表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪で断罪された悪役令嬢、ハンマー片手に辺境で『魔法鍛冶屋』はじめます!  作者: 秋月 もみじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第10話 最強の夫婦、誕生


カンッ、カンッ、カンッ!


小気味よい音が、朝の光の中に響く。

私の結婚式の朝は、ハンマーの音で始まった。


「……よし、微調整完了」


私は額の汗を拭い、目の前の「作品」を満足げに見つめた。

それは、純白のウェディングドレス。

ただし、ただのドレスではない。


生地の裏地に、極細のミスリルワイヤーを編み込んである。

コルセット部分は、衝撃吸収用の魔獣レザーと強化フレームの積層構造。

名付けて『対・破壊神抱擁用ドレス(あすのよめ)』。


これさえあれば、感極まったギルバート様が全力で抱きしめてきても、私の肋骨は守られる。

完璧な設計だ。


「セシリア! まだ準備中か!? もう客が来てるぞ!」


工房の外から、副団長の声がする。

私は慌てて作業エプロンを脱ぎ、そのドレスへと袖を通した。



「……どう、でしょうか」


準備を整え、私は工房の外へ出た。

待っていたギルバート様が、息を呑む気配がした。


今日の彼は、いつもの黒い鎧ではない。

純白のタキシード姿だ。

ただし、サイズが規格外なので特注品だが、広い肩幅と厚い胸板が強調され、恐ろしく似合っている。

普段の「狂犬」のような迫力は鳴りを潜め、今日は大型犬のような落ち着き……いや、緊張で固まっているだけか。


「……綺麗だ」


彼が絞り出すように言った。

その金色の瞳が、熱っぽく私を見つめている。


「夢を見ているようだ。……触れたら、消えてしまいそうで怖い」


彼が大きな手を、恐る恐る伸ばしてくる。

指先が震えている。

まだ、自分の力を恐れているのだ。

大切な今日という日に、大切な私を壊してしまうのではないかと。


私はためらわず、その手を取った。


「消えませんし、壊れませんよ」


私はニカッと笑った。

淑女の微笑みではない。

職人の、自信に満ちた笑顔で。


「私の最高傑作ドレスを信じてください。貴方の全力くらい、余裕で受け止めてみせますから」


「……ああ。そうだったな」


彼も笑った。

いつもの、不器用で愛おしい笑顔が戻ってきた。



式場――といっても、私の工房の前庭だが――は、人で溢れかえっていた。


「団長ー! おめでとうございまーす!」

「姉御ー! 綺麗だぞー!」

「セシリアちゃん、幸せにおなりよ!」


黒竜騎士団の面々。

市場のおばあちゃん。

行商人の一団。

そして、かつては廃村だったこの場所に住み着いた、新しい職人や住人たち。


王都の豪華なパーティーとは違う。

ドレスコードもない、堅苦しい挨拶もない。

ただ、温かい祝福と、美味しい酒と料理があるだけの、最高の式だ。


神父役は、なぜか辺境伯(ギルバート様のお兄様)が務めていた。

「弟の調教……いや、手綱を握れるのは君しかいない」と、涙ながらに感謝されたのは記憶に新しい。


誓いの言葉はシンプルだった。


「病める時も、健やかなる時も。……武器が折れた時も、炉の火が消えそうな時も。互いに助け合い、支え合うことを誓いますか?」


「誓います」

「誓います」


型破りな文言だが、私たちにはぴったりだ。


そして、披露宴のメインイベント。

ウェディングケーキ入刀だ。


運ばれてきたのは、三段重ねの巨大なケーキ。

市場のお菓子職人と、リノベーションしたパン屋が協力して作った超大作だ。

高さは私の身長ほどもある。


「さあ、お二人でナイフを!」


司会者が促すが、私たちは顔を見合わせた。

ナイフ?

そんな華奢なもので、この二人の共同作業が務まるわけがない。


ギルバート様が、背中から『黒牙』を抜いた。

漆黒の刀身が、陽光を吸い込んで輝く。

私が彼のために打ち、彼が私のために振るった、魂の剣。


「……やるか、セシリア」


「ええ、やりましょう」


私は彼の手の上から、剣の柄を握った。

彼の手は大きく、温かい。

私の手は小さく、タコだらけだ。

でも、重なり合うと驚くほどしっくりくる。


「せーの!」


ヒュンッ!!


一閃。

ケーキ入刀というより、一刀両断。

『黒牙』はクリームの抵抗などものともせず、台座ごとケーキを真っ二つにした。

衝撃波でクリームが少し舞う。


「おおおおおおっ!!」

「すげぇ切れ味だ!」

「縁起がいいぞ!」


歓声と拍手が沸き起こる。

普通なら「乱暴だ」と引かれるところだろう。

でも、ここではこれが正解だ。

力強く、豪快に、道を切り開く。

それが私たちのスタイルなのだから。



宴もたけなわ。

夕暮れ時、私たちは二人きりで工房の屋根に上っていた。

ここからは、復興した街の灯りと、遠くに広がる雄大な森が見渡せる。


「……夢のようだ」


ギルバート様が呟く。

彼はグラスを傾けながら、幸せそうに目を細めた。


「俺は、一生一人で戦って、誰にも触れられずに死ぬんだと思っていた。……こんな風に、誰かと肩を並べて笑える日が来るなんて」


「私もです」


私はドレスの裾を直し、夜風を感じた。


「無能と呼ばれて、政略の駒にされて。……自分の価値なんて、家柄だけだと思っていました」


でも、違った。

ハンマーを握ったあの日。

ファングボアを殴り飛ばしたあの日。

そして、この人と出会った日。


全ての「失敗」や「不幸」に見えた出来事が、私をここへ導いてくれた。

鉄を叩いて形を変えるように、人生もまた、自分の手で叩き直せるのだ。


「セシリア」


ギルバート様が私に向き直る。

そして、ポケットから小さな箱を取り出した。

指輪だ。


ただし、宝石店で売っているような繊細なものではない。

銀色に輝く、ミスリルの指輪。

デザインは無骨だが、表面には美しい彫刻が施されている。


「……これ」


「俺が作った」


彼が顔を赤くして言った。


「君に教えてもらって、こっそりとな。……繊細な細工は無理だったが、強度は保証する。絶対に壊れないし、傷つかない」


職人としては、まだまだ粗削りだ。

厚みは不均一だし、少し歪んでいる。

でも。


「……最高です」


私が今まで見たどんな宝飾品よりも、美しく見えた。

私は左手を差し出す。

彼が震える手で、薬指にそれをめる。

サイズはぴったりだった。


「一生、大切にします」


「ああ。俺も、君を一生守り抜く」


彼は私を引き寄せた。

今度は、ためらいなく。

強く、力強く。


私の『対・破壊神ドレス』のミスリルワイヤーが、ミシミシと音を立てる。

普通の人間なら肋骨が折れている威力だ。

でも、今の私には心地いい。


「……ちょっと、苦しいです」


「我慢しろ。……幸せすぎて、加減ができそうにない」


「仕方ないですね」


私は彼の背中に腕を回し、同じくらいの力で抱きしめ返した。

私の魔力循環ボディも、伊達ではない。


「覚悟してくださいね、あなた。これからは、壊れたら直すだけでなく、壊れない家庭を作らなきゃいけないんですから」


「望むところだ。……俺たちなら、最強の家庭が作れるさ」


二人の影が重なる。

工房からは、まだ宴の賑やかな音が聞こえている。

炉の火は消えていない。

私たちの情熱も、きっと消えることはないだろう。


元悪役令嬢と、破壊神の騎士。

不器用で、力持ちで、ものづくりが大好きな二人の物語は、ここからが本番だ。


「さて、明日は何の依頼が来るかしら」


「ドラゴンの鱗で鍋を作ってくれと言われていたな」


「ふふ、腕が鳴りますね」


私たちは笑い合い、そして長く、甘いキスを交わした。

夜空には、満天の星。

まるで、炉から飛び散る火花のように、私たちの未来を祝福して輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます ランキングからきました ぐんぐん読めました(*^^)v 素晴らしいお話だと思いました(*^^)v 自分を信じて自分を信じてもらえる場所で生きる なんの根拠もない薄っぺらいプラ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ