第三章 十七回目
第三章 十七回目
王城侍女勤務日誌
記録者:侍女リナ
【16日目】
勇者様が「十七回目」と言った日から、私は少し眠れなくなった。
同じ人生を繰り返している。
そんなことがあるのだろうか。
でも、思い返すと。
王様が転んだこと。
南門が壊れたこと。
雨のこと。
全部当たっている。
偶然では説明できない。
【17日目】
今日、勇者様にもう一度聞いた。
「本当に、世界を繰り返しているんですか?」
勇者様は紅茶を飲みながら言った。
「うん」
まるで、天気の話をするみたいに。
「どうして?」
私は聞いた。
勇者様は少し考えた。
「分からない」
「分からない?」
「魔王を倒すと、時間が戻る」
私は言葉を失った。
勇者様は続けた。
「最初は驚いたよ」
「でしょうね……」
「でも、慣れる」
その言い方が怖かった。
【18日目】
勇者様は、過去の“世界”の話をしてくれた。
最初の世界では、戦争で王都が焼けたらしい。
二回目の世界では、勇者様が死んだ。
三回目の世界では、魔王が勝った。
「色々あったよ」
勇者様はそう言って笑った。
でもその笑顔は、疲れていた。
とても。
【19日目】
私は聞いた。
「じゃあ、今回も魔王を倒すんですか?」
勇者様は少し黙った。
それから言った。
「うん」
「そうしないと終わらないから」
終わらない。
その言葉が、妙に重く聞こえた。
【20日目】
最近、勇者様は私によく話しかける。
どうでもいいこと。
料理の話。
城の噂。
侍女長の怖さ。
でも。
時々、変なことを言う。
「この会話、前にもした」
とか。
「君は次に笑う」
とか。
本当に、その通りになる。
【21日目】
今日は勇者様が少しお酒を飲んでいた。
珍しい。
勇者様は私に言った。
「ねえ、リナ」
「はい」
「君は変わらないね」
私は首をかしげた。
「何がですか?」
勇者様は少し笑った。
「全部」
意味が分からない。
【22日目】
今日、勇者様は突然言った。
「知ってる?」
「何をですか?」
「君、毎回同じ日に同じ質問をする」
私は固まった。
「毎回?」
勇者様はうなずいた。
「今日のこの質問も、前に聞いた」
背中が冷たくなった。
「じゃあ……」
私は聞いた。
「私は、同じことを繰り返しているんですか?」
勇者様は答えた。
「うん」
「たぶん世界が戻ると、みんな元に戻る」
みんな。
つまり。
勇者様以外。
【23日目】
私は聞いた。
「じゃあ勇者様だけ覚えてるんですか?」
勇者様は言った。
「そう」
少し笑って。
「だから僕だけ疲れてる」
その言葉が、胸に刺さった。
【24日目】
今日は勇者様が城の庭で昼寝をしていた。
桜の木の下。
私はそっと毛布をかけた。
勇者様は寝言を言った。
「……もういいだろ」
その声は。
とても。
とても疲れていた。
【25日目】
魔王討伐の日が近い。
城の空気が変わってきた。
兵士たちは武器を整えている。
王様は作戦会議をしている。
でも。
勇者様は。
まるで。
結末を知っている人みたいに落ち着いている。
そして今日。
勇者様は私に言った。
「リナ」
「はい」
「もし世界がまた戻ったら」
私は息を止めた。
勇者様は言った。
「また侍女やってる?」
私は答えられなかった。
(第四章へ続く)




