べていく。
まるでお花見のような賑やかさだ。
田辺子のクラスを見てみると、まだシートも敷いていない状況だった。
世話好きの田辺子は、率先して動いていく。
「どうしたの?まだシートも敷いてないじゃない。」
「それが、用意したシートの大きさが足りなくて。」
「それなら、隣のクラスのシートが大きくて困ってたから、
うちのクラスの方まで敷いてもらって使わせて貰いましょ。」
「おい、善部、お団子はどうした?」
「今、家で作ってる!人数が多いから、作るのも大変なんだから。」
「運ぶ時には人を出すから、言ってくれよな。」
「ありがとう。
じゃあ、わたしはお団子作りに戻るから。」
学校に来たばかりの田辺子は、とんぼ返りで家へと戻っていった。
田辺子が家に帰ると、おばあちゃんがお団子を作っていた。
のんびり、のんびり、おばあちゃんはお団子を握っていく。
田辺子はその様子に、何か違和感を覚えた。
なんだろう。何かが違うような。
・・・そうだ。田辺子はおばあちゃんに言った。
「おばあちゃん、このお団子、色付いてない?」
確か、田辺子が出かける前のお団子は、白かったはずだ。
それが今は、うすい茶色になっている。
だがおばあちゃんは気にしていないようだ。
のんびり、のんびり、笑顔で返した。
「ああ、ちょっと味付けしたんだよ。大丈夫だからね。」
「あ、そうなんだ。」
田辺子の家の和菓子屋の方でも、
最近は団子に変わった味付けをしたりしている。
だからその一種なんだろうと、田辺子は受け取った。
「じゃあ、わたしもお団子握るから・・・あれ?」
そこでまた田辺子は違和感を覚えた。
おばあちゃんが握っているお団子の餡、あんこに、
大きな具が入っているのだ。
大きさは一口大くらいだろうか。あんこと混ざって正体はよくわからない。
田辺子はまたおばあちゃんに言った。
「おばあちゃん、このお団子、あんこ以外に具なんて入ってたっけ?」
しかしおばあちゃんは、やっぱりのんびりのんびり。
「さあ?どうだったかねえ。
若い子たちが食べるなら、食べ応えがある方が良いと思って。」
あんこの中の具は、どこかで見たことがあるような気がする。
だからおばあちゃんが間違って食べられないものを入れてしまった、
ということはないだろう。だったらこれでもいいか。
こうして考えてる間にも、時間は刻々と過ぎていく。
「じゃあ、わたしもおばあちゃんと同じお団子を作るね。」
田辺子はそういう結論に至った。
それからの田辺子は、おばあちゃんと額に汗して働いた。
家では学校の団子を握り、家族用の芋の煮っころがしを作り、
間を見ては学校に行って作業の進捗状況を報告し合う。
「ちょっと遅れ気味だね。お互い、ペースを上げないと。」
田辺子はクラスメイトたちとそう話し、自転車にまたがった。
家に戻ると、まだまだ団子作りはたくさん残っていた。
だから、田辺子はうっかりしていた。
お団子作りで、いや料理で重要な、ある工程を見逃していた。
日が傾き、空には煌々と月が姿を現すようになってきた。
田辺子の学校のお月見会の準備もラストスパート。
月が見える場所に各々の席は用意できているか。
お団子の数は十分か。
学校と田辺子の家で、それぞれに最終確認が行われた。
そして。
「お団子、全部出来上がったよ!
さあ、学校まで運んでくれる?」
「おうよ!」
「任せてくれ!」
出来立ての月見団子が、田辺子の手からクラスメイトたちに移っていく。
団子はまるまると太っていて、見るからに美味しそうだ。
「・・・つまみ食いしちゃ駄目よ。」
「わかってるって。」
田辺子は団子を運ぶクラスメイトに釘を刺して、
それからおばあちゃんに言った。
「おばあちゃん、準備手伝ってくれてありがとう。
わたしはこれから学校のお月見会に行くから。」
「はいはい、行ってらっしゃい。
あたしも腰が悪くなかったらお邪魔するんだけどねぇ。」
曲がった腰をさすりさすり、おばあちゃんは腰掛けた。
手を振るおばあちゃんに笑顔で手を振って、
田辺子は学校へ向かった。
準備に奔走している間に、時間はもうすっかり夜になっていた。
学校の屋上に上がると、深い青の夜空には、大きな中秋の名月が上っていた。
「おお、来たか。ご苦労さん。」
「こっちの準備は終わって、先に始めさせてもらってるよ。」
「ほら、駆けつけ三杯。」
見ると学校の屋上の各所では、既にお月見会が始まっていた。
賑わいはまるで花見のよう。
お月見もちゃんと準備をすれば、花見に匹敵する行事になるのだ。
物ごとは一つではない。
それがこの学校のお月見会の趣旨の一つだった。
皆、もう既に飲み物に口をつけて、団子を今か今かと待っていた。
「はい、善部屋特製・・・ではないけれど、
善部屋の娘とおばあちゃん特製の月見団子だよ。」
月見団子が山と積まれた皿を置くと、
わあっと、クラスメイトたちが歓声を上げた。
すぐにあちこちから手が伸びてきて、月見団子の山が崩されていく。
クラスメイトたちが月見団子にかぶりつく。
すると、一瞬の静寂、その後、歓声が上がった。
「何だこの団子?」
「今までにこんな月見団子、食べたこと無い!」
「善部さん、あなたの家のお店で売ってるものなの?」
「えっ、違うよ。
わたしとおばあちゃんで作った、売り物じゃないお団子。」
「そうなの!?」
「これ、売り物じゃないのか」
どうもクラスメイトたちの様子がおかしい。
おかしいというか、反応が大げさだ。
田辺子も月見団子を口に運んだ。
そして、その味に仰天した。
「なにこれ!?こんなの、月見団子じゃない!」
田辺子が持ってきた月見団子は、茶色い団子。
通常の月見団子は真っ白なので、そこでおかしいと思うべきだった。
そして月見団子の中の具。
あんこの餡の中に、おっきな具が入ってる。
「これ、里芋の煮っころがしじゃない!
おばあちゃん、間違えて月見団子の材料に、
芋の煮っころがしを混ぜちゃったんだ。」
田辺子はそこでようやく、
自分が月見団子の味見をするのを忘れていたことに気が付いた。
どうやら田辺子が学校に行っている間に、
おばあちゃんが間違えて里芋の煮っころがしを、
月見団子の材料に混ぜてしまったらしい。
冷や汗が田辺子の頬をタラーっと流れた。
とんでもない失態。失敗作をクラスメイトたちに食べさせてしまった。
「どうしよう。みんなゴメン。これ、おばあちゃんが間違えて・・・」
すると田辺子の謝罪を阻止するように、クラスメイトたちが声を上げた。
「善部さん、この月見団子、すごく美味しいよ!」
「これを売り物にしないなんて勿体ない!」
「売ってない物を食べられて、わたしたちはラッキーだね!」
大好評だった。
田辺子とおばあちゃんが作った、里芋の煮っころがし団子は、
クラスメイトたちに大好評。みんなが喜んでくれていた。
試しに田辺子ももう一度ちゃん味わって、月見団子を食べてみた。
すると、家でよく食べる里芋の煮っころがしの味が、
団子の中のあんこと合わさって蕩けるような食感を与える。
そこに里芋が具として絶妙に合わさっている。
言われてみれば、美味しいと言えなくもない。
いや、美味しい。
「・・・本当だ、これ意外といけるかも。」
里芋の煮っころがし月見団子が起爆剤となって、
クラスのお月見会は大盛り上がり。
月見団子も大好評のうちに幕を閉じたのだった。
学校のお月見会は大盛況のうちに終わった。
田辺子は家に帰ると、早速、おばあちゃんや両親に、
里芋の煮っころがし月見団子のことを報告した。
「月見団子に、里芋の煮っころがしを混ぜたって!?」
父親は仰天していた。
しかしそれが大盛況だったと分かると、態度を一変させた。
「そうか。好評だったのか。じゃあ店でも売ってみるか?」
こうして田辺子とおばあちゃん考案の、里芋の煮っころがし団子は、
正式に売り物として店に並べられることとなった。
店でも大盛況!・・・のはずが、売れ行きはいまいちだった。
店主である父親も、味見の時点ではあまり乗り気ではなかった。
理由をあれこれと考えたのだが、原因ははっきりしなかった。
これは推測なのだが、どうもお月見会の飲み物に、
ある種の特別な飲み物を持ち込んだものがいたらしい。
なぜなら、里芋の煮っころがし団子を何度も買ってくれるおじいさん曰く。
「こいつはなぁ、日本酒とよく合うんだよ。ガハハ!」
くれぐれも、食べ物と飲み物には気をつけようと思う田辺子であった。
終わり。
中秋の名月の時期だったので、十五夜のお月見の話にしました。
大賑わいのお花見と違って、ちょっと地味な十五夜のお月見。
時間が夜だからでしょうか?それとも月が一つしか無いからでしょうか?
ちゃんとした準備をすれば、
お月見にも十分楽しい行事になる余地があると思います。
いつか十五夜も一大イベントになるかもと思います。
お読み頂きありがとうございました。




