第46話 “リタ”VS神
温度差でソレの周囲は歪んで見えた。
『魔女』は殺せる。
進行し、沿岸部の版図を広げた帝国軍にとって『魔女』は少し特殊な動物を飼っている者達。
と言う認識が定着しつつあった。
脅威となるのは『巨人』と『飛行系』。その他の“使い魔”は装備で対応出来ない程ではない。なにより……操っている『魔女』を殺せば沈黙するのだから脅威にすらならない。
故に、目の前の炎の怪物を召喚する魔女も同じだった。本体を殺せば沈黙する――ハズなのだ。
「――――マジか……」
熱波を物陰に隠れてやり過ごした兵士は、唯一隠れきれなかった銃先が溶解している事に気がつく。
首と心臓を破壊しても生き返り、無造作の熱波は金属を溶形させる程の熱量を放ってきた。
アレは……自分たちと同じくくりの人間ではない……
『総員、魔女より更に距離を取れ!』
『熱波により、銃が故障した者は後方支援に回れ! 戦車は耐熱シートを展開! 後方退却まで熱波の壁として前に出ろ!』
佇む、リタだったモノより、兵士たちは距離を取る。
白く、フードコートに身を包んで佇むソレは炎が形作った様に存在が揺らめく。
完全なる同調。現在のリタはイフリートそのモノだった。
「良き良き。カッカッカ!」
ガイダルは笑う。そして、裸足の足をペタペタと鳴らしながら“リタ”へと近づく。
水分を枯らす程の熱を放ち続ける“リタ”の足下は焦げている中、ガイダルは適切な距離を置き、
「どれ――」
ボッ! と離れた間合いからの足刀。発生する威力による風圧で鎌鼬が生まれ、“リタ”の身体を縦に両断する。
兵士達は、おお! と声を上げるが、“リタ”の姿は揺らめくと炎のごとく間に元に戻った。
「これはどうじゃ?」
ガイダルはその場で中腰になる様に強く地面を踏みしめ、振動を地面に伝わらせると“リタ”の真下が炸裂する。
『遠当て』
吹き上がる瓦礫により、“リタ”の姿は揺らめくが、瓦礫と衝撃が止むと再び姿は元に戻った。
「カッカッカ! それでこそ、楽しめると言ったモノよ!」
今度は“リタ”が動く。
ゆっくり腕を上げると、指をガイダルに向けた瞬間――
「――――」
ゴゥ! と一瞬で火球が発生し、渦を巻く様にガイダルへ放たれる。
ガイダルはその場を、タンッ、と跳び、近くの建物の壁に両手両足で張り付く様に避ける。“リタ”は更に追撃。ガイダルは今度は地面へ向かって飛び離れ回避。
「熱ちち!」
「退避! 退避! 巻き添えになるぞ!」
ガイダルに周りを考慮する考えはない。
“リタ”の周りを回る様に上に下に、火球を避け続け――
「…………」
“リタ”の攻撃が止まった。
彼女と帝国兵達が見たのは、無数のガイダルである。
上へ下へ回避し、意識と視線を誘導。動くモノを捉えようとするが生物の習性を利用した視覚効果による誤認は、無数のガイダルを出現させていた。
普通の武芸者ではフェイントとなるのが関の山であるこの歩法は、ガイダルが使えば分身体となって見える程に、“リタ”を囲っている。
「カッカッカ。視ておるな?」
“リタ”が攻めあぐねている様子から、認識は眼に頼っているとガイダルは分析。
「!」
次の間には、至近距離に下から覗くようにガイダルが接近していた。“リタ”は咄嗟に腕を振って焼き斬る。ソレは誤認したガイダルだった。空を斬る様に透過し――
「カァ!!」
死角から放たれた至近距離の空掌により、ゾフッ! と“リタ”の身体は抉られる様に消失した。貫通した衝撃波は遅れて突風を生み出し、“リタ”を完全に吹き散らす。
ボゥ……と残り火が火の粉となり周囲に舞った。
周囲に生まれていた分身体が消える。
「ウォォォオオオ!!」
兵士たちが勝鬨を上げる。自分たちでは近づく事さえも困難だった『魔女』を討伐したガイダルを讃える声だった。
「――――カッカッカ」
しかし、ガイダルは笑う。まだ終わっていない事を本能が感じ取っている。
「――イフリート。焼キ尽クセ」
次の瞬間、ガイダルは大きく飛び離れていた。
熱により再び姿を成した“リタ”による、熱の塊を炸裂させるだけの広範囲衝撃波。避ける隙間が無ければいくらガイダルと言えど回避は出来ない。
故に、あえて大きく飛び離れたのだ。
「とっとっと――」
思ったよりも衝撃波の勢いが強かった為、飛び離れ距離を上長された。海面にて踏ん張るが背後に一番艦の気配を察知し、一度海面を蹴ってくるっと甲板に着地する。
「ガ、ガイダル様!?」
「邪魔するわい」
戦っていた港から、1番艦までは相当な距離がある。ガイダルは甲板の外柵に飛びつくように乗ると、“リタ”の様子を伺う。
「カッカッカ。実に良き良き」
「楽しんでいるか?」
ガンズが並ぶ様に側に立つと共に“リタ”を見る。
港の兵士達は戦車を前に連携しつつ、“リタ”に攻撃を仕掛けていた。
「楽しかったわい。ほいじゃ、終わらせて来るわ」
ガイダルはドンッ! と1番艦から跳び出すと、海面を走る。
港付近で急停止し、その勢いで海水を巻き上げて波止場を水で浸せば“リタ”は終わりだ。
「次なる強者を待つとするかのぅ」
港を射程距離に収めた、その時――――
「――――」
ガイダルの疾駆が止まった。海面に佇み、一点――ラシルの屋敷跡を見上げる。




