第54話 ダメダメじゃん
内陸と『ブルーム』を繋ぐ連絡路。
横幅20メートル、距離5キロと言う通路は、多くの往来によって踏みしめられてきた。
『帝国』により、内陸との接続付近は破壊されたものの、樽と板で簡易的な橋渡しを可能としている。
「随分と下がりましたね」
不安定な樽上の板から、確かな足場を踏みしめたのは序列6位【古鉄】アルト・アイアン。彼女は退却した『帝国』兵士たちへ冷ややかな視線を送りつつ呟く。
「“騎士”たちよ――」
その言葉を呼応する様に鋼鉄の鎧に身を包んだ“騎士”が無数に現れた。
使い魔“鋼鉄の騎士”はアルトの背後に隊列を組むように出現。巨大な盾を持つ騎士が最前列に現れ、後ろの騎士達は腰の剣を抜く。そのまま眼前に立てる様に持ち上げ、切っ先を上に向けた。
「前進」
アルトは杖の持ち手を前方に掲げるようにそう告げると、“鋼鉄の騎士”達は連絡路を占領する様に横並びに隊列を組み、一糸乱れぬ行進を始めた。
「近づく者は切り払いなさい」
アルトの命令を聞き入れた“鋼鉄の騎士”45体は重々しく地面を踏みしめる。これらは隊列をそのままに鉄の壁なのだ。近寄れば攻撃してくる壁。ソレが止まることなく前進し、退却した『帝国』兵士達へ迫って行く。
「アルトのヤツもマジじゃーん」
45体の“鋼鉄の騎士”による行進。その様子を連絡路の横に停泊した4番艦のブリッジ上で眺めるのはネールだった。
彼女は“雷撃”にて4番艦にメルトダウンを引き起こしたものの、船員たちから網や小麦粉を投げられ、怯んだ隙に船内へ逃げられてしまった。
「こんなんでラシル様がやられるとは思えないけどねー。ったくもー」
ネールは苛立ちながら頭や肩に被った小麦粉を払う。
扉はガッチリして開かず、イラつきのままに“雷撃”にて殴ったが、凹むだけで壊れる気配はない。
とりあえずブリッジの硝子壁でも破壊しようと思ったが、その時にアルトが進撃を始めたのだ。
「突破はアルトに任せれば良いか。ウチは手強そうなヤツの相手だね」
更に連絡路の内陸側にはラディアが座って様子を眺めている。
コレあいつら詰みだろー、とネールは『ブルーム』側の連絡路を独自の視力で眺めた。
「進むのは遅いけど、まぁ確実に詰めてるねー。ホント、見てて堅っ苦しい様だこと」
アルトが確実に敵を殲滅し、ネールは“鋼鉄の騎士”では手に余る敵を叩く。
ラディアの指示は単純な力押しでシンプルながらも、アルトとネールの特性を考えればこれ以上にない戦術であった。
「遅っそー。見てて眠くなるなぁ」
ネールは単独での突撃は許可されていなかった。
理由はネムリアが捕縛したハンニバル達より押収した『記録石』の情報を見たからだ。
『帝国』の兵器による脅威を見た上でのラディアの采配。特に4番艦の無力化はネール以外では手を焼いていた。結果として敵の戦力を大きく削ぐ事になっている。
「ったく……小麦粉投げて来やがってよ。ぜってー、引きずり出してやる」
船員たちに逃げられた時の事を思い出し、苛立ちが蘇る。ネールの感情を呼応する様に静電気がバチバチと弾けた。
その時、『科学戦隊』のミヨが、ネールの背後を取るように奇襲。ブレードの横薙ぎにて彼女の首を狙う。
「お?」
刃が首筋に触れ、切り込みを僅かに入れた瞬間、ジチ……とネールの姿が消えた。
「!?」
ネールは振り抜かれたブレードの外側で呆れると、ミヨが着地する前に、ジチチッと音を立て、振り抜いたブレードの内側へ入り込む。
「なんだ、女かぁ」
ヨミの脇腹へ、その身体をくの字に折り曲げる威力の肘打ちが叩き込まれる。それは打撃だけではなく、発生する電流も身体を貫いた。
「興味なし。ん?」
「ッ……」
ミヨは数回跳ねながら吹き飛ばされたが、背中の跳躍補助の『Aエンジン』を操作して姿勢を整えるとブリッジ屋根から落ちずに耐えしのぐ。
「へー、並の魔物なら今ので中身焼かれてぶっ倒れるのに、無事なのはその背中の金属のおかげ? なんか吹っ飛びながら変な感じで跳ねてたし」
「…………」
ミヨはネールを観察する。
こちらが一呼吸動く際に、彼女は二度動いた。マスカレードの戦士達のように武術的な洗練は感じられない。となれば……単純に生物としての速度が速い……
「炎の魔女とは随分と違う……」
あちらは炎そのものが攻撃してきた。しかし、ネールは自らの肉体そのものを行使する魔女であると分析する。それならば、こちらの武器は通るハズだ。
「丁度いいや。暇つぶしさせて貰うよん」
ジチチチ……とネールはミヨを見ながら笑い、帯電を始める。
「ウチは序列7位【雷鳴】ネール・オラージュ。あんたは?」
「…………」
「名前も明かせないくらい自信が無いかー。まぁ、ウチか相手じゃしょうがないねー」
「……ミヨルド・サッシャー」
ミヨはブレードを油断なく構える。
「おっけー、おっけー、ミヨルドね」
と、一呼吸置いた次の瞬間――ミヨはネールの拳を身体に叩き込まれていた。
それと同時に炸裂する電撃。装備の持つ避雷耐性を大きく上回る一撃にヨミの意識は途絶える。そのまま吹き飛ぶ身体は連絡路へ落ちると、勢い止まらず跳ねて反対側の海へ落ち、沈んで行った。
ゴオォン――と落雷の音が響き渡る。
「コレに反応できないとかダメダメじゃん。やっぱ女は駄目だな」
ネールの中で『帝国』への期待値が下がりつつ、“鋼鉄の騎士”が進行する『ブルーム』側の出口に視線を送った。




