第二章 繰り返し
第二章 繰り返し
王城侍女勤務日誌
記録者:侍女リナ
【8日目】
最近、勇者様を見るのが少し怖い。
でも同時に、気になってしまう。
今日、勇者様は城の地図を見ていた。
古い地図だ。王城が建てられたときのものらしい。
私は聞いた。
「何を調べているんですか?」
勇者様は答えた。
「地下通路」
「地下通路?」
勇者様は地図の一点を指さした。
「ここにあるはずなんだ」
そこは、今は倉庫になっている場所だった。
「あるはずって……」
勇者様は少し困った顔をした。
「前はあったんだけど」
またそれだ。
“前”。
私はつい聞いてしまった。
「勇者様は、この城に来たことがあるんですか?」
勇者様は答えなかった。
代わりにこう言った。
「リナ」
私の名前だった。
教えた覚えはない。
「どうして私の名前を」
勇者様は目を伏せた。
「……ごめん」
【9日目】
勇者様は、私のことをよく知っている。
好きな紅茶。
朝が苦手なこと。
侍女長が怖いこと。
全部知っていた。
おかしい。
会ってまだ九日なのに。
【10日目】
今日はもっと変なことがあった。
勇者様は突然言った。
「今日は雨が降る」
空は快晴だった。
雲もない。
でも。
夕方、突然雨が降った。
春の嵐だった。
私はもう偶然だとは思えなくなっていた。
【11日目】
今日、勇者様は魔王の話をした。
私は聞いた。
「魔王って、どんな人なんですか?」
勇者様は少し考えた。
それから言った。
「……優しい人」
私は思わず笑ってしまった。
「魔王ですよ?」
勇者様も少し笑った。
「そうだね」
でもその笑い方は、どこか寂しそうだった。
【12日目】
勇者様はまた独り言を言っていた。
「今回は早いな」
とか
「まだここか」
とか。
まるで。
台本を確認しているみたいだった。
【13日目】
今日、私はついに聞いた。
ずっと気になっていたことを。
勇者様の部屋で紅茶を出したときだ。
私は言った。
「勇者様」
「うん?」
「前って、何ですか?」
勇者様は何も言わなかった。
私は続けた。
「前から来たとか、前に見たとか、毎回とか」
勇者様は窓の外を見ていた。
しばらく沈黙が続いた。
それから。
勇者様は小さな声で言った。
「……もし」
「はい」
「もし、同じ人生を何回も繰り返している人がいたら」
私は言った。
「それは……」
言葉が出なかった。
勇者様は続けた。
「君は信じる?」
私は正直に答えた。
「分かりません」
勇者様は少し笑った。
「だよね」
そして。
とても静かな声で言った。
「僕はね」
「はい」
「この世界を、もう何度も見てる」
私は何も言えなかった。
【14日目】
勇者様は今日、魔王討伐の準備をしていた。
剣の手入れ。
鎧の確認。
王城は少し騒がしくなっている。
戦争が始まるらしい。
でも。
勇者様はあまり緊張していない。
むしろ。
慣れているように見える。
まるで。
何度も経験しているみたいに。
【15日目】
私は勇者様に聞いた。
「何回目ですか?」
勇者様は一瞬止まった。
そして笑った。
「……それ、聞く?」
「はい」
勇者様は少し考えた。
それから言った。
「多分」
私は息を止めた。
勇者様は言った。
「十七回目」
その瞬間。
なぜか分からないけど。
背中が少し寒くなった。
(第三章へ続く)




