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魔導軍師ハンニバル  作者: 古河新後


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第48話 歴史に加わる記述

 ハンニバル・K・バルカ。

 【軍神】マーリン・K・マクリエルの一人弟子。彼女の持つノウハウを正式に引き継いだとされ、それは【軍神】も含まれる。

 【海神】【魔拳神】【軍神】は世界における最も価値を証明する“三称号”だった。ソレを名乗る者は絶えず、歴史に大きな影響を与えてきた故に、その存在は決して無視できない。

 その三者が一度に介した戦いはこれまで、たった一つだけだった。


 世界を二分する西と東の戦争。


 そして、上記の戦争から約200年後。『帝国』の歴史には下記の様な記述が刻まれる。


“『帝国』と『魔女の国(ミステリス)』の戦争において“三称号”が再び介する”

“【軍神】の指揮する『魔女の国』は『帝国』との戦争に――”






「何だ……」

「ハンニバル? あのハンニバルか?」

「何かのジョークだろ?」


 命令通りに周囲を警戒しつつも、兵士達には動揺が生まれていた。

 ハンニバル・K・バルカは帝国でも、義務教育の歴史で習う英雄である。

 最も『帝国』を追い詰めた存在であり、西と東の戦争でハンニバルが最後まで残っていれば、世界の版図は今とは違っていただろうと言われていた。


 無論、そんな逸話があるモノだからハンニバルの名を偽った者も度々出てくる。


 故に彼らにとって、目の前の脅威は“リタ”の方だった。だからこそソレから銃口を外す命令を下すなど、到底考えられない。しかし、ソレはハンニバルを知らないから(・・・・・・)こその思考である。


 彼らは知らない。【軍神】が敵に見える位置に現れる意味を――


『相変わらずだな、【海神】の爺さんよ。もう少しだけ視線をウチのエースに向けてくれてたら、そっちの戦力は全部“空と海”に喰わせて(・・・・)やったのによ』


 通信機器から流れる軽口の様なハンニバルの言葉にリアンは艦の司令室へ走る。


 空と海……ヤツは『魔女』を使役してる。あの『烏』と『リヴァイアサン』でも召喚するつもりか!?


 リアンが司令室へ移動する間も通信は続く。今度は返事をする様にガンズの声が響いた。


『ハンニバル。昔に比べて、そっちの層は大分薄そうだな』

『ハハハ。だから、この作戦が一世一代だったんだがな。海に警戒を向けられたんじゃ効果は薄い。頭を叩こうにも爺さんの艦は沖合だし』

『戦場は常に俯瞰している。特に海でお前に敗れたあの時から、ワシは本当の意味で【海神】となった』

『だから、負けた(・・・)爺さんとは再戦したく無ぇんだよ。前よりも手間がかかりそうだからな』


 世間話に見える両者の会話。兵たちもこれ程に感情を乗せたガンズの口調は始めて聞いた。


『ハンニバル。帝国に帰順しろ』


 ガンズはハンニバルに告げる。


『お前の力はこんな島国には必要ない。この場で白旗を上げるなら、ワシの権限で可能な限りお前に恩赦を与える』

『ハハハ。魅力的な誘いだ。ちょっと条件を釣り上げて良いか?』

『聞くだけ聞こう』

『この国から手を引け』


 それは全ての軍事行動を止め、『ミステリス』から『帝国』を撤退させる事を意味していた。


『それは出来ん。『魔女』の脅威を知ってしまったのでな。故に全て『帝国』の管理下に置く』


 揺るがないガンズの宣言に兵士達の士気は湧き上がる。


『蜂の巣は突かなきゃ攻撃されないぜ?』

『全ての“蜂”を落とすつもりで来たのだ。それに、こちらにも既に死者が出ている。このまま引き下がるつもりはない』


 ガンズの強い意志に兵士達も同調した。


『なら仕方ねぇ。戦争は継続だ。オレの中で続いてる『帝国』との戦争はコレで終わりにするぜ』


 その時、ラシルの屋敷の背後から“スプリガン”が山の如く顔を出す。


『容赦は要らねぇよな?』





「『巨人』!? 馬鹿な! あの男といい……連絡路の警備兵は何をしている!?」


 1番艦の副官は沖合からでも巨大に見える“スプリガン”を見て苦悶を漏らす。

 通信はハンニバルに占拠されている為、連絡路側との通信が出来ない。


「ハンニバル、兵を踏み潰すつもりか?」

『爺さん以外はオレの手の平の上だ。読み切れるなら攻撃命令を出せばいい。ただし、一手損なうと爺さん以外はオレに握りつぶされるぜ』


 手の平をかざす様に前に出すハンニバルは、その場で握って見せた。





「――――」

「ラシル。早まるなよ」


 ハンニバルにも制する必要のある者が居た。

 ラシルは“スプリガン”の肩から『ブルーム』を俯瞰して怒りを押し殺している。

 壊れた港以外に街並みは何も変わってない。だからこそ、そこを平然と生活環境に置いている『帝国』兵士達に怒りが湧くのだ。

 この街は……先祖代々、民と共に暮らして来た故郷だ。それを……皆殺しにして、のうのうと我が物で占拠している様に握る拳から血が流れ出る。


「……モナ、急げ」


 兵士達の注意は自分と“スプリガン”に向いている。その間に、


「リタ」


 “リタ”とキャスの元へ透明化した“麒麟”に乗ったモナが辿り着いていた。


「リタ、退却するわ。今の状態を解いて」

「…………」


 モナは“リタ”に告げるが彼女からの言葉は無い。その姿は殆ど炎の様であり、表情もわからない。

 すると、モナが側に居ると察したのかキャスを護る熱を解く。


「キャスヲ……ツレテッテ……」


 モナは“麒麟”に触れたまま、キャスに抱える。透明の恩恵を受けて、その姿は消えた。


「貴女もよ」

「ワタシハ……モウ……ムリダカラ……」


 “リタ”はもう、自分が元に戻れない事を理解していた。

 使い魔(イフリート)との融合。それが、ここまでキャスを護った力の正体であり、その異常なまでの力の行使に必要なのは“命”だと理解していた。


 そして、最後に顔を作ると“麒麟”に乗せられたキャスへ微笑む。


「アンタナラ……成レルヨ」


 序列1位に――


「モナ、行ッテ」

「……私たちは偉大な魔女、リタ・イフリートの事を絶対に忘れないわ」


 “麒麟”は駆ける。遠く離れていく“リタ”を僅かに意識を取り戻したキャスは微睡みに見た。


「リタ……さん……」






「ハンニバル。周りは粗方、退けた」

「おう、ご苦労さん」


 ハンニバルは密やかに屋敷へ回り込もうとする敵の兵士をミカと“バルバトス”に処理する様に告げていた。


「しかし、絶対に殺すな、とはどう言う事だ?」

「今、殺すと敵さんの“躊躇い”を無くしちまうからな。仇討ちは最も直線的な感情で、周りからの情報が入らなくなる」


 と、屋敷がミシ……と音を立てる。“スプリガン”が思わず力を入れたのだろう。


「ウチのは良く堪えてる方だ。モナが来たら――」

「なんじゃ? もう、帰るのかのう?」


 静かな風が流れたかと感じた時には、下から跳んできたガイダルがハンニバルの近くに着地していた。

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