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魔導軍師ハンニバル  作者: 古河新後


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第47話 よぉ、久しぶりだな

 【魔拳神】ガイダルが吹き飛ばされた。

 その光景を目の当たりにしても、帝国兵士達に動揺の色は無い。寧ろ場を整える時間と“リタ”の情報を得られた事をプラスとして、本来の運転に戻っただけだった。


『包囲網は変えるな』

『ガイダル様は無事だ。各小隊は退却を視野に入れ、深く布陣するな』

『『魔女』の動きを機微に察知せよ。危機的状態の時は各自の判断での退却を許可する』


 通信兵の無線でラグなしの情報が軍全体へ伝わり続ける。

 彼らの中に新兵は居ない。

 各々が国、市民、仲間を護る為に訓練と戦闘経験を十分に積んでいる。

 対する“リタ”は……


「…………」


 倒れているキャスの側へ歩み寄っただけで、動く気配は無かった。


『戦車に耐熱シートの展開完了』

『近くの隊員は耳に気をつけろ』

『配置を完了』

『照準を完了した車両より攻撃を開始せよ』


 ドン! と一両の戦車による砲撃が“リタ”へ向かって直進する。


『……なんだ?』

「…………」


 砲弾が消滅した。

 逸れたり外れたワケではない。砲弾は“リタ”への直撃コースであり、本来ならば形も残さずに粉々になるハズの一撃は――消滅(・・)したのだ。


『何が起こった?』

『確認! 確認! 溶解です!』


 状況を別角度から見ていた小隊より情報が伝わる。

 砲弾は“リタ”に触れた瞬間に、溶解し蒸発したのである。

 ソレはあまりにも不可解な現象。何故なら、それ程の熱量を宿しているのなら“リタ”の足下で気を失っているキャスは瞬く間に焼け死んでいるハズだ。

 だが、そんな事よりも兵士達の考えは、別の方へシフトする。


 攻撃が通らない。


 弾丸が通らないと言う事はコチラの攻撃は全て無効と言う事だ。その時、


『攻撃を続けたまえ』


 アンバーの声が全ての通信機器から響く。


『アレは本来の自然現象を大きく逸脱した状態であるが、ソレ故に使っている“燃料”は簡単に替えの利くモノではないハズだ。攻撃し、削り続けるのが最良だろう』


 科学的な観点からの助言に、銃を握る手が緩みかけた兵士達は再び引き金を握る。


『どちらにせよガイダル様がいる。あの方が戻るまで釘付けにするのが最適解。その方が弾も節約できるよ』

『総員! 攻撃開始! 火器を途切れさせるな!』


 距離を取り、“リタ”を扇状に包囲する兵士達は一斉に射撃を開始する。戦車も次弾を装填すると惜しみなく発射。

 その全ては“リタ”に触れた瞬間に、溶解し周囲へと散る。


「…………」


 “リタ”は戦車を薙ぎ払おうと腕をゆっくり持ち上げた。その瞬間、咄嗟にキャスを庇うように移動する。

 高い射角から、キャスを狙った狙撃兵の一射を阻止したのだ。


『倒れている『魔女』を庇う動きを見せた。総員、狙いは倒れている方だ』


 射線は“リタ”からキャスへ変わる。

 “リタ”はキャスの前に片膝を着き、両手を広げる様に扇状に自分の身体を崩して超高温の壁を展開。全ての射撃からキャスを護り続ける。


『攻撃に隙間を作るな』

『ガイダル様が戻って来る。それまで、集中砲火を続けよ』


 弾丸の雨、砲撃、狙撃による精密射撃。

 その全てからキャスを護る様に“リタ”は受け続ける。僅かでも攻撃に熱を使えば、その分護る熱が薄くなりキャスは瞬く間に蜂の巣にされるのだ。


「…………」


 3番艦の甲板から“リタ”が一身にキャスを護る様をリアンは始まりから今までずっと見ていた。


「銃を向け合いながら手は取り合えないわ。リタフ」


 恐怖を隣人には出来ない。

 3番艦の砲塔がゆっくりと“リタ”へと向けられる。足元に用意している通信機器より無線を取ると、全体を通達する。


「3番艦のリアンよ。砲撃を行うわ。砕ける破片と衝撃の余波に気をつけなさい」


 ガゴン。と砲塔に弾が装填される音が響き、リアンは耳栓を着けようとした所で――


『総員、攻撃を中止せよ』


 1番艦――ガンズの声で通信機器より響いてきた。その指示にリアンは一瞬、聞き違いかと疑う。

 恐らく全兵士がそうだった。故に、もう一度通信が入る。今度は1番艦の副官からだった。


『総員! 攻撃中止! 中止! 『魔女』を警戒しつつ、周囲を要警戒!』


 その時、ラシルの屋敷よりモウモウと、赤い信煙が立ち上り始める。ソレは帝国軍からすれば意図しない合図だ。


「!」


 『魔女』の別部隊!? あそこには……通信機器全体を中継するアンテナがある。制圧されたのか?


 リアンは通信機器より無線を取りガンズへ確認しようとしたその時、逆に通信が流れてくる。


『よぉ、久しぶりだな。【海神】の爺さん』






「死体が上がらんと思うたら」


 ガイダルは彼を見上げてクハッと笑う。


「やれやれ。あの時の声は聞き違いでは無かったみたいだね」


 アンバーは自分の聴力が衰えない事に笑う。


「そうとも……お前が下らぬ死を受け入れるハズがない!」


 思わず立ち上がったガンズは笑う。

 その船乗り特有の視力は――傍らに無線機器を置いてラシルの屋敷から全体を見下ろすように座る、その男を見ていた。


『まぁ知らんヤツも居るだろうから、改めて――』


 ざわめく兵士達へ答えを提示する様にその通信から告げられる。


『オレは【軍神】ハンニバル・K・バルカだ。よろしくな』

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