最終章 十八回目
最終章 十八回目
王城侍女勤務日誌
記録者:侍女リナ
【26日目 深夜】
王都は混乱している。
魔王軍が来ている。
兵士が走り回り、鐘が鳴り続けている。
でも。
おかしい。
勇者様は魔王城に向かったはずだ。
なのに。
どうして魔王軍が王都に来るのだろう。
私は勇者様のノートをもう一度開いた。
ページをめくる。
一回目。
二回目。
三回目。
全部、似た内容だった。
魔王討伐。
戦争。
そして――
世界の終わり。
ページの最後には、毎回同じ文章が書かれていた。
「魔王を倒した」
「だが世界は戻った」
私は次のページをめくった。
十七回目。
そこには、少し長い文章が書かれていた。
「十七回目」
「やっと分かった」
「原因は魔王じゃない」
私は息を止めた。
続きを読んだ。
「世界が戻るのは、あいつのせいだ」
その下には。
たった一行。
「侍女 リナ」
頭の中が真っ白になった。
どういう意味?
私は?
私はただの侍女だ。
何もしていない。
ノートの最後のページを見た。
そこにはこう書いてあった。
「十八回目」
その下に。
まだ乾いていないインクで。
新しい文章が書かれていた。
「今回こそ終わらせる」
「リナを殺す」
その瞬間。
部屋の扉が開いた。
勇者様だった。
鎧は汚れていた。
血もついていた。
まるで戦場から帰ってきたみたいだった。
でも。
出発してまだ半日だ。
勇者様は私を見た。
そして。
とても疲れた顔で笑った。
「やっぱり読んだんだね」
私は声を出せなかった。
勇者様はゆっくり部屋に入ってきた。
「ごめんね」
勇者様は言った。
「君が悪いわけじゃない」
私は震えながら言った。
「どういう意味ですか」
勇者様は静かに答えた。
「君が死ぬと」
私は動けなかった。
「世界は戻らない」
頭が理解を拒んだ。
「最初の世界で偶然分かった」
勇者様は言った。
「君が死んだときだけ」
「時間は巻き戻らなかった」
勇者様は続けた。
「でも」
「僕はそのとき死んでた」
部屋の空気が冷たくなった。
勇者様は剣を抜いた。
「だから試してる」
声はとても静かだった。
「十七回」
「君を殺さない世界を作ろうとして」
勇者様の目は。
とても疲れていた。
「でも」
「全部失敗した」
私は震えながら聞いた。
「じゃあ……今回は」
勇者様は答えた。
「終わらせる」
剣がゆっくり持ち上がった。
「ごめん」
最後に。
勇者様はこう言った。
「君は毎回、最初に僕を信じてくれるから」
日誌はここで終わっている。
王城記録庫の調査によれば。
この日誌は、王暦437年の侍女リナの部屋から発見された。
しかし。
奇妙なことが一つある。
同じ日誌が。
王城の別の場所からも。
何冊も見つかっている。
一冊目の最後のページにはこう書かれている。
「一回目」
そして。
一番新しい日誌の最後には。
こう書かれていた。
「十八回目」
その次のページには。
まだ何も書かれていない。
ただ。
ページの上に。
小さく文字が残っている。
「十九回目」
(終)
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