第四章 出発
第四章 出発
王城侍女勤務日誌
記録者:侍女リナ
【26日目】
今日、勇者様が魔王討伐に出発する。
王城は朝から騒がしい。
兵士たちが整列し、王様が演説をし、鐘が鳴る。
街の人たちも城門の前に集まっている。
英雄の出発。
本来なら、とても誇らしい日なのだろう。
でも私は。
少しだけ怖かった。
勇者様はこの結末を知っている。
そう思うと。
全部が、芝居みたいに見えてしまう。
【出発前】
勇者様の部屋を掃除していた。
部屋は驚くほど整っている。
荷物もほとんどない。
まるで。
すぐ戻る人みたいだ。
机の上に、一枚の紙があった。
地図だった。
魔王城までの道。
でも。
そこには奇妙な印がついていた。
城でも、村でも、戦場でもない。
王城の庭。
桜の木の場所だった。
【出発直前】
勇者様は鎧を着ていた。
私は最後にマントを整えた。
勇者様は言った。
「ありがとう」
「いえ」
少し沈黙があった。
それから勇者様は言った。
「今回も同じだね」
私は聞いた。
「何がですか?」
勇者様は少し笑った。
「君が最後にここにいること」
【城門】
勇者様は馬に乗る前に、私の方を見た。
「リナ」
「はい」
「もしまた最初からになったら」
胸が少し苦しくなった。
勇者様は言った。
「また会えるかな」
私は答えた。
「……侍女ですから」
勇者様は笑った。
「そうだね」
【出発】
勇者様は王城を出ていった。
兵士たちの歓声。
王様の祝福。
鐘の音。
全部が遠くに聞こえた。
私はただ、城門を見ていた。
勇者様の背中が小さくなるまで。
【その日の夜】
私は勇者様の部屋を片付けていた。
もう使われない部屋。
そう思うと、少し寂しかった。
机の引き出しを整理していたとき。
一冊のノートを見つけた。
古い。
とても古い。
表紙には何も書いていない。
私は少し迷った。
でも。
開いた。
最初のページにはこう書いてあった。
「一回目」
その下には文章があった。
勇者様の字だった。
二ページ目。
「二回目」
三ページ目。
「三回目」
ページはどんどん続いていた。
十回目。
十一回目。
十二回目。
そして。
十七回目。
私は気づいた。
これは。
勇者様の記録だ。
世界を繰り返した記録。
そして。
ページの最後。
まだ書かれていないページに。
一行だけ文字があった。
「今回こそ終わらせる」
私は急に寒くなった。
勇者様は言っていた。
魔王を倒すと。
世界が戻る。
じゃあ。
「終わらせる」って。
どういう意味だろう。
そのとき。
城の鐘が鳴った。
夜の鐘ではない。
警鐘だった。
兵士の声が聞こえた。
城の外から。
「魔王軍だ!!」
私は窓に走った。
遠くの空が赤かった。
魔王軍が。
王都に来ている。
勇者様は。
まだ魔王城に着いていないはずなのに。
(最終章へ続く)




